新年 【「お姉ちゃんを返せ!!」番外編】
「お姉ちゃんを返せ!!」の番外編で新年の一コマです。
本編はこちらです。https://ncode.syosetu.com/n1857hu/
この国では、新年は家族で集まってゆっくりと食事をするのが一般的だ。
そんな家族の集まりの場なはずなのに、ケヴィンはなぜか騎士団長家にいた。
目の前の食卓には、騎士団長の新妻が作った素朴だが温かい食事が何品も並んでいる。
そして、隣にはなぜかミシェルが座っている。
「いや、何で……?」
思わずそんな言葉が口から出た。
それを拾ったのは騎士団長の愛する新妻だ。
「どうしたの? 苦手ものがあったら無理しなくて良いからね」
「あ、いえ。何でも食べるんで大丈夫です……」
柔らかい声音で気遣われ、ケヴィンは首を横に緩く振った。
目の前の食事はどれも美味しそうで、成長期の少年にとっては今すぐにでも飛びつきたいほどのご馳走だ。
そう思っていると、隣から小さな手が伸びてきて、ケヴィンの皿にお手製の焼きたてパンを乗せた。
「お姉ちゃんのご飯、美味しいよ! これもね、お姉ちゃんの得意料理なの。あとね、これと、これも!」
「あ、ああ。ありがとな」
ミシェルの手によってケヴィンの皿はどんどん山盛りになっていく。
見た目のバランスなんてお構いなしな取り分け方だが、成長期の少年にとっては特に量は大事だ。
「ケヴィン。遠慮するな」
向かいに座った家の主――騎士団長にもそう促されて、ケヴィンは小さな声で「いただきます」と言った。
上司の目の前で食べるのはいささか緊張したが、一口食べるとミシェルが言っていたとおり非常に美味しく、自然とフォークを持つ手が動く。
新婚の騎士団長夫婦はそんなケヴィンを微笑ましく見つめていた。
その視線が、ちょっとこそばゆい。
なぜ、自分は家族でもないはずなのに、こんな家族の行事に混じっているのだろうか。
騎士団長夫婦は新婚だから、きっと二人っきりで静かな新年を過ごしたいはずなのに。
ミシェルは、きっと我が侭を言って姉のところに遊びに来たのだろうが、この小さな義妹には何やかんや言って騎士団長も甘いので、家族だし一緒にいても間違っていない。
けれど他人である自分は場違いなのでは、と思う。
「……まあ、おじさん達のとこ帰っても落ち着かないし、美味いものが食べれるのは助かるけど……」
誰にも聞こえないくらい、小さな声で零す。
騎士団は年末年始も当番制なので、実家が近い者たちは短い休みに駆け足で帰省したりもしているが、ケヴィンは両親がおらず、騎士見習いとなる前までは遠縁の親戚宅で世話になっていた。
仲が悪いわけではないが、親戚とはいえ自分だけよその子という引け目があり、年末年始にあえて当番を買って出て騎士団の寮に残っていたのだ。
それがなぜか、騎士団長から家へと招かれた。
というか、少し前のクリスマスにも招かれた。
多分だけど、この隣に座っているミシェルが誘おうとねだったのだろうかと、ケヴィンは予想した。
初めて会った騒動の日以来、なぜかこの小さな少女に懐かれてしまっている自覚はあった。
ちらりと隣を見れば、ミシェルは大好きな姉の手料理を頬張りながらケヴィンの方を見上げてきた。
「ケヴィンがいるから楽しいね。来年も一緒に食べようね」
隣に座るミシェルが満面の笑みでそう言い、ケヴィンは口いっぱいに詰め込んだ食べ物を飲み込んでから、小さな声で「別にいいけどな……」と呟いた。
上司夫婦の微笑ましい視線と、少しこそばゆい気持ちと、美味しい料理と、笑顔に包まれた温かな空間。
この先、ずっと共に過ごすようになる新年の、最初の年の話。
お読みいただきありがとうございました!