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第35話 ヴィルフリートとヴィー

風が吹いた。さわやかで優しいそれは、東屋で隣り合って座る青年と少女の髪を弄ぶかのように撫でていく。人間世界も妖精世界も、吹く風は同じなのだと思った。風は自由で、人が作り出した結界などものともせず、出たり入ったりを繰り返しているのだ。

 

きらきら光る深緑色の瞳が、まじまじと黒髪の青年の横顔を見つめている。

 

彼は、自身の生い立ちと、自分こそが十一年前にエルナに出会ったヴィーその人であるのだと言い、それで話を締めくくった。

それ以降の、婚約の儀式やスイレンのこと、彼がエルナへの思いを募らせた日々や、ついに国を飛び出した日に関しては話さなかった。

 

けれど、掻い摘んで語られたその話だけでも、エルナを戸惑わせるのには十分だった。


「では……」

自分でも驚くほど、絞り出した声は震えていた。


「ヴィ、ヴィルフリートさんが、ヴィーだと……そう仰るんですか?」

 

ヴィルフリートはゆっくりエルナを見下ろし、目を細めて笑みを浮かべた。

瑠璃色の瞳が、まっすぐエルナを見つめる。


「不満かい?」


「不満とかそういうのではなく、本当の、本当に、ヴィルフリートさんが、ヴィーなんですか?」


「それではダメ?」


「だから、そういうことを……」


そのとき、人の気配を感じて、ヴィルフリートはさっと小道に目を向けた。吊られてエルナも見る。

 

藍玉の間や謁見の間に通されるときに、先頭にいたあの若い騎士が、城の方から離宮に向けて歩いてくるのが見える。背筋を伸ばし、非の打ちどころのない見事な歩行である。

「迎えが来たようだね」

 

ヴィルフリートは立ち上がり、エルナの前に手を差し出す。

「さあ、行こう」

 

手を取らないエルナを見かねて、ヴィルフリートは少し屈むと、エルナの膝の上に置かれた手を(さら)うように掴んで、立ち上がらせる。


「続きはまた話そう」

 

ヴィルフリートは軽く笑って、歩き出した。ヴィーとは似ても似つかない黒い髪が、歩くたびにさらりと揺れた。


 

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