hello,good-bye4
ロスに促されて、僕は、棺に向かって、槍を振った。すると、建物の最奥部にある、一際大きくて、凝った意匠が凝らされた、棺の陰から、ころんと、黄緑色の膚に紫色の斑点が付いた、カエルが、転がって来た。呆気にとられる僕たちの前で、カエルは、棺にぶつかっては、跳ね返されるのを繰り返し、てんてんてん、と、僕たちの足元まで転がって来た。無様にひっくり返ったままの、カエルの腹を、僕は、爪先で、つついた。その途端、僕の顔の高さまで、カエルは、飛び上がり、ぱかっと、大きく口を開け、、
「ジョシュア!!」アレインが、そのカエルを、殴り付けた。ロスが、氷の魔法を唱え、カエルが吐き出した毒の息ごと、カエルを、氷漬けにした。
「駄目じゃない!魔物相手に、ぼ一っとしちゃあ、、!」
「ごめん。ありがとう」
「見た所、何も、おかしい所は、なさそうですが、、」
「そうかな」と、ロスは、杖を振った。真新しい、六つの棺の蓋が、音もなく、すっと開いた。
「『救い主』が現れて、魔物たちの頭が退治されたっていうのに、領主一家が、一度にこんなに死者を出すなんて、おかしくないか?」
ロスは、棺の中を覗き込んだ。僕も、僕の腕に、しがみついたアレインも、ファビアンも、ロスに続いて棺を覗き込み、そして、息を呑んだ。そこに安置されていたのは、子ども三人と、彼らに、よく似た中年女性と、老夫婦二人であり、揃って身なりが良く、微かに上下する胸の動きがなければ、生きているとは、思えないほど、深い眠りに就いていた。
「ブランドン!それに、こちらは、ご領主様のお妃様よ、、!どうして、こんな事に、、!」
背後で、不気味な音がした。振り返ると、扉が、閉ざされつつあった。
「走れ!」ロスが、爆発呪文を唱えた。がらがらと崩れ落ちて来る、天井の破片をかき分けながら、僕たちは、外に飛び出した。ほっと一息付く暇もなく、巨大な木槌が振り下ろされる。見上げる程の大きさの巨人が、僕たちを、待ち構えていたのだった。巨人は、うなり声を上げながら、巨大な足を踏み鳴らし、木槌を振り下ろして来る。ロスが放った火炎弾が、巨大の顔面を直撃し、よろけた所に、ファビアンが、鋼鉄の弓矢を引き絞った。稲妻が走り、巨人の胸に命中した、弓矢に雷が落ちる、、ど一んっと、巨人は、ひっくり返って、動かなくなった。
僕たちは、お墓から出て行った。
「、、馬たち、怯えて、逃げて行っちゃたわね」
「車輪の跡がありますぞ。これをたどって行けば、おそらくは、、」
「しっかし、ここを、このまま放置しておく訳には、いかないよなぁ」ロスは、ため息を付いた。領主の墓の扉から、天井にかけて、大部分が、吹き飛んでしまっていた。僕たちの留守中に、中に残されている、領主一家の身が心配だった。そこに、林の中から、声がかかった。
「ここは、儂らが見張っているので、あなた方は、一刻も早く、お城に向かって下され」
そう言って、髭を長く伸ばした小柄な老人と、僕より年上とおぼしき男女二人、同年代の男が一人、少女が一人、計五人の人々が、僕たちの馬車を引いて、やって来た。彼らは、皆、カゲロウの羽の様に薄くて、虹色の光を放つ、布を、或は頭に、喉に、或はベルト代わりに巻き付けていて、一目で、普通の旅人でないことが判った。
「、、あなた方は、、?」
「説明は後じゃ。急がなければ、あなた方のお仲間も、あの方たちと同様の目に、遭わされてしまいますぞ、、!」
「ルスランが!?」アレインが、悲鳴の様な声を上げた。
ロスが、地面に、魔方陣を引いた。老人は、僕たちに、
「エレ一ネの暴走を、どうか、止めて下され、、!」と、言った。
ロスが唱えた移動呪文で、僕たちは、ご城下に戻り、その足で、お城に向かった。出発した時とは、打って変わって、街は、静けさと、禍々しい気に満ちていた。兵士たちや、領民たちは、だらしなく眠りこけていて、城門には、鍵がかかっていた。僕は、槍を振り、ロスは、爆発呪文で、門を、吹っ飛ばした。クェェェェッと奇声が上がり、極彩色のトサカを持つ、怪鳥が、炎を吐きながら、襲いかかって来た。中庭には、コウモリの様な翼を持ち、槍を持った小鬼たちが、うようよしている。
「ファビアン!アレインを頼む!」「お任せあれ!」
鏡の盾を持ったファビアンが、盾の陰に、アレインを、招き入れた。小鬼たちが唱える火炎呪文を、鏡の盾が跳ね返す。ロスが吹雪の呪文を唱え、怪鳥たちが吐き出す火炎を掻き消した。僕が喚んだ雷が、魔物たちを一掃する、、。僕たちは、城の中に、飛び込んだ。