And I love her,,,2
四人を部屋に案内してから、旅装を解いて、普段着のドレスに着替え、それから、ジョシュアのところに行った。疲れはてて眠っていてほしい、そんな勝手な期待を抱いたのだけれど、ジョシュアは、すぐに、ドアを開けた。
「、、どうしたの?」
「付き合ってほしい所があるの」階段を下りて行くと、ルスランに捕まった。
「お待ちください、アレイン姫様。どちらに行かれるのです?」「お兄様のお墓参り」
「私も参ります!」
「ルスラン、あなたは、エヴァンたちのご家族に、遺髪を届けて。後で、私も行くから、って、伝えておいてね。さ、行きましょう。ジョシュア」
ジョシュアは、ルスランに軽く会釈をして、私の後に続いた。その手には、魔道士の塔の院長様から授かった、槍が握り締められていた。
「お墓参りに必要かしら」
「なんとなく、持って行った方が、いい気がするんだ。邪気払いになるっていうから」
「、、そう」
お城の東北部にある、教会の裏手は、糸杉の森が広がっていたのだが、半分近くが伐採されて、新たな墓地となっていた。本来ならば、郊外にある、領主一族が眠る墓地に、埋葬すべきところだったのだけれど、魔物たちが横行する今、それも叶わず、お兄様は、領民たちと共に眠りについているのだった。
庭園の片隅に、ひっそりと咲いていた(花壇は、お父様のご命令によって、野菜に植え替えられていた)お花を摘んで、私は、お兄様のお墓に備え、祈りを捧げた。ジョシュアも、神妙な顔で、頭を垂れている。
「跡継ぎとしては、優秀な方だったけれど、私にとっては、最低最悪の兄だったわ」
「、、え?」
「胸に刻み付けた傷の意味、教える、って言ったでしょう。私が、11歳の時。犯されたの。兄に」
ジョシュアが、息を飲み、その目が、大きく見開かれた。後悔と、これ以上、言わない方がいい、という、危険信号が、点滅していたけれど、口は、私を裏切り、封じ込めていた記憶が、飛び出して行った。誰よりも愛しい人に向かって。
「初めは、その罪深ささえ、判らなかったわ。腹違いとはいえ、お兄様のことは、尊敬していたし、信頼してもいたから。ある日、風邪で伏せっていた、私の下を訪れたお兄様が、『辛そうだね。僕が、風邪を退治してあげる』って言って、寝台の中に、もぐり込んで来たの。初めのうちは、絵本を読んでくれたり、くすぐり合ったりして、遊んでいたんだけど、徐々に体を、まさぐられて、、怖くなって、『止めて』って言ったんだけど、『アレインの体の奥深くに潜む、悪魔を退治してやるんだ』って言われて、、快さなんて、微塵も感じなかったわ。ただただ痛いだけで。お兄様が、去って行った後、私は、高熱をぶり返して、三日間、寝込んだわ」
「、、その事を、誰かに、、」
「何て言えば良かったの?『お兄様の悪魔祓いが効かなかった』って?領民の誰もが心酔している、シャルトランの未来は、明るい、と称えられている、お兄様が、そんな、酷いことを、私になさった、だなんて、子どもだった私に、判りようがなかったわ。ただれた関係は、年に数回、お父様が、お留守の時に、行われた。拒むことは出来なかった。『お前の母親が、この事を知ったら、死ぬほど苦しむだろうな』って凄まれて、、私は、訳が、判らなくなった。だって、お兄様は、悪魔祓いをして下さったはずなのに、何故、何でなの、って、、」
体の震えが止まらなくなった。目から涙が溢れ出し、しゃくりあげる私を、ジョシュアは、背後から、そっと抱き締めた。
「アレイン。もう、いいから」
「そうよね。明日から、ジョシュアは、私と無関係になる。こんな酷い話、聞きたくないわよね。軽蔑した?」
「そんなこと、言ってないだろう!」いつになく強い口調で、ジョシュアは、そう言った。
「、、謎が解けたのは、避暑に出かけた、お祖父様のお城でだったわ。お祖父様は、狩りがお好きで、沢山の狩猟犬を飼っているの。ヒグラシ蟬が、うるさい程に鳴いていた。中庭を走り回っていた、猟犬たちの一組が、まぐわっていたの。直ぐに、庭師たちに追い立てられたけれど、お兄様が、私に、なさった事だと判った、、」
「、、、、。」
「最後にそれが行われたのは、私の婚約披露の宴が開かれた、翌日のことだった。私は、その日の夜に、護身用のナイフで、胸に傷を刻み付けたの。本当は、そのまま、胸を突いて、死んでしまいたかった。気を失った、私を発見して、手当てしてくれたのは、ルスランだった。私は、理由を話して、、ルスランは、神学校を辞めて、私の近衛兵になった。私が、武芸を習うようになったのは、そういう訳。私は、自分の身を守らなくてはならなかったの。血を分けた兄から」
私を抱き締める、ジョシュアの腕の力が強くなった。
「可哀想に」と、ジョシュアは、言った。ジョシュアが顔を埋めている、私の左肩が、濡れて熱くなった。ジョシュアが泣いている、と、気付いた瞬間、凍りついていた、胸の一部が溶けて、滂沱たる涙が溢れた。