第22話 -其れは傍にある幸福、あるいは唯のトリックスター-
ブルーバード、ライツ・イン・ワールドエンドの世界で最強(狂)のキャラかもしれませんね……。
その懐かしい声に、驚くオレ達……最初に反応したのはサクラだったっす。
「ブルーバード、貴方ね……どうやって侵入したの?」
ブルーバード、と呼ばれた彼……彼? ちょっと説明が難しいっすけど……。
ユメ・プロジェクトに参加した4名のうち、この場に居ない最後の1人……ノゾミっていうんすけど。そいつの相方……なんすかねぇ? オレ達も、ノゾミの持ち歩いてたデバイス越しに声だけ聞いた分で、実際逢ったことはないっす。
自称・超先史文明が遺した機巧知性体……ああ、いやまぁ、そんなホラ話、誰も信じてないっすよ? ただ、本人がそう名乗ってたってだけで。
確かなのは、世界有数クラスの天才ハッカーで、人をおちょくるのが趣味みたいな奴で……ノゾミのサポート役だったってことっすかね。ノゾミは機械工学には滅法強かったんすけど、情報系はさっぱりで。その辺のフォロー役だったっす。
あ、はっきり言っときますけど、こいつが人工知能って可能性はないっす。初めて出逢った(?)2010年代半ばにこんな流暢に会話するAIなんて有り得ないっすから。
ただ、ディープフェイクといって……AI技術を使って当時の声の特徴を再現した合成音声かも……? 当初の頃から声変わりしてないのがおかしいんすよね。姿を見たことはないし、オレ達と同い年とは限らない訳で、でも10年以上振りの再会で声が低くなってなかったもんですから。あーでも、女性声優が男の子役を演じるような形の可能性も……そう考えると、性別すらよく分からなくなってくるっすね……。
『どうやって? 妙なことを聞くんだね、桜。僕はエレベーターを降りて、普通に入ってきたじゃないか?』
「もう、からかうのはいい加減にしなさい、ブルーバード? ここのネットセキュリティは論理的に抜け穴はないわ。ここに侵入するのは、数学的に不可能よ」
『ぷー、くすくす。数学的に不可能(キリッ 頂きましたー♪ はい、でもこうして余裕でハッキングできちゃってまーす♪ さて、どうしてでしょうねー?』
「ぐっ……」
『はーい、じ・か・ん・切・れ♪ 桜ったら、案外頭固いんだね?(笑)』
オレらガクブルだったっすね。あのサクラを容赦なくおちょくるとか、ブルーバード以外じゃ考えられないっす。
『――それじゃ、大ヒント! ……トロイの木馬』
サクラは慌ててオレの上着、白衣のポケットをまさぐる。内ポケットに入ってたペンを抜き取って、床の絨毯に叩き付けた。
「これかぁっ!」
『叩き付けたらうるさいよ、桜。それ、盗聴器も兼ねてるんだからさ?』
どうやらそのペンもどきが、地下シェルター内の無線LANに接続して、内部からセキュリティをこじ開け、外部との通信を確立したみたいでした。
ただ、それだとこっちの音声は拾えないわけで……さっきから会話が成立しているのは、ペンが集音器の役割も果たしているから。
正直ぞっとしたっすよ。オレもいつ仕掛けられたか気付いてなかったっすから。
『あー、久しぶりだね、公平もケントも。元気してた?』
「ああ、元気だよ」
「……丁度、元気がなくなったとこっすけど?」
『あー、こっちからだと姿が見えないから、ケント、君だけでも部屋から出て、廊下の防犯カメラから姿を見せてくれない?』
「……? 他2人はいいんすか?」
『部屋に入る前に、元気そうな姿は見たからね。それより、アメリカの炎上に気付いて、泣き腫らしたケントの姿を改めて見直したいなーって♪』
「最低っすねホント!? 嫌がらせに来たっすか、ブルーバードッ!?」
この時は、悪魔が増えたようにしか思えなかったっすね。
『やだな、僕は困ってるケントの、力になりにきたんだよ?』
「……? どういうことっすか?」
『こないだ米国防総省に遊びに行ったらさー』
「いつものハッキングっすね、ホント何やってるんすか……」
『秘密会談の記録とか色々出てきてさ、米国やばそうだなと思って。そしたら、ケントがほとんど米ドルで預金してたから心配になってさ、口座にあった約20億ドルを移して、資金洗浄しておいたよ。まぁ、かなり目減りしちゃったけど、紙切れよりはいいよね?』
「銀行への不正アクセス、犯罪歴ぱねぇっすね。って、マジっすか?」
ちっ、とサクラが舌打ち。おい。
『今は大部分ユーロだけど、日本円の方がいいかな? 1千億円ぐらいにはなるはずだけど?』
「そりゃー、返して貰えるなら嬉しいっす、けど……? どうしてそうまでしてくれるんすか?」
『ただの野次馬根性さ。ケント、僕にもね、人の心はハッキングできないんだよ? だからこそ、0と1を介して人を見る――興味は尽きない。面白いよ? でもね? 今の君はとてもつまらない』
「言ってくれるじゃないっすか」
『ケントは今、金も会社も故郷も失い、友人に捕まって、言葉で追い詰められ、誘惑されているんだろう? ねぇ、君の信奉する自由はどこにあるんだい?』
「む……」
『桜も。あの論文は、さっき僕も読ませて貰ったよ。……ところで、あれは桜1人じゃ実現できないものなのかな?』
「ええ、そうよ。ケントに助力願いたいわね」
『はい、嘘。完成させるだけなら、桜1人でも充分だよ』
「何?」
『……もう次世代AIのコア部分は粗方完成しているじゃないか? 残りの部分だって、桜の知性で実現できないとは思わないよ?』
「……そうかもしれないわね」
『素直に、恐れていると認めたらどうかな? ケントが中国側に取り込まれたら、あるいはそうでなくても……自分の手の届かない場所で、桜より先に開発を終えてしまうかも知れないと……』
サクラの反論はなかった。
米国を復活させるほど強力な、次世代型人工知能の開発。それは恐らく、世界の誰よりも先んじて開発しなければならないだろう……それは世界を支配し得るほどの超知性だ。断じて後手に回るわけにはいかない。
『ほら、ケント? 桜はね、追い詰められた君という天才が、何をしでかすか、怖くて仕方ないんだよ。だから君を連れてきたし、抱え込もうとしてるのさ。君の価値が最も下がった瞬間を見計らって買い注文を出した。それを君は、怒ってもいいんだよ?』
「サクラは――」
怒気を含まない、オレの声音に察したのか、ブルーバードは言葉を重ねる。
『被害者が加害者を庇うなんて、ストックホルムシンドロームかい?』
「まだ庇ってねぇっすよ」
『逃げたいなら、翼を貸そうか?』
手を貸すとも違う、ブルーバード独特の言い回しに、苦笑い。
「ああもう、お前ら、人が落ち込んでるっつーのに、ぎゃあぎゃあとうるさいっす!」
『なーんだ、案外元気そうじゃないか?』
本当にこいつは人を焚き付けるのが上手い。その一言で、オレは自分の不甲斐なさも、喪失感も、この激情も全部呑み込めた。
「ブルーバード、提案があるっす。ノゾミに渡りは付けられるっすか?」
『主君は、のんちゃん、と愛称で呼ばないと拗ねますよ?』
「オレ達が作る新しい人工知能を組み込む、ロボットを作って欲しいっす。開発費はオレの預金全部で足りるっすかね?」
『……。了承が取れました。早速設計図を引き始めましたよ。予算がいっぱいで嬉しいのです! 目一杯性能を引き上げるから期待するのです! ……だ、そうですよ?』
「ケント、良いのか?」
「20億ドルを10年以上放置してたぐらいっすよ? オレが持ってても使い所がありませんし。ユメ・プロジェクトの焼き直しじゃダメっすから、データ学習も全部やり直さなきゃ話にならないっす! 人間や社会との関係性を学ばせるなら、身体はあった方が何かと便利ですし、できる限り良いモノを使うっす。その点あいつなら間違いないっすから」
「あの……ケント君?」
「おーっと、サクラ、勘違いするんじゃねーっすよ?」
「……どういう意味かしら?」
「人が弱ってるときに、あんな荒削りで尖っただけの論文1つでよくも大口叩いてくれたっすね? オレなら、ぱっと思い浮かぶだけでも、改善点は両手で数え切れないぐらいあるっすよ? コア部分が大体完成してる? はっ、オレに相談もなしに、早まったもんっすね、リテイクの山を突きつけてやるから覚悟しとけっす」
「ふふふ……ふふ、言ってくれるじゃない、吐いた唾は飲めないわよ?」
そして旧友と狂暴に笑い合う。それは本当の意味でサクラと手を組んだ瞬間だった。
『僕も火に油を注ぎに来た甲斐があったよ! 感謝してくれてもいいんだよ?』
「「「誰がするっすか?(のよ?)(んだい?)」」」
オレ達は、ここに団結した。
青い鳥『あとがきに侵入完了……この場は僕がいただきだね☆』
悪戯者『んー、名前何にしよう……これもしっくり来ない……』
BB『文字数がな……3文字で揃えないと読みにくいかも?』
BB>『よし、完璧☆』
不審者「Σ好き放題羨ましいっすね!? オレなんて不審者扱いっすよ? 理不尽っす……」
BB>『っ【鏡】』
不審者「いつも通り、超クールっすね!」
BB>『駄目だこいつ……早く何とかしないと……』
次回、『2030年 マイフェアレディ誕生』
続きが気になる方、早く読みたい!って思ってくれた方いらっしゃいましたら、
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