相鉄新横浜線に乗って
この物語は、日本一小さな大手私鉄と言われ、おひざ元の横浜市ですら存在を忘れられることもしばしばあった「相模鉄道」が社運を賭けておし進める「都心直通プロジェクト」に元ネタをもらっています。
ちなみに、登場人物の名前は特急列車などの名前がヒントになっており、名字の「長門」は、中の人の第二の故郷の山口県西部の旧国名からです。
登場人物紹介
主人公
長門 光(ながと ひかり・30)
山口県長門市出身。18歳で上京し、都内の大学に進学した後、都内の大手企業に勤め、二俣川駅近くに家を構える。社内恋愛で妻を持ち、息子が生まれる。
新卒で入社したころに東急直通線が完成し、東急直通線を使って通勤している。
大の鉄道ファンで、幼少期は山陰本線の気動車を見るたびにはしゃいでいた。
長門 桜(ながと さくら・31)
山口県下松市出身。光の妻で、光と出会ってから二俣川に引っ越す。相鉄の車両の大半が同じ下松市出身ということもあってか、鉄道ファンでもないのにも関わらず、相鉄電車が大のお気に入り。
長門 はやて(ながと はやて・3)
光たちの息子。幼い時から相鉄電車を見て育ち、JR埼京線から乗り入れてくるE233系を「緑の電車」、ネイビーブルーを纏う20000系等を「青い電車」と呼んでいる。
彼が生まれた頃には既に東急線などと直通運転はしていたが、どうも一部の車両がお気に召さない模様。
まだ幼稚園児ではあるが、「新宿」「横浜」「二俣川」「海老名」「湘南台」「浦和美園」「西高島平」「川越市」「飯能」等は読める、典型的な鉄道ファン。
202X年のある夏の日、俺たちは山口県に住む両親・義両親の訪問を終え、新幹線に乗って新横浜駅に降り立った。
「それにしても、小郡・・・じゃなくて、新山口から二俣川まで、乗換一回で行けるようになって、便利な時代になったものだねえ。」
「パパ、それ帰省するたびに言ってるわね。でも確かに、20分以上短縮されて、便利になったものよね。」
「じいじの家、楽しかった!今度はいつ行けるの?明日?」
「明日はちょっときついかな(笑)また、お正月に遊びに行こうか。なんたって、便利な相鉄線があるからな。」
俺は家族でこのような会話をしながら、新幹線から相鉄線への乗り換え階段を下っていた。
地下の改札におりて、案内表示を確認する。ありがたい、ちょうど特急湘南台行がある。
「湘南台まで先にまいります。途中停車駅は、羽沢横浜国大、西谷、二俣川、いずみ野、終点、湘南台です。」と横でスクロールされる。
息子のはやては、大の相鉄好きで、横浜に出かけるときも、一番前で運転士の動作を見るのが楽しみなのだ。とはいっても、相鉄新横浜線は西谷までほぼ全線地下なのは彼も知っているため、西谷まではおとなしくしているだろう。
ホームで待っていると、聞きなれた声で、「まもなく、3番線に、特急、湘南台行が、10両編成で、まいります。十分下がってお待ちください。停車駅は、羽沢横浜国大、西谷、二俣川、いずみ野、終点、湘南台です。」と放送が入る。10両編成ということは、東横線からの列車だ。
轟音が聞こえてくると、あの美しいネイビーブルーを纏った20000系が滑り込んできた。
車内は夕方ということで温かい光に包まれていた。
「よかったなあ、はやて、20000系だぞ!」
「わーい!20000系だぁ!」
そして同時に、向かい側の1番線に、東京メトロ副都心線・東武東上線直通の特急 川越市行が入線してきた。こちらは東京メトロ17000系だ。何故か息子は、大好きな20000系にそっくりなはずのこの車両を嫌っているのだ。俺たち夫婦は「逆だったら大泣きだったろうな・・・・」と胸をなでおろす。
なんとか3人分の座席を確保し、程よい硬さのロングシートに座る。ホーム前方で東急の乗務員が相鉄の乗務員にあわただしく引き継ぐ光景がちらりと見えた。
相鉄独特の音程のブザーがなり、ドアが閉まると電車は定刻通り新横浜駅を出発し、新横浜トンネルを突き進む。途中に35‰もある急こう配を下る部分があるが、20000系は余裕で駆け抜ける。
「昔は相鉄線も俺たち県外の人間は知らなかった地味な私鉄だったのに、大学入学を機に東京に引っ越してから急に知名度が上がって、今や首都圏随一の混雑路線だ。俺も、JR直通線ができた大学生の頃は彼女も居なくてボッチだったけど、今は愛する家族がいるしな。」
ふと、俺が小声で呟くと桜がほほ笑んだ。
少しうとうとしていたら、電車は羽沢横浜国大駅に停車していた。隣にはJR埼京線直通の新宿方面行のE233系7000番台が停車している。
「もう羽沢か。はやて、前に行くかい?」
流石に疲れたのか、はやては母親に抱かれ、すやすやと眠っていた。鶴ヶ峰を通過したら二人とも起こしてあげよう。
そして、電車はゆっくりと動き出し、地下から地上に出た。夕焼けの光が中に入ってきて少しまぶしい。
西谷駅では横浜からの各駅停車湘南台行に接続し、各駅停車を待たせてひたすら二俣川駅へ向かう。
西谷からわずか数分で、電車は二俣川駅に滑り込んだ。隣には20000系とおそろいのネイビーブルーを纏った9000系が担当する各駅停車海老名行が待っている。少しバブリーな雰囲気が漂う9000系に意外と似合っていてお気に入りなのだ。
「ママ、はやて、二俣川に着いたぞ。」
俺は二人を優しく起こし、三人で電車を降りる。
それからは自宅まではものの数分。俺は愛する家族の手をつなぎ、家路についた。
明日は一日休んで、明後日からまた、相鉄線に乗って俺は東京へ仕事に行く。
あとがき
どうも、作者です。私は基本的にセンスがないゆえに、舞台とかを自力で考えるのが非常に苦手なので、このように「現実世界が舞台の作品」を描くのが好きなのです。
今回は、私が住む横浜市の大手私鉄、相鉄を舞台に執筆しました。
2019年11月30日、相鉄電車が新宿に直通し、首都圏の鉄道網は大きく変わりました。
実は私、一番列車に乗りに居住地の戸塚区から、横須賀線の始発電車で武蔵小杉まで駆け付け、「相鉄の車」で多摩川を渡り、新宿まで乗ったんですよ(笑)
あの「相鉄電車」があんなにおしゃれになって、しかも横浜でずっとくすぶっていたのに、「渋谷」「新宿」と言った、流行の最先端を行くスポットに乗り入れるとは思っていませんでした。
新宿に到着後、折り返し列車の行先表示で「次は 渋谷」と表示した相鉄車を見て「ああ、時代は変わったな」と感じたものです。
3年後には東急線と直通し、神奈川県央→新横浜駅へのアクセスが大幅に改善します。
物語の中では「相鉄線方面からの川越市行」や、2019年11月改正で運行休止になったいずみ野線特急がチラッと出ていますが、実際にどうなるかは不明です。
(一応、朝ラッシュ時は4本が東横線に向かう上に、保安装置は対応しているそうなので、相鉄湘南台・海老名発の西武・東武東上線直通列車が運行されるチャンスはありますし、新横浜→県央の速達便として、いずみ野特急復活の可能性もあります。ぜひ、見てみたいですね。)
登場車両解説
相鉄9000系→東急車輛/現総合車両製作所横浜事業所(神奈川県)生まれ。少しバブリーな雰囲気が漂う通勤電車。
相鉄20000系→日立製作所(山口県)生まれ。東急線などに直通すべく製造され、スマートな車体が売り。イケメン。
東京メトロ17000系→2020年度に姿を現す、20000系のそっくりさん。有楽町線・副都心線系統の新型車両だが、相鉄線乗り入れがあるかは不明。
JR東日本E233系7000番台→JR東日本新津車両製作所/現総合車両製作所新津事業所(新潟県)、総合車両製作所横浜事業所(神奈川県)生まれ。正直言って首都圏どこにでも居る顔なのでこれと言って面白みはない。