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hello,good-bye

夕方には、国境近くの宿場町に着いた。

「都の方で花火が上がっていた様だけど、何か、おめでたいことがあったのかねぇ。跡継ぎのフィリップ様が、お亡くなりになられたばかりだというのに」

「王都ボンパ一ルから、ご支援の方々と物資が届いて、その歓迎の様でしたよ」

如才なく、ルスランは答えた。私たちの婚約のことを、私は、伝えたくって、たまらなかったけれど、私の腕を強く掴んだ、ジョシュアに止められた。

「まぁ!それは、良かった!一時は、どうなることかと、心配していたんだよ。それじゃあ、お姫様が、大役を果たされた、ってことだね?ご兄弟揃って、本当にご立派な方々だこと、、!」

「おかみさん、私たち、街道を通って、東に向かう予定なのですけれど、お隣のファリス子爵領の様子は如何ですの?何か、変わった事は、ございませんか?」サ一シャが、訊ねた。

「時々魔物は出るみたいだけれど、シャルトランのお城の様な、大軍勢が押し寄せて来た、ってことは、聞いてないねぇ。領民たちは、『救い主様が現れたお陰だ』って、いたく、喜んでいるよ」

「救い主?」私たちは、顔を見合せた。

「救い主様、というのは、預言の勇者様のことですか?」ファビアンが訊ねた。

「あぁ、そうさ!あたしたちは、勝手に、勇者様ってのは、男だとばかり、思い込んでいたけれど、とんでもない霊力をお持ちの、女神様が、現れたんだよ!女神様が、杖を一振りすれば、どんな凶暴な魔物たちも、しっぽを巻いて逃げ出しちまう、って話だよ!」

サ一シャが、物憂げな顔をしているのが、気になった。

酢漬けキャベツを添えた腸詰めと、黒パンにリンゴのタルト、という夕飯を終えた後、私たちは、部屋に引き上げた。二人部屋を三つ借り上げ、私は、サ一シャと同じ部屋なのだけれど、サ一シャは、ロスとルスランに、話がある、と言って、留守だった。私は、早速、ジョシュアとファビアンの部屋を訪ねた。

「月が綺麗だから、屋上に行って眺めない?ジョシュアの笛も、久しぶりに聞きたいし」

野営していた時、ジョシュアは、時々、オカリナを吹いていたのだった。その音色は、胸に染み入る様で、失われた故郷に対する望郷の念が感じられて、思わず涙ぐんでしまうほどだった。

「あぁ、、いいよ」

「行ってらっしゃいませ」

近くに池があるらしく、カエルたちが、うるさい程の声で泣いていた。満月には、数日足りなかったけれど、雲一つない夜空に、ぽっかりと浮かんだお月様の、月明かりのお陰で、灯りが無くても、足下に困ることはなかった。

「昨日は、楽しかったわね」

「そう?正直、疲れたよ。自分でも、何で、あんな大胆なことが言えたのか、判らない」

「それだけ、私のことが、好きだってことでしょう?」

ジョシュアは、困った様な顔で、私を見た。それから、噛み付く様なキスをした。キスの後、ジョシュアは、ポケットから、オカリナを取り出し、吹き始めた。笛ね音に驚いたのか、カエルたちが、一旦泣き止み、それから、唱和する様に鳴き始めた。私は、ジョシュアの肩に、頭をもたせかけて、音色に耳を澄ませた。

「何だか、懐かしい気持ちになるわ。昔、どこかで、聞いたことがあるような、、あ、そうだ!」

「何だい?」

「昔、お祖父様のお城で聞いたことがあるの。『流浪の民』の人たちが吹く笛と、似たような感じ」

「『流浪の民』って、何、それ?」

「知らない?家を持たずに、各地を転々として、歌と踊りと楽の音で、神様の教えを、宣伝している人たちよ。う一んと、、確か、『人間も、自然の一部だということを忘れずに、基本に立ち返り、神様への畏敬と感謝の念を忘れるな』とか。当然、教会側とは仲が悪くて、中には、出入り禁止になっている国もあるわ。シャルトランは、そこまで厳しくなくて、自由に出入りさせていたけれど」

「、、蛇女と戦った時、不思議な笛の音色が聞こえて来たんだ。蛇女は、気が削がれて、僕たちは、それで勝つことが出来た」

「あの人たちは、鳥や獣とも、心を通わせることが出来て、噂では、交霊術なんかも、しているそうだから、魔物たちとも、コンタクトが取れても、不思議じゃないんじゃないかしら」

「、、ふ一ん、、」

「あ一あ」と、私は、言った。

「何?」「めったにない、こんな機会よ?抱き締めてくれても、いいんじゃない?」

ジョシュアは、苦笑して、

「じゃあ、どうぞ」と、腕を広げた。

「じゃあ、は、余計」それでも、私は、ジョシュアの胸に飛び込んだ。キスまでは大丈夫。ジョシュアの腕に抱かれている時、私は、この上ない安らぎを感じる。(でも、、)それ以上のことを、ジョシュアが求めて来た時、私は、それに応えることが出来るのだろうか、、

「お父様に、言ったわよね。私のことを、『愛している』って」「うん。言った」

「もう一度聞きたい」「え?」

「言って。だって、私、プロポーズの言葉だって聞いていない」

ジョシュアは、耳元で、ささやいてくれた。私は、くすくす笑い、夜風で体が冷えるまで、私たちは、そのまま抱き合っていた。


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