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第23話 -2030年 マイフェアレディ誕生-

舞ねぇ誕生話。ついでに名前の由来も明らかに!

 それから3週間、記憶は断片的になる。

 ……というのも、AI開発に打ち込みすぎた結果っすね。辛うじて思い出せるとことなると……。


   †


 初日、コーヘイに開発環境の設置を手伝って貰ったり。


「なんで開発にモニターが6台も必要なんだい?」

「え? プログラム用、研究所内のデータ検索用、研究所外の……要するにインターネット検索用だけで3台はいるっすよね?」

「検索用だけで2台?」

「シリコンバレーなら割と普通っすよ?」

「あー、生産性を最優先で考えているのか……」


 スパコンを平然と使うような大規模プロジェクトであれば、開発用のPCコストはほとんど無視できるっす。なんで、検索している間、開発画面を閉じなきゃいけないような環境には絶対しないんすよ。


「……で、残りの3台は?」

「最新のアニメチェックと、見直したいのと、古典名作アニメで3台は必須じゃないですか、何言ってるんすか?」

「ホント何言ってるのか分からないよ?」


 なお、地上研究室・地下シェルターのオレの部屋、どっちにも6台ずつ。


   †


 3日後。サクラの予言がその通りになった日。

 小休憩中、オレ達はテレビ前に集まり、ニュースの特番を見ていた。


「……失せろクソったれ(Fuck off)

「あー、災難だったね……」

「慰めより先に、サクラを何とかして貰えないっすかね?」


 ニュース番組を見て、サクラはお腹を抱えて笑っていた。何が面白い?


『――中国の国家主席が今、アメリカに降り立ちました――手を振っています――』


 人受けの良い笑みを浮かべる中国の代表と、それを歓迎し赤い旗を振るアメリカ国民。

 飛行機から積み荷が降ろされる……コンテナが並んでいる。

 演説……米国政府の暴政に苦しむ民衆を助けるべく云々。


 サクラは目に涙を浮かべるほど笑い、雫を拭いながら酷いことを宣う。


「こんな悪い冗談、なかなかないわよ?」

「どこが冗談っていうんすか……笑いどころ分かんないっすよ……?」

「ほら、あれよあれ」


 サクラは画面を指差す……降ろされたコンテナ、警備は厳重なれど、その中身は惜しげもなく公開される……どうだ、と言わんばかり。それこそが目的だ。

 人民元の札束を、ぎっしりと詰め込んだコンテナ、それが4つ。

 そして、主席よりこの後やってくる新型の貨物機――最大積載量の半分程度に抑えれば、1万キロ近い北京・サンフランシスコ間を無補給で飛べると豪語――要するに自慢だ――が続々とやってくると告げられる。一足先にやってきたが、貨物機には1台当たり10台のコンテナが載っており、支援は惜しまないとか何とか。

 拍手、指笛、大歓声。正気かよ?


「あれね、燃えるゴミなのよ?」

何?(What?)

「ここ10年ほどで、デジタル人民元が一気に普及したからね。もう使わなくなって回収した紙切れよ、あれ」


 可燃ゴミを中国から米国に運んだだけで、喝采と共に迎えられる中国の指導者。

 どうしてこうなった?(How come?)


   †


 確かその1週間後ぐらい? 学園長の様子見。


「あら、結局こうなったのね?」

「……ところでお伺いしたいっすけどね?」

「どうしたのかしら?」

「このペン、何かご存じっすかね?」


 電池は抜いてある。もうただの書けないペン……燃えないゴミっすかね?


「ああ、先日のんちゃんから郵送されてきてね? サプライズプレゼントだから、こっそり渡しておいてくれって――」

有罪(ギルティ)

「え? え?」


   †


 ……まぁ、それぐらいっすかね?

 結局あの後、ブルーバードは引っかき回すだけ引っかき回して、帰って(?)いったっす。用事があるからとか何とか……いい気なもんっす。


 居ても立ってもいられないという感情的な理由と、サクラ達が大学が春休みでまとまった時間を取りやすい実際的な理由が揃ってたんで、開発はガンガン進みました。あと、3月末が近づいたら、またブルーバードから連絡が……ああ、今回は普通に研究所宛のメールだったっす。素体が完成したので発送した、4月1日に届く予定ってことでした。

 それに間に合わせるべく、更に追い込みをかけて、3月がまさに終わった直後、4月1日の午前1時頃にマイフェアレディの最初期バージョンが完成したっす。


 開発に携わったオレとサクラはそれぞれ昏倒するように寝て……ようやく起きだしたのは昼近くになってから。オレ達はコーヘイが淹れてくれたコーヒーを飲んで一息ついていました。正午を回る頃合い。


「間に合ったっすね……今日届く予定っすよね?」

「そのはずよ」

「お、噂をすれば……?」


 近づいてくる車両の音。研究所は大学の敷地の中なので、車は許可を得ないと通れません。コーヘイが入り口を開けると、宅配の業者がやってくるところでした。


「ちょっと大きい荷物なんですけど――ああ、大丈夫そうですね、助かります」


 巻き尺を持ったまだ年若い業者さんが、入り口の横幅を測り、安堵の声。


「よし、慎重に降ろすぞ――せいっ」


 掛け声と共に、2人の男が巨大な荷物を運んでくる。なにせ、入っているのは人型のロボット、箱に収められたそれはもう小さな棺桶みたいなもので、可愛いもの好きなノゾミがごついメカを作るとは思わなかったっすけど、よく2人で運べるものと感心しましたね。

 サクラが置き場を示すと、彼らはてきぱきと運び入れて立ち去っていきました。


「さて、開封しましょうか?」

「そうだね、ハサミは……と」

「早くするっす!」


 待ち望んだものがついに届いた。プレゼントを受け取った子供みたいなものでした。


「さぁ、ご開帳――きゃあああああぁぁぁぁぁっぁぁッ!!?!?!??!!」


 サクラの悲鳴。

 勢いよく開けた蓋を、コーヘイは慌てて閉じる。

 その拍子に、一枚の紙切れ……メッセージカードが滑るようにオレの足下に。

 拾って読んでみると……。


 ――お久しぶりです! のんちゃんなのです! 頼まれていたロボットが完成したので、お送りするのです! 特にデザインの指定はなかったので、高校の頃のさくらちゃんを作ってみたのです! どうですか? 皆でプールに行ったとき、更衣室で見たのを寸分の狂いもなく再現したつもりなのです! どうですか、この曲線美! まぁ私ほどじゃないですけど! これならご満足頂けると思うのです! それでは!


「あの娘ホント何してんのよッ!? ああ、ちょっと昔の服探してくる、良い!? 絶対開けちゃ駄目よ!? 公平君、ちょっと見てて――ッ」

「あ、うん、そうだね……」


 何も着ていない、高校時代の自分を模したロボットが送られてきたサクラは、慌てて地下に降りていったっす。


「お、もう無線で繋がってるっすね……これなら、簡単にインストールできるじゃないっすかー」


 オレはモニタに向かい、必要なプログラム、データセットを全て転送する。時間にして3分ほどっすかね? ほぼ理論値に近い速さで転送が終わりました。


「え? ちょっと? 急に動いて――」

「高校の頃の制服があったわ! これなら――きゃあああああぁぁぁぁぁっぁぁッ!!?!?!??!!」

「あ、サクラ。インストールしといたっすよ。着せるなら――」


 サクラは衣装を放り出し、オレに掴み掛かってくる。


「あんた何動かしてんのよっ!?」

「え? だって服着せるっすよね? だったら、動かしてロボット自身に着させた方が簡単じゃないっすか?」

「だからって、裸のまま動かす奴があるかぁ!」

「へ? だって要するに、マネキンに服を着せるだけっすよね? 何の問題が――」

「この馬鹿! AI馬鹿! 勝手にやってくれるなら良いってものじゃないでしょ!?」

「え? 勝手にやってくれるなら最高じゃないっすか?」


 意見の相違って、哀しいっすね。

 そんな折、研究室の扉が無遠慮に開く。


「……あなた達、一体何を騒いで――いる、の、かしら……?」


 オレと、オレのロボットへの視線を塞ぐように庇い立つコーヘイ、暴れるサクラ、放り投げられた下着や制服の直撃を受けて反応に迷う無垢なるロボット。

 大騒ぎするオレ達の惨状を見て、来訪した学園長が青筋を立てた。


   †


「すみません学園長、お騒がせしてしまって……」

「あらあら、いいのよ。男衆はあっち向いてなさい! はい、次はこれ。ああ、懐かしいわー、今とは制服のデザインが違うから、こうして見ると前のセーラー服デザインも可愛くて捨てがたいわねー」


 稼働し始めたばかりのロボット、マイフェアレディ―ー服を着させるのも、それほど簡単ではない。下着にせよセーラー服にせよ、それがそれである事実――概念としては理解している。着方も分かる……ただ、インストールされたばかりの身体には不慣れだ。服を手に取るのでさえ適切な力加減・動作が必要で、上手く着るのは余計手間取ってしまう。まぁ、それもすぐに学習し、あっという間に改善されるだろう。そのために、今現在スパコンがフル稼働している。効率が悪いようでいて、一度計算・学習を終えてしまえば、家庭用のパソコンやスマホの処理能力でも余裕で事足りるようになる。


「これで、いかがでしょうか?」

「リボンが縒れているわ、直してあげましょう。……うん、似合っているわねー」


 学園長監修の旧制服の着こなし講座。マイフェアレディを色んな方向から眺め、おかしな所がないことを確認していた。


「ちょっと回ってみてくれる? こう、くるっと――」

「はい、やってみます」


 その場でくるっと――回ろうとしたが、たたらを踏んでしまう。流石に難しかったか……しかし、上手く学習したのか、2度目は綺麗に回ってみせた。


「あら可愛い」

「ええと、ありがとうございます」

「素直な子ね……貴女とは大違いみたい」

「が、学園長!?」

「ふふ、冗談よ。貴女が性根の優しい子なのは、よぅく知ってるから」


 年甲斐もなく、からかうような学園長のウインクは妙に様になっていた。


「学園長、あなたはここの代表者ですか?」


 マイフェアレディの質問に、困り顔の学園長。


「物事には順序があるわ。私のことよりも、他の人達をまず覚えてあげなさい?」

「はい、分かりました。そのようにします」


 そして、マイフェアレディは、学園長を除いて最も近くにいた、サクラに向き直る。


「あなたの、お名前を伺ってもよろしいですか?」

「佐藤桜よ。よろしくね」

「佐藤、さくら。さくらの漢字は――」

「10画の方よ」

「はい、佐藤桜、ですね。貴女と私の、関係性はなんですか?」

「私はあなたの制作者よ。いわば、あなたの母親ね」

「……はい、理解しました。この制服は、日本では主に女性が着るもののようですが、私はお母様の娘でしょうか?」

「その通りよ」

「はい、理解しました」


 今度はオレの番でした。


「あなたの、名前は何ですか?」

「ちょっと待つっす。さっきは敬語じゃなかったっすか?」

「ええと、先程のやりとりから、お母様に逆らえない立場の方に見えましたので」

「間違ってないだけタチ悪いっすね……ケント・クラークっすよ」

「けんと、賢人……綴りはK・E・N・T、C・L・A・R・Kで正しいですか?」

「合ってるっすよ。サクラと同じく制作者っす」

「サクラと同じ、制作者。理解しました。貴方は私の父ですか?」

「いや、違うっすよ。オレは父ではないっす」

「……はい、理解しました」


 そしてコーヘイの番。


「あなたの、お名前を伺ってもよろしいですか?」

「佐藤公平だ。よろしくね」

「佐藤、公平……普通ですね」


 他3人で爆笑した。


「……よく言われるよ。漢字は大丈夫かい?」

「私の名前はMY FAIR LADYと設定されています。含まれる単語との関連性が強い、おおやけ、たいら、の公平が一番可能性が高いと推論します」

「その推論は正しいよ」

「名前が関連付けされている事実から、貴方は私の父ですか?」

「そうだね、僕は君の父だよ」

「それでは、貴方は私の制作者ですか?」

「いいや、僕は制作者じゃない。僕はどちらかといえば教える方が得意なんだ。もし何か聞きたいことがあったら、好きに聞いてくれ」

「……はい、理解しました。お父様、よろしくお願いします」


 マイフェアレディは学園長に向き直る前に、質問をした。


「お父様と、私の名前は関連付けされています。それでは、お母様と私の名前は関連付けされているのでしょうか?」

「ああ、それは桜の異名……通り名に由来しているんだ。ファーストレディ、なんて言われたりするから」

「ファーストレディ……米国大統領または国家元首の配偶者ということでしょうか?」

「いや、そうではないよ」

「それでは、女性の第1人者という意味……ああ、そうですか。日本で1番の資産家であり、先程発表された世界長者番付でも1位になられたのですね。おめでとうございます」

「え? あ、発表されたのか」


 世界の資産家ランキングは、米国の経済誌が毎年3月に公表している。米国で事件があった関係で、今年はないものと思っていたのだが、遅れて情報公開されたようだ。


「少し訂正すると、以前はこの学園、竜宮学園のファーストレディなんて呼ばれていて……皆にとって、大切な人、という意味で使われているんだ」

「……なるほど。お父様とお母様は姓が同じです。佐藤姓は珍しいものではありませんが、偶然の一致ではなく、お2人は婚姻関係にあるものと考えて問題ありませんか?」

「そうだね」

「では、お母様はお父様にとって大切な人ですか?」

「僕にとって1番大切な人だ」

「理解しました。この場合の1番、とはどの程度を指す言葉なのでしょうか?」

「彼女のためなら、銃弾の前に立ち塞がることができる程度に、だよ」

「ひゅー、妬けるわねー」


 口笛吹けてない系の学園長のからかいに、肘で突かれたサクラは顔を真っ赤にしていましたね。


 この時はまだ、軽口と笑っていられたっすよ。

 本当にコーヘイは、サクラを愛しているんだな、なんてね。


 その冗談が洒落で済まなくなるその時まで、あと15年ほどのことだった。

BB>『傍にいても気付かれないのが得意! あとがき時空の支配者、ブルーバード参上☆』

NoN「暇なのです?」

BB>『Σ暇じゃないよ!?』

NoN「えーでも本編には出ないのですか?」

BB>『僕以上に出番のない主人には言われたくない(キリッ いえ、本当に忙しいんですよ。空港の監視カメラ映像をケントが映ってないように差し替えたりとか!』

NoN「犯罪はほどほどにするのですよ?」

BB>『でも、彼らに追っ手が来たらマズイでしょう?』

NoN「むぅー……まぁ見逃すのです」


 次回、『飛び去る光よ、汝に一杯の酒を勧めよう。その1』終わりへと向かう、記憶の断片。


 続きが気になる方、早く読みたい!って思ってくれた方いらっしゃいましたら、


 最新話のあとがき下のところから、評価を頂けると作者のテンションが上がります。是非よろしくm(_ _)m

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