第二話 主張
暴力的やグロテスクな表現が、一部ございます。ご了承の上お読みください。
3時間前
プル。ルルルル。
龍介のヘッドセットにコール音が鳴った。
「お電話ありがとうございます。本日は黒田が……。」
「おい!クソ死ね!コノヤロー!」
マニュアル通りに挨拶しようとした瞬間、電話越しに男が怒鳴り散らしてきた。
「お客様?」
「なんでスマホが使えねーんだ!?あぁ!?」
この時期になると、支払いが遅れた客が電話が止められクレームの電話をしてくることはよくある。龍介は冷静に手慣れた対応でクレーマーの本人確認を始めた。
「お調べいたします。まずお客様の電話番号とお名前……。」
「うるせぇ!今すぐ教えろ!」
クレーマーは龍介の言葉に耳を貸さない。しかし、本人確認は規則として決まっており、氏名と電話番号を申告してもらい、契約情報を調べるのが基本だ。
「情報を確認いたしませんと、お調べする事ができ……。」
「お前の都合なんてどーでもいいんだよ!このまま調べろ!」
クレーマーは頑なに話を聞こうとしない。こういった場合は、先輩や上司を呼ぶのだが、龍介は面倒になり画面上でクレーマーの情報を調べた。
「…かしこまりました。1、2分お待ちください。」
案の定、料金未払いで通信が止まっている。毎月よく掛かってくる事で、いつもの通りに対応すれば大丈夫だろうと考えクレーマーに話しかけた。
「お客様。」
「あぁ?」
「大変申し訳ございませんが、お客様のお支払いが先々月から滞っております。」
「知るか!こっちは必要なんだよ!」
「申し訳ご……。」
龍介が切り返えそうとしたその時、間髪入れずクレーマーが罵声を浴びせてくる。
「黙れ!人間のクズ!!オレはお客様だ!神様だろ!!」
あまりにも自分勝手な言葉に対し、龍介は冷静に怒りを露わにする。
「その辺にしとけ。」
龍王としての力を失っているとはいえ、簡単な魔法くらいは使える。
その後、龍介は呪術を使った。クレーマーが丸一日恐怖に震え、罪悪感に苛まれるような術を口汚く罵りながらクレーマーの脳裏に焼き付けた。
そして今に至る。
「その後、お客様は甚大な精神的苦痛を受けたとの事です。恐怖で病院へ行く事はおろか、自宅から出る事すら出来なくなってしまったと泣きながら仰ってました。」
「誠に申し訳ございませんでした。」
龍介も頭を下げたが、その顔は下を向きながら不敵な笑みを浮かべていた。
コールセンターのマネージャーは話を続ける。部屋の外は通路で休憩中のスタッフが行き来している中、マネージャーは会議室の外まで聞こえるくらいの大声で苦言を放った。
「以前から御社にはお世話になってます。多少のトラブルは許容してます。ですが、今回の件は度が過ぎてます!一体どういう教育をしてるんですか!?」
「大変、申し訳ございませんでした……。」
龍介の上司はひたすら頭を下げている。それしか出来ないのか、はたまた自分に部下の失敗による影響が及ぶことを恐れているのかはわからないが、謝罪しているその様は何かを恐れているようだ。
束の間の沈黙を挟み、コールセンターのマネージャーは、それを仕方なく取り払うかの様なため息を吐いて、ロッソに対し呆れた様に質問してきた。
「はぁ……。君、歳は?」
「32です。」
「32歳にもなって、恥ずかしいと思わないの?」
マネージャーは、ついに致命的な一言を放った。
「同期で入った学生とかは20代前半でキチンと対応出来てるのに、何で君は出来ないのかな?!」
龍介は、こういった比較して攻め立ててくる奴が大嫌いだ。彼はこの約1年間、監察員として日本で暮らすには問題を起こさぬように極力トラブルを避けながら生活していた。この日もなるべく穏便に済ませようと考えていたが、この言葉を聞いた時は流石に我慢の限界を超えた。
「おい。」
バシャー!
龍介は鞄からお茶の入ったペットボトルを取り出し、コールセンターのマネージャーにぶちまけた。
その日、彼は会社をクビなった。