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hello,good-bye3

「何か、胡散臭い話だよね」

「魔物の頭が殺められたというのに、魔王が野放しにしている、というのが、解せませんな。『救い主』というのが、どういうお方なのか、判りませんが、いまわのきわに、化け物が言った「裏切り者」という言葉も、気になりまする」ロスの言葉に、ファビアンが、言った。

「お城に行く?それとも、件のお城に行ってみる?」僕は、言った。

「じきに、ルスラン様が戻って来られるでしょうから、お城の様子を、伺ってからに致しましょう。私が起きていますから、皆さんは、仮など取って、お休みください」

「じゃあ、僕も、お付き合いするよ。」サ一シャと、ロスは、食堂に残り、僕とファビアンとアレインが、階段を登って行った。

「ジョシュアは、こっち」と、アレインが、僕の腕を取り、サ一シャと泊まる二人部屋へと、引っ張って行った。振り返ると、ファビアンが、苦笑いを浮かべて、手を振っていた。


「この部屋、西陽が当たって、けっこう暑いのよね」と、言って、アレインは、カ一テンを引いた。そして、寝台に、腰を下ろし、「ジョシュア」と、僕を読んだ。何かを企んでいる様な瞳に、気付かない振りをして、僕は、アレインの隣に座った。

「なんだい、アレイン」

「一緒に、お昼寝しましょう」

「いや、それは、どうかな。今、この瞬間にも、ルスランが、帰って来るかもしれないし。サ一シャの寝台を使うのは、サ一シャに悪いし」

「こっちに、二人で寝ればいいじゃない。私たち、お父様が認めた、婚約者同士なのよ。ルスランに、とやかく言われる筋合いは、ないわ」

「、、アレイン、僕も、男なんだ。好きな女の子と同じ寝台にいて、何もしない自信は、、」

「何を?」「え?」

「何をするの?何がしたいの?教えて。何でも叶えてあげるから」

「何でも?」「何でも」

「だったら、僕は、隣の部屋に戻って、昼寝がしたいな。ファビアンのいびきを聞きながら」

アレインは、膨れっ面で、僕を、枕で叩いた。

「ジョシュアの馬鹿!臆病者!」「ははははは。久しぶりに聞いたなぁ、それ」

僕は、枕を受け止め、隣の寝台に置いた。そして、アレインの両肩を掴み、寝台に押し倒した。アレインの瞳に、一瞬だけれど、恐怖が走ったのを、僕は、見逃さなかった。目を閉じたアレインの、両方の目蓋に、キスをして、僕は、隣に、横になった。

「やっぱり、二人だと、窮屈だなぁ」「、、そうかしら」

アレインの頭の下に腕を差し入れると、アレインは、僕の胸に顔を寄せた。

「、、ごめんなさい」

「急がなくていいよ」

アレインの、寝息が聞こえて来るまで、僕は、ずっと、そのままの姿勢でいた。


夜になっても、ルスランは、帰って来なかった。

「、、何かあったのかしら」

さすがに、不安げに、アレインは、言った。皆、口にこそ出さなかったけど、親書を読んだ、ご領主様がお怒りになられて、ルスランを、拘束したのかもしれない、と、思っていた。

「明日、私が、お城に参ります。この件には、どうにも、胡散臭いところがある。申し訳ないのですが、皆さんは、件のお墓に行って頂けますか?」

「それはいいけど、サ一シャ一人で、大丈夫かい?」

サ一シャは、にっこりした。

「私が、そう、容易く捕まると思いますか?」

「、、いや、、」

「もちろん、私の、取り越し苦労である公算も高いのです。もしもの時は、ロスに、助けを求めますから、ご心配なく」

「、、大丈夫かしら。ルスラン」

不安げにため息を漏らす、アレインの肩を、僕は、黙って、引き寄せた。


翌朝、お城に向かうサ一シャと別れて、僕たちは、件の、領主一家のお墓に向かった。途中、宿で作ってもらった昼食、、クランベリーソ一スがかかった、タ一キ一のサンドイッチを食べ、水筒の水を飲んだ。アレインは、「サ一シャから連絡ない?」と、ロスに訊いた。ロスは、首を横に振った。

「便りが無いのは元気な証拠、と、申しますからなぁ」ファビアンの言葉に、無理に、笑顔を浮かべるアレインが、いじらしくて、僕は、アレインの手を握り締めた。同時に、ちくちくと、刺す様な胸の痛みを、胸の辺りに感じた。

(あれ、、)思わず、左胸を押さえる僕に、「どうしたの?ジョシュア」と、アレインが、僕の顔を覗き込むと、その痛みは、すっと消えた。

「何でもない。でも、本当に静かな所だね。魔物はおろか、リスや兎すら見かけない」

「そこが、却って怖いよね。何かに、欺かれている様な気がするな」「、、うん、、」

「ジョシュア、その槍、振って見せて」アレインは、言った。

「あぁ。そうだね」

僕は、槍を、四方に向かって、振って見せた。槍の先が向いた方向で、何かがぶつかり、ウッと、呻く気配がした。林の中から、鳥たちが、ギャアギャア泣きわめきながら、一斉に飛び立った。

「何だ!?」「何か、、来る!」

林の中から、猪の群れが飛び出して来た。ロスが放った、火炎呪文を、ものともせず、毛皮から煙を上げながら、まっしぐらに、突進して来る。僕は、雷を喚び、ファビアンは、続けざまに、弓矢を引き絞った。先頭の猪に、アレインが、飛び蹴りを見舞う。数分後、肩で息をしながら、僕たちは、地面に転がる十数頭の、黒焦げの猪を、見下ろしていた。

「ジョシュアが言っていたのって、こいつらのこと?」

「判らない。でも、急ぐに越したことは、なさそうだ」

「そうだね。先を急ごう」ロスが、言った。


代々の領主一家が眠るお墓は、ぐるりと壁が巡らされていて、当然のことながら、扉には、鍵がかかっていた。ロスの魔法で鍵を開け、僕たちは、中に入った。人気はなく、まるで、神殿の様な荘厳な建物が建ち並び、その内の一つに、地下へと続く扉があった。僕は、さっきと同じように、槍を、四方に向かって、振り回した。今度は、手応えは、感じられなかったけれど、扉の手前に、明らかな、殺戮の跡があった。おびただしく流れた血が渇いた跡と、何かを燃やした形跡と、、

「嫌な感じ」と、アレインは、鼻にシワを寄せた。再びロスの呪文で鍵を開け、僕たちは、中に入った。

ロスが灯した灯りを頼りに、階段を下りて行く。お墓というだけあって、そこは、区切られていない、だだっ広い空間だった。床には、ほぼ隙間なく、墓碑が刻まれ、その上に、真新しい、棺が六つ、置いてあるのだった。



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