hello,good-bye5
広間に飾られていた、壺を持ち上げていた、女神の大理石の像が、やにわに動き、僕たちに向かって、その壺を放り投げた。アレインは、その場で飛び上がり、回し蹴りを放って、見事、その壺を粉砕して、、
「いた一っ!あいたたたっ!危うく、足が折れるところだったわ」と、足を抱えて、ぴょんぴょん飛び跳ねた。「無理しないで」と、僕は、癒しの呪文を唱えた。そうしている間にも、女神像は、天井から、シャンデリアを下ろし、僕たち目掛けて、ぶん投げた。ロスは、爆発呪文を唱えて、応戦した。さらに、女神像に向けて、爆発呪文をもう一度。
「大丈夫?」「さすがに、こたえるね」
屋内なので、雷を喚ぶことが出来ない僕に代わって、さっきから、魔法を唱え続けているロスが、肩で息をしている。続けて、もう一体の大理石像、、紋章入りの甲冑を身に付けた、騎士が、子どもの背丈ほどもある、長剣を振り下ろした。それは、破片を撒き散らしながら、床にめり込み、僕は、それを足掛かりに飛び上がり、槍を、騎士の首に突き立てた。白銀の光が溢れ出し、騎士像は、前のめりに崩れて、動かなくなった。
やがて、正面の大階段の先に、青銅の鎧をまとった、剣士が現れた。剣士は、凄まじい速さで、階段を駆け下りて来て、僕に襲いかかった、、!
「ジョシュア!!」「来るな!」
これが、普通の槍だったならば、簡単に、折れてしまったことだろう。だが、神秘の力を帯びた槍は、頑丈そのもので、僕は、剣士の剣を、なんとか跳ね返した。その際に、槍の切っ先が、剣士の兜を、払いのけた。
「ルスラン、、!」アレインが、皆が息を呑む。そこに、いたのは、ルスランだった。けれど、いつもの穏やかな雰囲気は、微塵もなく、黄色に光る剣呑な目付きをして、僕に向けて凄まじい殺意を放っていた。
「ジョシュア!!躊躇わないで!清き御魂の持ち主なら、その槍に貫かれても、死にません!」
後ろ手にくくられた、サ一シャが、兵士たちに連れられて、やって来た。額のサ一クレットは、奪われて、髪はざんばら、頬には、殴られた跡も、あった。そして、三人の後から、悠々と、やって来たのは、ボルドー色の髪の毛の、サ一シャと瓜二つの女だった。
「『預言の勇者』などというから、どんな勇ましい男が、やって来るかと思えば、、こんな、頼りない優男だったとはねぇ。やれやれ、期待しただけ、損だったよ。愛しい姫君を、横から来て、かっ拐って行った『勇者』様を、さっさと始末しな、、!」
ルスランの口から、うなり声が漏れ、彼は、再び、剣を、握り直した。
「ルスラン!止めて!!」
「来るな!!」僕は、叫んだ。
けれど、アレインは、やって来て、ルスランの腕に飛び付いた。ルスランの瞳の色が、元の鳶色に変わった。
「、、姫様?」「そうよ。私よ、ルスラン!」
ルスランは、剣を置き、ぎしぎしと、金属がきしむ音を立てながら、片方の膝を床に付き、アレインの頬に触れた。そして、そのまま、宝物に触れるように、アレインを抱き締めた。僕は、その様子を、呆けた様に突っ立って、見ていることしかできなかった。
「ジョシュア!今だ!」ロスが叫んだ。だが、体が、錆び付いた様に動かなかった。これが正しいことなんだ、二人の邪魔をしていたのは、僕なんだ、という思いに囚われ、身動きが取れない、、ルスランの肩越しに、アレインの、懇願する様な瞳を見ても。
「あらあら、情けない勇者様だこと。これじゃあ、主様が、わざわざお出ましすることも無いわね。お望み通り、私が、始末してあげるわ」女が高笑いをして、腕を振り上げた。
「ジョシュア殿!!」
ファビアンが、僕の前に立ちはだかり、鏡の盾を掲げた。女の手から放たれた、火炎弾が、盾に弾き返された。その時、開け放たれた扉から、笛の音が聞こえて来た。僕を逃してくれた、幼なじみの女の子が、故郷で、しばしば吹いていた、メロディーだった。僕の脳裏に、三月ほど前の、光景がよみがえって来た。新緑が芽吹いたばかりの野原で、剣の稽古をする、僕たちの傍らで、リ一ザは、花冠を編んでいたっけ、、いつまでも続くと信じていた、平和で長閑な日々。それを奪ったのは、魔王だ、、いや、違う。僕の弱さだ。また、あの口惜しい思いを繰り返すのか?いや、そんな訳には、いかない、、!僕は、槍を握り直し、アレインを、ひしと抱き締める、ルスランの、無防備な首筋に、槍を突き立てた。
「ぎゃああああ!!」
悲鳴を上げた、ルスランの首筋から、大量の血と共に、白銀の光が溢れ出した。それは、胞衣の様に、ルスランを包み込み、かっと目を見開いたまま、ルスランは、床に倒れ込み、そのまま動かなくなった。