第1話:生きてる意味 由理奈
本を読んで特に人とも話さない。
その場をうろつくわけでもなければ、ただ静かにそして、話の話題に困ったとき笑いものにされるだけの私。
周りからはクールな馬鹿と呼ばれてるけど。
学校の勉強がなんなの?
何よりも、クールなんていわれてるけど、そんなことはない。
確かにグループはいやだし、一人でいることがいやだと思ったこともない。
でも、無理やり他人に合わせるグループに、私のような特殊な考え方のやつは入っていけないだけ。
[ずっと一人はいや。でも、グループよりはずっとマシ。]
周りで響く音は私をさらに孤立させていく。
私が本を読むのは何より、現実を見ないため。
現実は見ること自体めんどくさい。
受け止めなければいけないことが多すぎる。
時に白い目を向けられ、あざ笑われ、「嫌い」その一言で何もかもが進んでいく世界。
あそこのグループも、
本当は笑ってないのに、苦しそうに笑ってる。
見てると痛々しくて、もがいてるみたい。
いつもほら。
仲良しグループも、上辺だけ。
どうして人は群がるんだろう?
そんなに一人は怖いのか?
馬鹿にされることが怖いの?
そんなのが怖くて人間なんかやってられるか。
どうして先生まで生徒の中で苦しそうに笑うわけ?
どうして生徒の言いなりになっちゃうことが多いの?
みみっちい計算をして、生徒に好かれる先生を[作る]
そーゆーの見てると、無性に悲しくなる。
何してんだろうって思ってしまう。
今はもう。
早く大人になりたいなんて思わなくなった。
だって、小学生のころは大人って囲われた世界が子供って囲われた世界より、ずっと広くて自由に見えた。
けど、自分を作るなんて何のために自分ってあるの?って思ってしまう。
それに。
[不自由のほうが自由だ。]
その言葉を。
意味を。
知ってしまったから。
確かに親や大人に縛られてるまだまだガキの私たちさ。
たまに自分は大人だって言い張るやついるけど。
けど、親がいるから。
何もしないでも生きてるんだ。
学校から帰ると自分の部屋にドカっと座る。
ヒーターで足を暖めながら、片手に芋ケンピを。
もう片手に小説を持つ姿は私の周りで言われる[孤独を愛す]や[クール]には程遠く、むしろ、電車の中で大足を広げて新聞を読むオヤジに近いだろう。
今日もいつもと同じだ。
いつもなんて本当はないはずなのに、人間は同じようなことを繰り返す。
こそこそ言っては笑う。
面白ければ何を言ってもいいの?
本人が気づいてなかったら、何をしてもいいの?
本人が無関心そうだったら、その人の存在自体否定していいの?
死相が出てるといわれた目。
あんたらに何がわかる?
私の何がわかる?
この世界は歴史というものを持ちながらにして。
同じようなことを毎日と称して繰り返す。
壊れては再生し、それを繰り返していく。
まるで砂時計のように。
何度も。
何度も。
この繰り返される世界で、頭もいつもを繰り返す。
生きてる意味って何なの?
生きてることに何の意味があるの?
生きてて失うものは多すぎるくらい多いのに。
生きてて得るものって何?
「くっらー」
今日も笑い声が飛び交う。
けど、どーでもいい。
上辺だけで、へらへら笑って誰かのご機嫌とるより一人のほうが気楽だから。
「生きてる意味ってわかんなくない?」
何気なく発された言葉に、私は耳を傾けていた。
「そんなの、どーでもよくね?」
「そーだな。今が楽しけりゃそれでいいか。」
なんとも腑抜けな答えだこと。
まるで食べ物のふが、水につかってべろんべろんになってしまったかのような。
私は教室を出た。
向かう先なんてたいていここ。
部活活動時が書かれている黒板の前。
この廊下の大きな窓からは青い空がのぞいている。
長方形に切り取られた外の青。
ここから見える景色は、空のパズルの1ピースに過ぎない。
「おー晴れてるねー。」
振り向くと、さっき「生きてる意味ってわかんなくない?」といった不良がいた。
えーっと、誰だっけ。君。
とりあえず無視して通り過ぎようとする。
「梨本さんにはわかる?」
呼ばれた自分の名に振り返る。
「生きてる意味。」
わかるわけないじゃないか。
だってそんなもの、元から存在しないのだから。
そう。
私は存在しないものを探してる。
「わかんねーよな。意味も。空の青さも全部。」
黙ってる私に話を続ける不良。
「あなたたちに分かんないよ。一生。今が楽しけりゃそれでいいんでしょう?」
考えにする前に口からこぼれた言葉。
しまったと思って顔をそらす。
まるで床をにらみ付けるような形になってしまった。
「かったいなー梨本さん。」
あんたに私の何がわかるんだ。
「けど、誰にもわかんねーんだろうな。生きてる意味なんて。生きてる限り。さ。」
なんだ。
水に溶けたふじゃないちゃんとした答え。
持ってるんじゃないか。
じっと不良を見る。
金髪のくせに。
なーんて。
不良はクスッと笑って「惚れた?」なんて聞いてくる。
じょーだんじゃない。
けんとー違いもいいとこだ。
すると私は鼻で笑っていた。
「私に惚れられてうれしいやつがどこにいるの?」
どーやら私は思ってることとは別のことを口にしてしまうらしい。
「いるんじゃない?種食う虫も好き好き。」
不良もいろいろ考えるんだな……。
「君がうらやましいよ。馬鹿やって騒いでりゃそれでいいんでしょう?」
また考えとは違うことを口にしていた。
小学生からの悲しい癖か。
はたまた自分と向き合うより、憎まれ口を言ったほうが楽だからなのか。
「そー見える?はは。そんなに言うんだったら梨本さんも明るく……」
「君に私の何がわかるの?」
思っていたことが口からこぼれて出ていた。
おかしい。
いつもならこんな不良なんて相手にしないのに。
何不良相手にこんなにムキになってるんだろう?
「相変わらずだな梨本さん。けどさー、どーしてそーゆーふーにいっつもしかめっ面してるわけ?」
いや。してるつもりはないんだが。
思わず自分の顔に触れる。
「たまには笑えよ?」
君の知らないところで笑ってるからね。
「余計なお世話。」
だからどーしてムキになるんだ。
「……名前、何だっけ?」
勝手に動く口は暴走して止まらない。
「は?」
「君の名前、何だっけ?」
強めに言ってしまった。
「時田 充……だけど……。」
私、名前聞いてどうするんだ?
「そ。じゃ!!」
相手に何も言わせずに走り去った。
それからしばらく。
時田は毎日私に話しかけてくるようになった。
そのせいで私は今女子の中でいいネタ作りにされている。
たまに視線が痛かったり、馬鹿にされたり。
とにかくいろいろ。
「なしもっちゃん。」
「何、その呼び名。」
「いーじゃん最近なしもっちゃんしかめっ面なくなったよね。」
眉間にしわを寄せる。
私の顔なんか見てたんだ?
「もーいや。君といるの。」
「エーなんで?つーか君ゆうのやめよーよ。俺、時田って。」
「えー?じゃ、じた?」
その瞬間。
その場が一瞬にして凍りついたのかと思った。
時田は。
彼の目は私を軽蔑するような。
外のものとしか見てないようなそんな冷たい目を私に向けていた。
何?
周りからはそう呼ばれてるのに、私は駄目なの?
「なんでその名前。俺、じたって好きじゃないんだよね。」
いつもどうり笑顔で言う。
笑顔なんてきっと嘘だ。
私はなれなれしくしちゃいけないんだ。
なぜか無性にむかついてきて私は口を開いていた。
「へぇー?そうっすか。じた君。」
「なしもっちゃん。俺のこと嫌い?」
嫌いだよ。
だいっ嫌い。
私をこれ以上かき乱さないでよ。
「うん。嫌い。だって君といると私じゃなくなっちゃう。」
「どーゆーこと?」
「君の前にいると私、思ってること全部言っちゃうの。」
どうして?
どうして君は私の中身を。
どろどろした何かを引っ張り出そうとするの?
どうして私なの?
どうして私は彼のまえだと秘密ができないの?
何でだまってることができないの?
「そっか。なしもっちゃん俺のこと好きなんだ?」
一瞬胸がうずいたような気がしたけど。
それもすぐ消し飛んだ。
あきれて怒る気にもなれないような力抜けした声が発される。
「はぁ〜?」
「ほら。否定しない。」
「そうね?否定する気にもなれない。どうしてあなたは私をそうかき乱すのかしら?どうして私に話しかけるのかしら?どうして私なのかしら?もう……。もう、私に近づかないで!」
はっとした。
なんて暴言を私は吐いてしまったんだろう。
「……いいよ。わかったよ。」
そう言ってその日からもうずっと話してない。
もう。
目すら合わない。
なんか。
寂しいような。
ううん。
あんな奴なんかいなくてせいせいする。
それでもモヤモヤするこの気持ちは何なんだろう?
―――…。
もう。2ヶ月経った。
ねぇ?時田。
あなたに聞いてほしいことがあるの。
わかったの。
あなたと私が探してた問題の答えが。
一時的なものかもしれないけど。
別にあなたにいちいち言う必要もないんだけど。
私の足は止まらない。
何を求めてどこに向かってるのかさえよくわからないけど。
ただその背中に私は叫んでいた。
「時田充!」
その背中がゆっくり動いて。
帰ってきた声がたった2ヶ月しか経ってないのにすごく懐かしく感じた。
「なしもっちゃん……?」
「ねぇ!私、わかっちゃったの!君が探してる問題の答え!」
「え?」
「ほら、人は何故生きるのか。生きてる意味!」
「へぇ?」
「みんなそれぞれ違うって言うじゃん?けど、そーゆー違う考えの人たちと出会うことで人は
それを喜びに変えるんだって。私と君はまったく縁のない人間だっておもってたよ。けど、私たちは出会った。そしてお互いの考えに触れることでそれを吸収して喜びや何かに変えて生きるんだって。そのために人は生きるんだって!そう思ったの。君がいたから。そう思えたの!」
「わかったよ。由理奈」
呼ばれた名に驚いて時田の顔を見つめた。
「何で……私の下の名前まで……。」
「どーせ君のことだ。俺のこと友達か親友ぐらいに思ってるんだろ?それだったら、ダチの名前ぐらいおぼえんだろ。」
「そっか。はぁ〜。なんってことをしたんだ。私は……。廊下で叫ぶなんて……。」
思っていたことをすべて口にしたせいか。
それとも、時田が近くにいる安心感からか、体の力が抜けた。
彼のことはまだまだわかんない。
けど、彼の一言は私を安心させてくれる。
多分、生きてる意味は生きてる限りずっと探していかなきゃならないんだろうと思う。
そうすると、今度は長く生きる意味って何?って思ってしまうけど、生きてる意味の答えはきっと1つじゃないんだろうと思う。
そう。終わるにはまだ早いんだ。
だからこれからは、時田と一緒に答えを探してけるといいな。
そう思うと顔が赤くなった。
...Nasimoto-Yurina side End...




