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第7話 -舞の本領-

 にゃーーーん(ご飯ちょーだい♪)

「ニャッ」(はい、ご飯ですよ)

 にゃお(おいしい♪)

「ニャニャッ」(しっかり食べてね)

 しゃーー(おい新入り、ここは俺の縄張りだぞ!)

「ニャ? ニャニャー?」(ワガママ言う子にはご飯をあげませんよ?)

 にゃ!? にゃ、にゃーー!(すまん、俺が悪かった)

「ニャニャ!」(よろしい。はい、ご飯あげますね)

 んー……。(……)

「ニャニャ? ニャニャァオ?」(あれ? 元気ない……大丈夫?)

 ……にゃー(すりすり)

「ニャー」(なんだ、甘えたかったのかー、仕方ないなー。なでなで)


「どうしてこうなった?」

「舞さん、猫語をマスターしたと言っておりましたが」

「くっ、これは私より懐いてるかもしれないにゃ……!」

「主人と比べるまでもなく、この場の誰よりも懐かれていますから……私より……」


 にゃー……。(こそこそ)

「ニャ!? ニャニャ!」(ダメ! トイレはあっち!)

 にゃ!? にゃー。(わ、わかったから!)

「ニャニャニャー」(他の子にも伝えておいてね)


「なんか、トイレのしつけを猫語でしてねぇか?」

「あの子猫、まだ産まれて1週間経っていないのですが」

「多分、うちの最速記録更新したにゃ」

「最近、掃除の手間が随分減りましたよ」


 にゃにゃ!(よし、行くぞ皆!)

 にゃにゃ!×4(リーダー、お供します!)

「ニャ! ニャニャ!」(頑張ってください。期待してますよ!)

 にゃにゃー!×5(任せろ! 俺達ででっかいネズミを狩ってくるぜ!)

「ニャ、ニャニャ?」(ええ、でも気をつけてくださいね?)


「猫ってあんな群れで行動する生き物だったっけ……?」

「昨日はモグラを7匹捕まえてましたね。一昨日は昆虫でしたが」

「餌代はどんな感じにゃ?」

「月当たり40万から38万ぐらいに減る見込みですね」

「猫缶代40万も払ってたのかよ!?」

「つっても流石に焼け石に水かにゃ?」

「あ、明日からはあの子達を隊長として第五小隊まで組む予定だよ?」


 俺の姉(自称)が有能すぎる。


「何故、舞さんは猫と会話できるんですか?」

「猫ちゃんたち、沢山いるからねー、何となくフィーリングで?」

「……できる気がしないのですが?」

「んー……でも昔の端末……スマートフォン? のアプリとかでも、猫と会話するみたいなのはあった気がするよ? そんなに珍しいかな?」

「……(検索中)……。猫の鳴き声を意訳するぐらいの精度ですよ? こちらから猫語で話しかけるような類のモノは調べた限り見つからなかったのですが」


 呆れたとばかりに嘆息し額を抑える仕草をするアンドロイド。まぁ、本当に溜息を吐いている訳もあるまいが。


「そういや、この間、この屋敷が世界の縮図だーみたいなこと言ってたけどよ」

「? 言いましたね。何か思うところでも?」

「猫が外へ狩りに行ったりするのは、あの喩えだとどうなんだ? 俺達の場合だと、月や火星に飛び出していって資源を取ってくれば、100億人オーバーすることもできるんじゃないか?」

「ふむ……宇宙開発はむしろ大戦中が一番活発だったようですが……終戦後は特に行われていないようですね。恐らくは割に合わないと判断されたのでは?」

「そっか、そういう動きは特にないか……まぁ、自力で宇宙開発できるカネがあったらライツ買った方が速いしなー」


 そんな駄弁りに舞が口を挟んできた。


「んー? 多分違うと思うよ?」

「舞さん? 違うとは?」

「割に合わないんじゃなくて、間に合わないと思ったんじゃないかな」

「間に合わないってどういうことだ?」

「ほら、私達って2次元の世界に生きてるでしょ?」

「にゃ? 3次元じゃなくてかにゃ?」

「ううん。ほら、地球の表面は2次元でしょ? 私達は表面上なら割と自由に移動できるけど……そこから飛び出そうとするのは、そう自由にはできないよね? でも、宇宙に飛び出しちゃえば、上も下もなくなるから、3次元の世界で暮らせるようになる」

「だったら、広々とした世界で生きていけるんじゃないか?」

「でも、開拓できる速さには限界がある。光の速さは絶対超えられないし、もっと現実的な速さでしか生活領域を確保できない。だから……」


 メモ用紙を持ってきて、数字を書き込んでいく。


「円や球体だと細かな計算が面倒だから、正方形や立方体で考えるけど……。2次元なら、1×1、2×2、3×3、4×4、……みたいな感じで広がっていく。3次元なら、1×1×1、2×2×2、3×3×3、4×4×4、……みたいにね。計算すると、2次元なら1、4、9、16、……。3次元なら1、8、27、64、……。確かに、宇宙空間に3次元的に広がっていくなら、地球上で2次元的に広がっていくより開拓効率はいい」

「うん、やっぱそうなるよな?」

「でも、人間は割合で増えていくから……。2、2×2、2×2×2、2×2×2×2、……と増えていく。計算すると、2、4、8、16、……。最初は遅いけど、10回やると1024になる。3次元の生活領域は10×10×10で1000しかない。そして、一度追いつかれたら最後、開拓ペースは絶対に間に合わなくなっちゃう」

「ああ、そうか。もう今、現時点で追いつかれてしまっている訳だから――」

「そう。だからそもそも、割合で増えていかないように上限100億って決めて、人口をコントロールしようとしてるんだと思うよ? まぁ、最初は宇宙開発に必要な資源を地球から持ち出さなきゃいけないとか、他にも問題はあるんだろうけど……例えば、食糧難やエネルギー不足、環境汚染、流行病や戦争諸々……宇宙で孤立した状態でそういうことになったら悲惨だよね?」

「なるほど、よく考えましたね、舞さん」

「こないだ、にゃーたさんになんで? って聞いてばかりだったからねー、自分なりに考えてみたんだ♪」


 毒舌メイドからお褒めの言葉を頂き、喜ぶ舞。


「よし、猫を可愛がる時間も終わったし、後は信一くんを猫可愛がるだけだね! ひゃっほうレッツパーリィターイム♪」

「んな、だから抱きついてくんなっての!」


 スキンシップ過多な自称姉を振り解き、偶々目に映ったカレンダーに意識を向ける。みおと出会ったのが2月18日(金)、翌19日(土)に舞を拾い、今日は24日(木)。この屋敷に来てから7日目、早1週間が経とうとしている。だというのに、金曜以来カジノに行けてない。なお、みおはほぼ毎日行っている。というのも、アイツは学校に通っていない分、暇だからで……土曜はアンドロイド運びで疲れて、日曜は軽い筋肉痛、平日はやや遠くから通学するようになって、多少の早起きを心掛けた結果、生活リズムが狂って眠く……ようやく身体が慣れてきた今日辺り、いい加減にカジノ行きたい。

 ブラックジャックのカウンティング戦略はとにかく時間が掛かるので、機会はなるべく逃したくないし、勝負勘が鈍るのも困りものだ。


 また、この屋敷で生活するに当たり、前の部屋は引き払った。私物もほとんどなかったため、アンドロイドの住居管理業者に連絡するだけで片は付いた。新たなるこの現状の生活費はおよそ月8万になる見込みだ。この屋敷の人間の生活費10万の半分と、舞の電気代その他諸々の維持費約3万円である。屋敷の手伝いをする限り、舞の諸費用もあの猫女が負担すると言ってくれたのだが、それは辞退した。まぁ、猫缶代までは負担する気がないので、その辺が手の打ち所だろう。


 500万を元手に、月8万稼ぐのが最低ライン。目標が2億ちょいなのだから、もたついている暇などないのだ。


「それじゃ、そろそろカジノに――」

「私も行っていいかな!?」


 ……。


「にゃーたさん、他に仕事は?」

「ありませんね。舞さんのスペックはハウスキーピング専用型に収まるものでもございませんし……付き添いぐらい構わないのでは?」


 さいですか。


「はぁ……」


 正直気が進まない。カジノに行きたいのは本音とはいえ、俺はギャンブル依存症ではない(と信じたい)。働かなくて良い時代だから、勝っても負けても楽しめればいい、という奴らとは違う。これからやるのは、アンドロイド相手に、金を掠めとる作業なのだから。


 正直言って先日、みおがルーレット攻略法について話していたのは驚いた。攻略法そのものについても多少は驚いたが、何より、それをアンドロイドのにゃーたや舞の前で話したことだろう。非常の際にアンドロイドが的確な連携を取ることは、広く知られている。俺はあのとき、自分のカウンティング戦略について語らなかった。アンドロイドを騙す手段を、平然とアンドロイドに語る感性は持ち合わせていない。


 だが、それ以上に。舞に話すのは妙に躊躇われた。なるほど。確かにギャンブルという奴は、よろしくないものなのかも知れない。自分一人なら気付かなかったろう。俺以上にどっぷりカジノに浸かってる、みおと一緒に居ても気にならない。だが、舞が妙に人間くさいからだろうか、どうにも後ろめたさのような気持ちを抱くのだ。何故だか、どうにもはっきりしないのが気持ち悪い。まさか、本当に姉である訳もあるまいし。


 そういうもやもやした気持ちを抱え込んで集中を欠いたまま、ギャンブルをしても勝てるイメージが沸かないのだが……この調子じゃ断り続ける訳にもいかないだろう。慣れていくことに決めた。自分にできるとは思えないが、ルーレットを攻略してる奴もいることだ、別のギャンブルの攻略法について改めて考えてみるのもいいかもしれない。


   †


「へぇ、ここがカジノかー、凄いきらびやかな場所なんだね!」

「舞ねぇ、あんまりはしゃぎ過ぎるなよ?」


 タクシーを待つ間のちょっとした打ち合わせで、舞の呼び名は「舞ねぇ」に決まった。いつも呼ぶ訳じゃないが、カジノでアンドロイドを連れ歩くのは少々目立つ。見たところ人間と区別が付かないし、不自然さは抱かれないだろう。


「信一くん、あれは?」

「スロットだな。コインを入れてレバーを引くと、リールが回転する。ボタンを押せばそれが止まって、絵柄が揃えば当たりで、コインが出てくる。絵柄によって倍率がそれぞれ違う。カジノらしい定番のゲームではあるな」

「絵柄が揃うタイミングで押せばいいの?」

「いや、難しいな。ボタンを押して止まるまでのスベリ幅が毎回違う」


 恐らく、内部では電子的な処理で当たり外れが制御されているはずだ。なので、俺としてはやらずにいるギャンブルである。


「あの数字はなぁに? ちょっとずつ増えてるけど……」

「リンクトプログレッシブジャックポット、ここら辺にあるスロットマシンに投入された金額を少しずつ積み立てて、特定の絵柄を揃えると全部手に入る、という仕組みだな」

「へぇ、1802万か……」


 舞はスロット台を見て回る。席は8割方埋まっており、人気振りが伺える。


「うん、分かった。次行こっか♪」

「舞ねぇ、もういいのか?」

「ん。当分、大当たりなんて出なさそうだし」

「ま、そうだわな」


 思わず苦笑い。射幸心は確かに煽ってくるが……聞いた限りじゃ、ジャックポットで4~5千万当てた話はざらにある。2千万にも届いていない現状、出るとしたらまだまだ先だろう。その予想は恐らく当たっている。


 一際大きな歓声が上がる。


「盛り上がってるねー、あれは何?」

「クラップスだな。サイコロ賭博の一種だ」


 カジノ側とプレイヤー達の間で行われるギャンブルだ。最初に2個のサイコロを振り、7か11が出れば投げ手(シューター)勝利(ナチュラル)、2か3か12なら敗北(クラップス)だ。それ以外が出た場合、それが当たり目に設定され、更にサイコロを振り続ける。2回目以降は7が出たら負け。7が出る前に当たり目が出たら勝ちになる。

 このゲームでは、アンドロイドのディーラーはゲームの進行役とチップの払い戻しを行うのみであり、サイコロを投げるのは人間であるプレーヤーが持ち回りで行う。サイコロを投げる度に、全員が勝つのか、それとも負けるのかが決まる。その連帯感がゲームの楽しさであり、控除率の低さも魅力だ。


「皆でパスラインやカムに賭けて、皆で出目に一喜一憂するゲーム、かなぁ。オッズベットみたいな次の出目だけに賭けるやり方もあるけどな。他にも、ドントパスラインやドントカムみたいな逆張りもできるけど……それをやると場がしらけるもんで、俺はあんまり好きじゃねぇな」


 多くが自分たちの勝利を望む中、皆の敗北を望むような賭けをすれば嫌われる。そういう面倒な配慮が苦手だ、というのは表向きの理由。アンドロイド相手に人間が集団で挑んでいく構図を舞に見せたくなかっただけ。あるいは、そんな構図に抗うためだけに逆張りをしてしまいそうな自分に嫌気がさしただけだ。まったくもってクソったれ(クラップス)


「……サイコロで狙った目って出せる?」

「出せたら苦労はしない」


 そうして、クラップス参戦は見送ったのだった。


「あ、あれがルーレット?」

「ああ、あの顔真っ赤にしてネコミミ女がやってるのがそうだ」


 見れば、チップが山積みである。どうやら、今日は順調に勝っているようだ。


「なんて言うか、凄いね?」

「邪魔しちゃ悪いから、次いくか?」

「だねー」


 血走った目で食い入るようにルーレットを見つめている。声掛けても気付かないんじゃないだろうか? 集中して調子よく勝ってるときに集中を乱されたくはないだろう。ここは放っておこう。


「おお? あれは?」


 巨大なガラポン式の抽選器が回っている。ビンゴで使うあれのでかい版。直径2メートル近くある球体の鳥かごがランダムに回転し、80個の数字付きボールが攪拌されている。地球儀の緯度尺のように、球体を支えるフレームがあるのだが……これが自在に向きを変える様子は大迫力だ。丁度抽選が始まったところのようで、ボールが次々と顔を覗かせ、当選番号が決まっていく。金を賭けていれば、手に汗握る所だろう。

 しかし、そんな見ているだけでも充分楽しい光景に比べ、客は俺達を除いて一人しかいなかった。理由は単純だ。


「キノ、だな。止めとこうぜ、これは分が悪すぎる」


 80個の数字の中から20個が選出される。これを事前に予想して、的中させる……ロト、といった方が馴染み深いかもしれない。ロトとの違いは、プレーヤーが選ぶ数字の個数が任意であることだろう。数字を1個だけ予想してもいいし、最大20個まで予想してもいい。書き込む数が増えるほど配当の倍率が下がり、当たった数が増えるほど倍率が上がる。まぁ、20個書けば大体5個は当たる訳だが、その場合の配当はゼロである。6個当ててそのまま等倍の払い戻し、7個なら7倍。なお、実際20個選んで7個当たる確率は8分の1より小さい。統計的に見れば、控除率が高すぎるため、このカジノのゲームでは一番選んではいけないギャンブルである。


「おうおう、最近の坊主は夢がねぇなぁ」


 俺の分の悪い発言を聞き咎めてきたのは、唯一ここに入り浸っているらしい男だ。


「ん? なんだおっさん、控除率2割近いギャンブルなんて誰がするんだ?」

「せめてお兄さんと呼べよ、まだ30だぜ?」

「おっさんだな」

「くぅぅ……可愛くねぇガキだなおい……いいか、確かにちっとばかし分の悪いギャンブルだ。だが、一番の高額配当が狙えるのはコイツなんだぜ? スロットのジャックポットなんざ話にならねぇ、大当たりすりゃ数億だって――」

「で、当てたことは?」

「聞くなよ聞かないでくれよ頼むから」

「で、これまでに幾ら突っ込――」

「だぁぁもう、数百万は溶かしたよど畜生!?」

「つかよ、なんで割に合わねぇギャンブルに入れ込むかな……」

「お前、そりゃ惚れた女のために決まってんだろ!?」

「え? アンドロイドのホステスに貢いでんのおじさん?」

「うちの家内は人間だ――つぅか呼び名も悪化してんじゃねぇか!?」

「マジかよ奥さん放っておいてカジノ通い? 最低だな、じじぃ」

「OK、もう突っ込まねぇぞ坊主……けっ、お前も所帯持てば分かるだろうよ」

「大体、普通に生活する分なら苦労しねぇだろ? 大穴狙いなんてする必要――」

「惚れた女との子供が欲しい。子供のライツを買う金が要るんだよ。男一匹、分の悪い賭けに挑むのに、これ以上の理由が要るか?」

「ああ、分かった分かった。よし、他のギャンブル見に行くか――」

「お、おい、連れの嬢ちゃんも何とか言ってくれよ!?」


 しかし、話を振られた舞はぼうっと抽選器を眺めている。小さく呟いた。


「左に6回」


 軸が地面に垂直に、左に6周した。


「上に2回、下に7回」


 軸は水平に、上に2周した後、急反転して中のボールが跳ねる。そして7周。


「左3、右上2、上6、左上4、右1……」


 数秒遅れて、抽選器がその通りに動いていく。それに気付いた俺達は愕然とした。


「ボールの位置……特定数29、47、62、73、75、77、79、……全80個特定終わり。抽選開始まであと12秒……予想される数字は順に、76、25、64、66、2、23、47――」

「「ちょ、待」」


 ぞくりと総毛立つ。有無を言わせないその雰囲気に、俺達は慌てて賭けた。手慣れているかどうかが明暗を分けた。既に用紙を手に取っていたかどうかも。俺は辛うじて聞き取れた6個を記入し、提出。10万のチップを出した。一方、話しかけてきた男はかなり記入できたようだが、チップは1万の奴だ。


 抽選が始まる。76、25、64……。


「なぁ、そういう場合って親族の間で融通し合うもんじゃねぇの?」

「お互い家同士の仲が悪くてな……ロミジュリ知らねぇの? 大恋愛だったんだよこっちはよぅ。駆け落ち同然で飛び出して、結ばれて2年だ」

「へぇ、そうかい。まぁ、お幸せに」


 おっさんは20個中20個皆中。賭け金1万で配当が25万倍、25億の大当たり。

 俺は6個の皆中で賭け金10万の配当は2000倍、2億円を獲得した。


   †


「お客様方、少々お時間よろしいでしょうか?」


 話しかけてきたのは、キノを進行するアンドロイドだった。


「ああ、分かってる。VIPだろ? 構わねぇよ、もうカジノには来ねぇだろうし」

「VIP?」

「あ、坊主は知らねぇか? カジノ相手のギャンブルは天井があって、短期間で勝ちすぎると制限掛かるんだよ」

「え? マジ?」

「いや、そりゃそうだろ……カジノだって慈善事業じゃねぇんだし」

「VIPのお客様には、VIPルームでのギャンブルをご提供させて頂いております」

「うっし、こうしちゃ居られねぇ! 子供たちでサッカーチームだって夢じゃねぇんだ、喜ばせてやんねぇと……それじゃな、生意気坊主に幸運の女神さん!」

「あ、おい!?」

「……行っちゃったね」

「はぁ……で、そのVIPルームってのは?」

「人間同士によるギャンブル専用ルームとなっております。アンドロイドがディーラー・進行・審判などを務めさせて頂くのは変わりありませんが、勝つ権利の販売などは実質行っておりません」

「実質?」

「100億ライツがお手元にあれば、全てのアンドロイドはあらゆる要望に可能な限りお応え致しますので」

「ああ、そりゃ無理だ」

「全人類の同意が必要ってことだね、分かった!」

「また、扱うゲームにつきましては、ポーカーやテキサスホールデム、麻雀、チンチロリン、将棋、囲碁、チェス、他にもプレーヤー同士で合意があれば、いかなるギャンブルであれ公平に審判を務めさせて頂きます。同じく合意があれば、掛け金の制限などもございません。それでは、VIPルームにはあちらのアンドロイドがご案内いたしますので――」

「ああそうだ、ライツの相場って今幾らだ?」

「2億742万9720円です」


 また上がっている。手持ちは2億480万ちょいだから、260万……当面の生活費も考えれば、300万ぐらいは上乗せで欲しい。あと少し、が厄介だ。ライツがない俺には、ギャンブルで勝って何とかするしかない。ライツに届かなければ意味がないのだ。


「分かった、それじゃ案内を頼む」

「かしこまりました」


 給仕を務めている別のアンドロイドを案内役として、俺と舞はVIPルームとやらに向かうことにした。すると。


「あ、シンくんにゃ! そっちも連れて来られたのかにゃ?」

「あ、みおも?」


 先程ルーレット台にかぶりついていた猫女も、VIPルーム行きになったらしい。


「今日は馬鹿ヅキで5回も当たったにゃ……そしたら、ルーレットはもう勘弁して欲しいって言われてにゃ?」

「……ご愁傷様」


 ルーレットはお預けとなったらしい。まぁ、カジノ相手のギャンブルの典型だしな。


「ルーレットの胴元やってくれるプレーヤーが居ればいいんだけどにゃー」


 残念ながら望み薄だろう。ブラックジャックやルーレット、キノも禁止。俺やみおや舞が得意そうなものは全てカジノ相手のギャンブルだ。果たして勝てるのか――いや、ダメだ、勝つんだ。勝たなきゃならない。そのために俺はここに――……。


「大丈夫、お姉ちゃんが何とかしてあげるから♪」

「ああ、頼りにして――」

「いえ、VIP会員でない方の入室はお断りしております」

「え?」

「え、でも私アン――」

「お断りしております」


 にべもない。


「ちょ、嫌、はーなーしーてー! 私は信一くんと一緒に――」

「愛されてるにゃ」

「やかましいわ」


 結果、舞を取り押さえるために4体のアンドロイドが駆けつける事態になり、俺達は騒ぎから逃れるようにVIPルームに足を踏み入れた。

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