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第16話 -猫とデート、姉付き。(後編)-

 久しぶりの更新……大丈夫、ちゃんと生きてた!


 恐らくは1話としてはこれまでの最長……?なぜ前・中・後編で大体均等になると思ったんだ1年前の私……。

 eスポーツネタ・方言キャラなど初チャレンジが多すぎた……もうちょっと1話を短めに、更新頻度が大事と猛省。


 あと、やっと堂々と言えそうです。

 っ【この話は近未来SF(意味深)】

「さぁ、いよいよ始まりました、第10回アミューズメント・スクウェア・カップ冬季大会! 皆、3ヶ月振り! 元気してた!? ――司会はゲーム実況でおなじみ、KEN☆SUKEがお届けするぜ!」


 会場の熱狂は半端なく、司会者の前振りに歓声が巻き上がる。


「おーけー、おーけー! 徹夜で考えた爆笑必死の盛り上げトークは要らないようだな! 黒歴史は未来永劫封印指定だ! さぁ今回のルールをざっくり説明するぜー!」


『いや、お前そんなトーク絶対考えてないだろ!?』

『ノリで言ってるだけだよね?』


 そんなツッコミがあちらこちらから上がっていた。


「今回の参加者は飛び入り参加込みで512名、もう募集は打ち切ってるので遅れてきた奴は見学席へどうぞ! ガチでトーナメントやリーグ戦をやってると日付変わっても終わらないんで、まずは予選試合からだ!」


 巨大スクリーンに、試合の流れが表示される。


「まず、128名ずつABCDの4グループに分かれてのランダムマッチ。負けたら脱落で、5連勝した1グループ当たり4名が本戦トーナメント進出。トーナメントでこちらも4勝すれば見事優勝、賞金とトロフィーが贈られるぜ! なお、賞金は3位まで、決勝戦前に3位決定戦もやるからな! あと、予選中のちょっとしたインタビューやトーナメントの各試合はインターネット動画サイト、マイチューブで生放送してるからな! 映える試合頼むぜ! あと、叫んじゃいけないワードを叫ぶんじゃないぞ! 消されるからな!」


 観客の一部で笑いが起きた。

 舞ねぇが真顔で注釈を入れる。


「……第3回の時に、やらかして消された人がいたみたいね」

「え……マジ……?」

「ガクブルにゃー……」


 そして、表情を一転。


「なーんてね。生放送と言っても実際に配信されるまで数秒あるから、その間に自動でモザイクとピー音で消されたって意味!」

「な、なんだそういうことか……」

「びっくりしたにゃー……」


 そこで、ふと動画配信されるのかーと意識して、気付く。


「舞ねぇ、勝てるなら勝ちたいところだけど、超人的なのは、無しな? あくまでも人間にできる範囲で」

「んー、分かった、ROMを解析したり、ゲーム筐体に直接無線接続したりしないようにするね?」

「ある程度はしょうがないけど、目立ちすぎないようにな?」

「うん、りょーかい♪」


 流石に天下のマイフェアレディが参戦というのは、目立ちすぎてよろしくない。別の意味で騒ぎになりかねないし。


「さて――参加者の皆、受付で配布した参加票に、選手番号と予選のグループが書いてあるから、はい、分かれてー、速やかな進行に協力頼むぜ!」

「俺は310番……Aグループだな。そっちは?」

「私は222番だったにゃ。Aグループ、同じだにゃ♪」

「うん、こっちもA! 1番だったわ」

「1番とかマジ? 受付順に番号が並んでる訳じゃないのか……」


 恐らく、チーム参加してる人が予選で同じグループにならないよう配慮したのか? まぁ、何という偶然か、俺達は結局同じグループになってんだけど……。


   †


「うげ。いきなりかよ……」

「にゃ? 初戦はシンくんが相手だったにゃ! いざ、決着の時にゃ!」


 そこに、司会のKEN☆SUKEさんがカメラを構えるアンドロイドを引き連れてやってくる。


「さて、参加者インタビュー! 有名選手の前に、初々しいプレーヤーさんを発見! お2人さん、こんにちは!」

「こんにちはにゃ!」

「え? これ放送してんの?」


 身だしなみに多少気遣ってて良かった……。


「あ、ネット放送してるけど大丈夫?」


 一旦ジェスチャーでカメラを背けさせた後、確認。そこまで問題はないかな?


「OKにゃ!」

「おう、特に問題ないな」

「お2人さん、格ゲー歴は?」

「「今日が初めてだ(にゃ)」」

「おー、映像的に美味しい……! よーし、実況のお兄さんがちょっとアドバイスしておこう! ゲーム筐体の上の所に、ボタン操作の説明書きがあるから、きちっとチェックしておいてくれ。特に、打撃・ガード・投げの基本操作が書いてあるだろ? これを全体大雑把に覚えておくといいぜ」

「大雑把にゃ? 完璧に覚えておかなくていいのかにゃ?」

「完璧ならベストだが、これはジャンケンみたいなものでな? 打撃よりガードが強く、ガードより投げが強く、投げより打撃が強い……三すくみになってる訳だ」

「あー、つまり投げだけ完璧でも、相手が打撃ばっかしてきたら勝てないってことか?」

「そうそう、理解が早いねキミ! とりあえず 基本的な操作は一通り見といた方がいい。相手がどう動くかしっかり見て、有利に戦えるように頑張ってみてくれ!」


 何というか、ギャンブルに通じる部分を感じるな……。しっかりと相手を見ること、か。


「試合開始にゃ!」

「おし、勝負!」


 俺はゲームの主人公的な立ち位置の、白い柔道着に赤鉢巻きの男キャラを選んだ。

 みおは青いチャイナドレスにお団子ヘアの女キャラだ。対戦開始!


「2人とも、バランスタイプのキャラを選んだね! さっきの注意を意識して――ッ?」


 みおはいきなり全速力で前に出た。俺は直感的に殴って来そうだと思っていたので、慌ててガード。予想通りパンチが飛んでくる――そう思ったのも束の間。自キャラはすぐに投げられ、大ダメージを喰らう。え?


「いきなり当て投げ!? え、何この子?」

「当て投げって何っ? え、ちょ」

「通常攻撃を相手にガードさせて、相手にガード硬直が発生してる間に投げ入力――ってまた? え? 今日初めてって言ってたよね!?」

「3瞬も棒立ちしてたら投げ放題にゃ!」

「え、3瞬って3フレームのこと? 60フレ見えてる系ネコミミ少女?」


 なんて言ってる間に1(ラウンド)先取された。合間の僅かな時間。


「とんでもない相手に当たっちまったな……当て投げは初心者殺しというか……ガードじゃなくバクステ……ええと、バックステップ、後ろに下がって避けるのが楽な対策……そればかりでも壁に追い詰められるが、打撃と投げに無敵時間があるから――」


 その助言に従い、2R目に突入。そして。


「なんで動かないのにゃ?」

「こんなん勝てるかぁぁぁぁぁっ!!」


 もうやだ。バクステ直後にも硬直あるし!? みおの奴、タイミング合わせるの完璧すぎ……ルーレットで鍛えた動体視力と反射神経……基本運ゲーのルーレットでなんでそんなの鍛えられるんだろうな……訳が分からねぇ……。


「という訳で、玄人も裸足で逃げ出す天才少女現る……キミは残念だったな、良い試合だったぜ……!」


 実況さんに肩を叩かれた。

 どうやら、60フレーム、60分の1秒刻みの世界が余裕で見えてるらしい。


「にゃーっはっはっは、見てから余裕だったにゃー♪」

「うぐぐ……俺の分も頑張れよ……ッ」


 悔しい。何もできずに封殺されてしまった。

 当て投げも本来は攻撃動作に必要なフレーム数の把握が必須の技能らしく、実況さんがみお向けに更に助言を重ねていた。


 そして、およそ1時間が経ち、予選も大詰め。


 みおも舞ねぇも順調に勝ち上がり、それぞれ4連勝。あと1つ勝てば本戦だ。


「あ、みおちゃん?」

「にゃ、最後は舞ちゃんが相手にゃ?」


 舞ねぇはちょっと困ったような、悩むそぶりで俺を見る。


「全力でやっていいぞ。俺の仇を……頼む……ッ!」

「分かった!」

「にゃにゃ!? シンくん酷いにゃ!?」


 みおは大慌てだ。流石に勝てそうもないと感じているらしい。


 キャラクター選択。みおは同じキャラを使い続けており、舞ねぇは俺が使っていた主人公キャラ――に憧れる女子高生キャラを使っていた。特に意識していなかったが衣装が選べるようで、クラシカルコスチュームらしい。セーラー服姿だ。


 みおは果敢に前に出て、攻めに攻めている。舞ねぇは落ち着いたもので、俺がボコボコにされたような……どうしようもない「みおの勝ちルート」に嵌ってしまっている感じがしない。むしろよく対処しているように見える――が、ジリ貧だ。試合時間は1R99カウント、残り2秒で舞ねぇ側のHPバーが尽きた。


「にゃ? 舞ちゃんに勝った……にゃ?」


 勝った側のみおが、少し現実感がなさそうに呆然としている。しかし。


「うん。……うん。大体分かった」


 舞ねぇは小さく頷いていた。


 一転、第2R。舞ねぇは攻勢に出て、みおは守勢に回った。……あれ?

 何というか、舞ねぇの強さが際立っていて、みおは……あまり強く感じない?

 先程まではみおのことを割と手の付けられない強さだと思っていた……が……そう少し考え、思い至る。

 みおはこれまで攻めてばかりで守る側になってこなかった。試合の主導権を常に握っていたと言える。最初に有利を取り、有利なまま試合を終えてきた。

 主導権の奪い合いに勝ってしまいさえすれば、みおに勢いづかせなければ、あくまで格ゲー初心者に過ぎないと言うことか。主導権をどう奪い返すか、なんてそれこそ上級者でなければ身に付いていないのだろう。

 試合は30カウントほど残して、舞ねぇの勝利。舞ねぇはHPゲージを半分近く残していた。


「うん、解けた」


 何が? と聞くまでもなく。3Rは一方的だった。つか、舞ねぇはほぼノーダメージ、22秒で3R決着と相成った。みお……南無。


「舞ちゃん強すぎるにゃー!」

「あー、というか、第1Rも勝てたんじゃないの?」

「試合数を増やして、学習データを増やしたかったから……」

「あー」


 話を聞くと、どうやら5連勝した全てで、第1R負けからの逆転勝利らしい。

 そして、舞ねぇは本戦へと駒を進める。俺達はサポーターというか、選手の身内・応援的な立ち位置で割と近くの席で見られるとのこと。ありがたや。


   †


「さあ、これで予選も決着だぁ! 今のところ勝ち進んだのはこの16名!」


 会場中から、壇上の16名へと拍手が贈られる。


「それでは、第1試合! エース選手と、佐藤舞選手、準備お願いしまーす!」


 相手は外国人? と思ったが、普通に日本人だ。ニックネーム的な登録でも良かったのか……。ちょっと失敗したか?


 エース選手は明るく茶色に染めたショートヘアの女性。その快活そうな見た目通り、性格も陽気なようだ。


「それじゃ、まずはエース選手の意気込みをどうぞ!」

「へっへー、トランプ同好会の4人、皆が勝ち進めて良かったよー」

「お、学校のクラブ活動かな?」

「そう、竜宮学園大学部の! ふっふーん、今日こそはキングに勝って、優勝しちゃうんだからねー!」


 そんな様子を見て、名指しされたキングさん? が肩を竦めた。また、あからさまに頭を抱える黒髪ロングの着物女性、愉快そうに嗤うパンクファッションの男性……あれが同好会仲間だろうか? 3人とも、選手でありながら、サポーター席に着いている。


「そォ~やって油断して負けンのがいつものパターンだろォがよ~」

「もー、ジャック君! キングに一番勝ってるのはアタシなんだからね!」

「全員の中で一番負けが込んでンのもお前じゃねェかよ」

「なにしとうやす、エースはん? ちゃんと集中しぃ。お相手はんに失礼どすえ?」

「う……ごめんね、佐藤……舞さん、だよね、今日はよろしくね!」

「はい、お手柔らかに」


 2人は握手を交わし、ゲーム筐体前にそれぞれ座る。


 選択キャラは……舞ねぇは相変わらず女子高生、エースさんは可愛い女性キャラ……と思いきや、モヒカン頭のロシア人プロレスラーだった。筋肉ムキムキのパワーキャラだ。


「にゃ、あれ予選で使ってた人いたにゃ」

「お、どうだった?」

「にゃー。普通に弱かったけどにゃ?」

「でもなぁ……どう考えても力強そうなキャラだぞ? 扱いが難しいってだけで、上手く使えば実は強いキャラなんじゃ――って、足遅ッ」

「ほらにゃ? これで舞ちゃんが負けるとは思えないにゃ」


 しかし、舞ねぇは真っ向から勝負を挑んだ結果、その怪力プロレスラーの必殺技を喰らってしまう。倒れる女子高生が起き上がるタイミングで小パンチ。ガードするが硬直発生、また先程の同じ技を喰らってしまう。え、投げ技にしちゃ割と範囲広くね? その次は何とか抜け出したものの、HPバーはほとんど残っていない。

 慌てて距離を取る。近距離はダメ、ならば飛び道具――と波動を飛ばす。

 しかし、そのプロレスラーは両腕を伸ばして回転ラリアット。どうやらその技の最中は飛び道具が効かないらしく、当たり判定は発生しなかった。そのまま、ラリアットの直撃を喰らい、1R目は敗北。


「いぇーい、皆見てた?」

「だァァから集中しろッってェの!」


 エースさんは笑顔でVサインを仲間に贈る。


「うん、ここから巻き返すよー!」


 舞ねぇはこっちに右腕を大きく振る。


「おう、頑張れ舞ねぇ!」

「頑張るにゃー!」

「任せてー!」

「おお……舞さんもやるね! アタシも負けてらんないや!」


 エースさんも負けじと両手を振ってみせる。なんで盛り上げ競争してるの?


 第2R。ちゃんと主催側で一時停止(タイム)を入れていたようだ。良かった。

 舞ねぇが巻き返す。下段蹴りで転ばせてからの投げ。1R目を見て分かった通り、相手は投げキャラだ――投げキャラを逆に投げるのって何かこう……妙な爽快感がある。


 やがて、お互いが間合いギリギリで技を空振りさせるようになる。相手が踏み込んで来るなら叩く――あるいは、その空振りした技の硬直を狙う――恐らくはそのような心理戦? を繰り広げているのだろう、多分。

 じりじりとカウントは進んでいく。HPゲージは舞ねぇの方が残っている。このまま時間切れなら舞ねぇの勝ちだが、相手はパワーキャラ、一撃でひっくり返りかねない。


 とうとう焦れたのか、プロレスラーが突っ込んでくる。舞ねぇは待ってましたとばかりに、打撃を重ねていく。HPバーを削りきった。


「おおっと! 舞選手、1本取り返しました! これは面白くなってきたか!?」

「えー、なに、今の!? なんかすっごくやりづらかったんだけど!?」

「うん、よし、解けたかな」


 舞ねぇの本気が恐ろしい――3R目はもう予想通りというかなんというか。


「えええ!? なに、舞ちゃん何かすっごく強くなってない!?」


 終戦。静まりかえった会場を打ち破った第一声は、エースさんのものだった。いつの間にかさん付けがちゃん付けに変わっているのは、殴り合って打ち解ける系のアレかな? いや、ほぼ一方的に殴ってたけども。


「ありがとうございました」

「うう……すっごい悔しい! 次は絶対負けないからねー!」


 それでも二人握手。エースさん、腕をぶんぶん振って再戦の約束を……いや、叶うのかどうか、まず叶わない気がするけどな……! 舞ねぇが何度も参戦したらもう大騒ぎだよね、これ。若干手遅れじゃないのと思ってたけど途中棄権できる空気でもないぞこれ。


「くくッ、情けねェ、これだから『1回戦負けのエース』は……」

「ちょ!? ジャック!? 変なあだ名を付けないでよ!?」

「だが1回戦負けが多いのは事実だろォ?」

「決勝にも進んだことあるよ!? キングに負けちゃったけど!」

「ムラありすぎなンだよ、まァ任せとけ、俺がすぐ仇取ってやッからよォ」

「ふーんだ、別にジャックに仇なんて取って貰わなくてもいいもんねーだ」

「はんッ、いいか、調子乗るなよ……こいつは所詮竜学ゲーマー四天王の中でも最弱……! ぽっと出の女に負けるなんざ、四天王の面汚しだァ!」

「えええええ!? そこまで言う!?」

「さァ、次は俺が相手――」


「いや、君達、勝手に盛り上がりすぎだから!? ジャック選手の次の相手はあっちだから、無視しないであげて!?」


 司会が強引に話をぶった切るまで、すっげー目立ってました。どうしてこうなった?


「というかにゃ? 竜学って竜宮学園かにゃ? ゲーマー四天王がトランプ同好会ってにゃー? むしろゲーム同好会とかじゃないのかにゃ?」

「ああ、大学部は部活が多くてさー、ゲーム部、ゲーム同好会、eスポーツ部、電脳遊戯研究会、その他諸々、乱立してるんだよねー」

「同じ名前だと申請できなかったってところか?」

「そうそう、えへへ、ほとんどトランプでは遊んでないんだけどねー」

「ダメじゃねぇか……てか、その、他の部活とか? の連中も来てたんじゃねぇの?」

「あー、あはは、予選でほとんど脱落させちゃったかな……あ、でもジャック君の今の相手は、その、ゲーム部? あれ、同好会だったかな? eスポ、あれ電研? んん? どっかの誰かだった気がするよー」


 頼むからせめて所属ぐらい覚えててやれよ!? 眼中にないレベルで実力差あるのは分かったから――そう思ってる間に、ジャックは苦もなく2RでKO勝ち。

 なお、何気なくエースさんは舞ねぇの応援席に居座っていた。なんか向こうの応援席に居づらいらしく、友人枠と言い張ってここにいる。司会さんの諦め顔が印象的だった。


   †


 そして、準々決勝。

 ジャック――ソフトモヒカン刈りでトゲトゲしい革ジャンの男が、舞ねぇにガンを飛ばしている。気弱な奴ならこの時点で既に主導権を握られてしまうだろう――が、向かい合うのが舞ねぇでは、その手の盤外戦術に意味はない。


「よォ、さっきはうちの雑魚が世話になったみてェだなァ」

「雑魚じゃないよ!? もー、ジャック君こそ、油断してたらぼっこぼこにされちゃうんだからね! やっちゃえ、舞ちゃん!」


 むしろその「ご挨拶」に反応したのは応援席のエースさんだった。舞ねぇは普段通りの笑顔を浮かべたままだ。


「それでは、お手柔らかに」


 舞ねぇは無難な返しに留めていたが、どうやらエースさんはそれがご不満だったようで……。


「モヒカンは消毒だー!」


 などと、応援(?)をしていた。

 てか、お前さっきモヒカンキャラ使ってたよね? いいのそれで?


 舞ねぇは相変わらずセーラー服の女子高生、ジャックは見た目に反して正統派なのか、俺が使ってたのと同じ、赤鉢巻きに柔道着姿の主人公キャラだった。

 俺はもう、舞ねぇの勝ちを疑っていなかったが……僅かな時間とはいえ、自分の使っていたキャラクターと舞ねぇの対戦、という構図にドキッとした。


「なぁ、キャラクター的にはどっちが強いとか、あるのか?」

「このゲーム、すっごくバランス調整しっかりしてるから、強さの違いはほぼないかな。2年ちょっと前に発売されたとき、それで話題になったんだー」

「へぇー、そうなのか?」

「うん! なんと! ゲームの開発元が、あの! マイフェアレディにデバッグの依頼出したんだってさ!」

「ごふっ」


 むせた。何してんの舞ねぇ!?


「……? 大丈夫? 背中叩く?」

「けふ、いや、うん、大丈夫、続けて」

「うん、それでもう、全ての組み合わせでそれぞれ何億試合もシミュレートしてバランス調整したらしいから、強さに差はほとんどないと思うよ? キャラクターの相性も特にどっちがーってことはないと思う!」


 良かった、本当に、超人的なプレイ禁止しといてホント良かった……っ!

 何十キャラもいるのに、全ての組み合わせで何億試合って……通算で何千億回もプレイしてるってことじゃねぇか!?


「相性ってどんなのにゃ?」

「例えば、私の使ってたキャラだと、ヨガ使いに弱いかなー。腕が伸びたり、火を吹いたり、遠距離攻撃に特化したトリッキーなキャラで、近接投げキャラの天敵なんだー」


 聞いてみれば納得。キャラクターの個性は尊重されてる……と。


「ジャックのキャラはバランス型……だよな? 舞ねぇのはどうなんだ?」

「スピード寄りのバランス型、かな。基本ダメージ量は若干落ちるけど、コンボを繋げた時のダメージは全キャラでもトップクラスだよー」

「なるほどにゃー」

「まぁ、ジャック君のキャラの方が初心者でも操作しやすくはあるけど、どっちもすっごく上手いから関係ないしね!」

「はは……そうだな」


 一応学習データ的には今日が初めてと言って良いんだろうか? まだ冬なのに、冷や汗が止まらねぇんだけど!?


「おおっと、まずはジャック選手が1R目を制しました!」

「へっ、油断せず、次だ、次ィ!」

「ここから巻き返すよー!」

「両者とも、戦意は充分! 2R目開始だぁ!」


 なんというか、1R目を落としているのに、勝ち確な流れに見えてしまう。

 事実その通りだった。2R目からは空振り技で牽制するジャックの僅かな硬直を突き、スピードを活かした戦い方……に見えた。舞ねぇは体力を半分残したまま、KO勝ち。


「ぐァァ!?」

「……よし」


「差し返し技上手いなー舞ちゃん!」

「差し返し?」

「あ、ジャックが牽制でやってたのが『置き技』で……牽制後の硬直を突くのが『差し返し技』で……素直に踏み込んで当てに行くのが『当て技』って言うんだー」

「それも、もしかして三すくみ?」

「そうだよー、他にも牽制とジャンプと対空とか? 色々あるよー」


 そして、3R目。

 舞ねぇは、もう見切ったとばかりに体力を9割方残したまま、残り1割もないジャックにトドメを刺そうと連続技を繰り出した。容赦ないなと思った矢先、ジャックの逆襲。

「連続ブロッキング!? 練習でもあそこまで――」

「どゆの?」


 どういうこと――と聞きたかったが、思わず短縮形。


「上・中段(攻撃)にレバー前、下段なら下、ノーダメで守れるけど入力猶予0・08秒ぐらい! ああ! 硬直しちゃった! 舞ちゃん逃げ――」


 打撃判定に合わせてタイミング良くレバーを倒せば防げるそうだ。しかも相手を硬直させられると――それを幾度も連続で成功させたジャック、硬直時間が累積し大きく隙ができてしまった舞ねぇ、そこにジャックの超必殺技が繰り出された。


 だが、流石に体力を9割削りきることは叶わず、その後の舞ねぇの反撃で、あえなくジャックは敗北した。


「ぐああァァ、負けちまった……ッ」

「……良い勝負、ありがとうございました」


 悔しがるジャックに対し、すまし顔の舞ねぇ……だが、少し困惑したような、あるいは考え込んでいるようにも見えた。


「ごめん、詰めを間違えちゃった」

「いや、あれは相手が強かったんだと――」


 舞ねぇとしては、ちゃんと勝てたものの、不満の残る内容だったようだ。

 ジャックさんが自身の応援席、他の同好会メンバーの所に戻っていく。

 キング、だろうか? 黒ずくめな格好の男が背中を叩いていた。聞き取れなかったが、口の動きからして「ナイスファイト!」と慰めたか。

 そんな様子をエースさんは眺めていた。少しだけ口許を尖らせている。最後の連続ブロッキング、最後まで諦めない戦い振り、恐らく普段の実力以上だったのだろう。それを本番で見せた、先程まで憎まれ口を叩き合っていた同好会仲間。


   †


 そして、試合は進んでゆき。


「舞はん、きばりまっさかい、よろしゅうたのんますー」

「こちらこそ、よろしくね!」


 試合前に握手を交わす2人。


「さて、準決勝まで残った、佐藤舞選手とクイーン選手! それぞれ選んだキャラは……ッと、なんとここで、同キャラ対決だーっ!」

「あー、姫ちゃんらしいなー」

「にゃ? どう、『らしい』のかにゃ?」

「姫ちゃん、女キャラ使いなんだー、男キャラ全ッ然使わないの!」

「あのキャラは得意なのかにゃ?」

「んー……、どれも均等に使ってるイメージがあって……どうだろ? ちょっと分かんないかなー」


「それでは、試合開始!」


 司会の声と共に、始まった試合……なのだが。

 舞ねぇの操る女子高生が数歩前に出ただけで、試合が硬直した。

 対面、クイーンさんの操る側は、初期位置から微動だにしていない。


「なんか、衣装が違うだけで結構印象違うな……」

「あっちも制服っぽいけどにゃー」

「あっちはゲーセンのバイト制服バージョンだよ――って、なんで姫ちゃん操作してないの!?」


 あろうことか、クイーンさんは操作レバーやボタンに一切手を伸ばしていなかった。


「ちょい、ええどすかー?」

「えっとー……?」


 この展開に、舞ねぇも困惑気味に言葉を返す。珍しい。


「舞はん、相手に合わせるん、むっちゃ上手いどすなぁ?」

「……うん?」

「もうちびっと、好きなようにしはったら、良いのと違います?」

「ええと……両選手? え、なんで動かないの2人とも!?」


 遠慮なく、悲鳴を上げるように司会さんが問いかけるが……。


「そやさかい、1Rはせんどやのうて、ええやろ?」

「分かりました」

「え? 『せんど』って何?」


 司会さんが会話についていけてない!? 会場も、困惑のどよめきが広がっていた。


「1R目は『勝負所』ではない、という意味かと」

「そや、せんど言うてるやろ」

「どっち!?」

「この場合の『せんど』は、『何度も』という意味かと」


 舞ねぇ、京言葉もばっちりか!?


 舞ねぇの学習能力の高さ、それをクイーンさんは相手に合わせるのが上手い、と思ったようだ。1R目を敢えて捨てに来た――正気か?

 だが、マイフェアレディ――伊達に『公平(フェア)』を名に負うだけのことはあるというか――舞ねぇも、無抵抗な相手を殴りに行くような真似はしなかった。故の硬直状態。っておい。


「なあ、クイーンさんって、1試合目と2試合目でどのキャラ使ってたか覚えてるか?」

「1試合目はどうだったかにゃー……? 2試合目は女軍人キャラだったにゃ」

「ああ、最初の試合はチャイナドレスの――」

「そか、あー……毎回キャラが違うから、舞ねぇもマジでどう動いてくるか読めてねぇのか……」


 相手が尻上がりに調子を上げてくるのなら、初戦を捨てて調子を上げさせなければいい作戦――無茶苦茶な作戦だと思うだろ? なんか2人とも、上手く(むしろ下手に?)噛み合って、どっちも初戦を捨てようとしてるんだぜ……?


 しかも、俺は既に、本当に嫌な予感がしていて――それは当然のごとく、現実になる。


「ちょ、ほんと、ネット放送してるから、映える映像お願いって言ったじゃないですかぁぁぁぁっぁぁあああ!!!」

「いらちやなー」


 一番可哀想なのは司会のKEN☆SUKEさんだろう。なお、いらち=せっかちの意味――と、舞ねぇの解説。解説者より選手の方が解説してる謎の状況は混迷を深めていく。

 2R目も、お互い操作するそぶりも見せず……最終Rを取った方が勝ちという、短期決戦へともつれ込む。どうしてこうなった?


 流石に99カウント×2回分、軽快なトークで場を保たせることは諦めたようで……主催側の操作で、カウントを速めた。本当に、便利な機能があって良かったと思います。はい。


 気を取り直して、3R目。

 本来なら、攻撃を当てた時に溜まる必殺技ゲージの蓄積具合で有利不利が多少あるのが普通の最終Rなのだが……どちらもゲージは綺麗さっぱりゼロ、必殺技は出せても1度きりが良いとこ。


 クイーンさんはラウンド開始を共に、全速で前に出た。舞ねぇは少しだけ後ろに下がった――最終Rに至ってなお、様子を見ようとした。

 先手を取り、クイーンさんは一気呵成に殴り掛かる。舞ねぇもすかさず反撃を仕掛けるが、ダメージレースに勝てない。女キャラを満遍なく使う――1キャラを使い込む方が強いのでは? なんて疑問を差し挟む余地はなかった。愛の成せる技か、どんだけやりこんだんだよマジで!? という圧巻の実力。


 クイーンさんの体力は残り7割、舞ねぇは4割。攻撃をすればするほど必殺技ゲージは蓄積されていき、当然ながら先に必殺技1回分のゲージを溜めたのはクイーンさんだった。


 派手な連撃が舞ねぇを襲いかかり、これはトドメになりかねない――ッ!?


 そこで、舞ねぇの逆襲が始まった。10連撃を超える必殺技に連続ブロッキングを敢行、見事に成功させる。クイーンさんの硬直を逃さず、殴り掛かる。体力ゲージはおよそお互い同等に――しかし、舞ねぇはまだ必殺技を使っていない分有利!


 そして、そこで舞ねぇの必殺技ゲージが溜まり、よし、これで……? え?


 舞ねぇは必殺技を放つことなく、接近してのインファイト。一拍の後、理由を悟る――ああ、もし――クイーンさんも連続ブロッキングを成功させた場合、今度は舞ねぇが硬直を喰らい、不利な状況に陥ってしまう! だから……!


 先程は力負けした正面からの撃ち合い、相手の僅かな硬直だけがこちらの優位――一気呵成のラッシュ、ラッシュ!


 舞ねぇ3割、クイーン1割強? されど、巻き返す。まだ、正面からの殴り合いではクイーン有利――それでも、舞ねぇは必殺技を使わない、クイーンも再度溜める余裕はもうない。


 もう、クイーン側も体力ゲージは残り5%あるかという所で、必死の粘りを見せ、舞ねぇ側も1割を切る。


 舞ねぇの立ちガードをすり抜ける、クイーンの下段蹴りで、再逆転――いや、もはやまともに当たればどちらにもKOが見える状況。

 最後の最後で、舞ねぇは一歩踏み込んで殴りつける。

 クイーンはそれをガード――それを、舞ねぇは投げ技で地面に叩き付けた。試合終了。


「にゃ、当て投げにゃ!」


 みおは自身の得意な技で決着したことに、色めき立った。


「舞ちゃんに……あれを教えたのは私にゃ!」

「いや、みおの得意技がそれしかなかっただけじゃねえの?」


 ステージ上で、握手を交わす2人。カメラ中継で、マイクも向けられている。


「最後に間違(まちご)うてしもたなー」

「いえ、ありがとうございました」

「要れへんお節介焼いてしもたかなー思ててん、堪忍えー」

「こちらこそ、反省の多い試合でした」

「そや、この()はリーチも短い、体力もあらしまへん。変に様子見してはるより、前出てコンボダメージ狙う方がええんちゃうかなー思うんどす」


 その一言に、舞ねぇは目をしばたたかせた。珍しい表情――本当に感情豊かだなと思う。

 確かに攻撃の範囲が狭く打たれ弱い、コンボダメージが大きいキャラなら、舞ねぇの様子見戦略は向いていないのだろう。同キャラ対決であったが故の気づき。

 しかし、舞ねぇは何に驚いたんだ? 改めて言葉にされなくとも、反省の多い~と言っているのだから、自分でも気付いていたのでは?


 些細な疑問は、次の準決勝第二試合への歓声で掻き消された。

 それは主に、トランプ同好会の最後の1人、キングさんへのもの。


「それでは試合開始!」


 格ゲー素人な俺でも分かる、圧倒的な凄まじさ。仮にも準決勝、俺やみおみたいな初心者が相手って訳がない。にも関わらず、あっという間の2RKO。試合時間はどちらのRも30秒を切っており、2R目に至ってはノーダメージ勝利だった。


 暫くの無言。見ただけで打ちのめされるキングさんの実力。

 気付いたときには3位決定戦――クイーンさん達が戦っている。


「え……次の相手マジ強すぎねぇ……?」

「あー、キングはホント強いよ? なにせ、世界王者(ワールドチャンピオン)だしねー」

「にゃ!? マジモンのキングなのにゃ!?」

「一昨年の世界個人戦で総合優勝、去年は総合3位だったんだけど、格ゲー部門だけなら2連覇達成してるし! 多分このゲームなら世界一強いんじゃないかな?」

「むしろ、なんでこんな地方大会に!?」

「ここ地元だし? いやー、確かに他の小さな大会だと出禁喰らってるんだけどねーあはは」


 いやいやいやいや!? てかそうか、観客やたら多い理由それか!? むしろ偶然でも勝負できればラッキー、負けた後の握手が楽しみとかいうレベルじゃねぇか!?

 たかが小さな地方大会――と高をくくっていたが、注目度は段違いの大会だった!?


 だけど、流石の舞ねぇも、多くの制限を抱えて、世界王者相手に勝つのは無理じゃないか? 案外普通の試合になってくれるんじゃ……。


「んー……じゃ、ごめんね? そろそろ向こうの応援席に戻るよー」

「あ、行っちゃうのにゃ? 解説ありがとにゃ!」


 そこで、丁度舞ねぇが俺達の所に戻ってきた。


「そうだ、このままだとスパイしてたみたいだし、舞ちゃん、1つだけ言っておくね?」

「? はい?」

「どんな事情があるかは知らないけど、全力でやって欲しいかなって。それじゃ!」


 舞ねぇの肩を軽く叩き、そのまま去っていくエースさん。困惑はいや増すばかりだった。


「それでも……、これまで通り、だな」

「うん、任せて! 行ってくるねー、信一くん♪」


   †


「さぁ、とうとう試合も残り1つ! ここまで勝ち残ったのは――ッ」


 熱の籠もる司会の声が、会場の声援を煽る。


「皆もご存じのこのお方! 格ゲー界で世界最強の男! キング選手!」


 腕を突き上げる、全身黒衣装の男。それに合わせて、観客も8割方、腕を突き上げた。マジ? 大部分がこいつのファンってこと?


「後でサインください!」

「KEN☆SUKEさん、僕がここ来るたびに毎回言ってないかい……?」


 司会のこの発言には会場中から不満の声が飛んだ。それはもう飛びまくったが……。


「例え10枚目であったとしても、欲しいものは欲し――あ、ホントすみませんでした!?」


 2割笑い、8割嫉妬のほぼほぼブーイング。まぁでも司会さんも時折苦労性なところが垣間見え、憎みきれない感じはしてる。


「――これまで第1回から第9回まで、全てにおいて優勝! 絶対王者が10連覇に挑みます!」


 紹介を締めると共に、キングさんに向けての歓声が徐々に収まっていき……。


「そして、今大会に突如現れたダークホース、期待の超新星、佐藤舞選手!」


 キングさんには敵わないものの、大きな歓声が上がる。むしろこちらは、見目の良い女性が勝ち上がったからだろうか? 一見クールそうな見た目に反し、人受けの良い振る舞いが好印象を集めたようだ。


 司会さんはアンドロイドから何かの資料を受け取る。


「さて、これまでの2人の戦績は……っと、これは実に対照的だ!」


 どうやら、それにはこれまでの試合結果がまとめられていたようだ。


「キング選手は予選から全ての試合で2RKO勝ちを決めているぜ! それどころか、体力ゲージが半分を割ることすらなく、パーフェクト勝利も度々、圧倒的な戦績だ!」


 再び蘇った歓声が落ち着くのを待って、舞ねぇの戦績紹介に移る。


「一方、佐藤舞選手は先程の準決勝を除く、全ての試合で1R目を落としているとのこと! つまり裏を返せば、逆転に次ぐ逆転で勝利を重ね、見事に決勝まで勝ち上がってきています! 初出場ながらこの逆境への強さ、挑戦者として頼もしすぎるぞっ!」


 2人は筐体越しに向き合う。


 キングさんが選択したのは、俺やジャックさんが選んだのと同じ、主人公格の道着の男、舞ねぇは彼に憧れる女子高生。


「さぁ、試合開始だー!」


 両者、前に出てのインファイト。

 もう既に、ジャックさん相手にそのキャラクターの動きは見ており、クイーンさんにも様子見には向かないと指摘された通り、舞ねぇは退かず、最初から攻勢を仕掛けた。


「おっと……これは……ッ」


 実況に慣れているはずの司会さんも、息つく間のない打ち合いに言葉を無くす。ダメージレースは全くの互角、舞ねぇの体力が半分を切るとほぼ同時、キングの体力も今大会初めて半分を割った。予想外の健闘に会場全体がどよめく。


 置き技で牽制するキングに対し、一瞬の技後硬直を突いた差し返しが決まり、必殺技ゲージを先に溜めたのは舞ねぇだった。そこに必殺の連続技が放たれ、全キャラ中でも特筆すべきコンボダメージを叩き込み、決着。


「っと、これはまさかの――ッ」

「……タイムを」


 手を上げ、一時停止を要求したキングさん。見れば、額に大粒の汗が浮かび、息も上がっている。会場内は熱気に包まれているとはいえ、あくまでも季節は冬――たった1戦、70秒ほどの戦いで、凄まじい消耗だ。

 クイーンさんが応援席から駆け寄り、タオルを渡す。


「ええと、キング選手? 大丈夫ですか?」

「いやー、彼女ホント強いね……一昨年の決勝を思い出したよ……」

「それは、その……世界大会の?」

「うん、ジャック……僕のカバン持ってきてくれないか?」

「……おォよ」


 キングさんは顔を拭った後、持ってきてくれたカバンから金色のコントローラーを取り出す。


「大会のレギュレーションを確認するけど、私物のコントローラーを持ち込むのはOKだったよね?」

「え、ええ。一度こちらで確認させて頂いて、連射機能などが付いていないものであれば……って、これまさか、世界大会の――ッ?」

「優勝者に贈られるトロフィー、その副賞だね。確認をお願いするよ」

「えっと、ちょっとそのう……よ、ようく確認させて貰いますね……おお、これが……」


 連射機能があるかないかなんて、見ればすぐ分かるだろが!?

 観客席がブーイングに満ちてもまだ確認を続けようとしたので、カメラマンのアンドロイドに止められるとかいう珍事が発生した。


「さて、それでは第2Rの開始です!」


 気を取り直して、次の試合。必殺技ゲージを使い切った舞ねぇに対し、キングさんはもう間もなく1回分が溜まるところ。このRは舞ねぇに不利だ。およそ互角の打ち合いが――あれ、と違和感。舞ねぇが少し負けてる?

 少しだけキング側に傾いた勝負の天秤は、反撃を許さない数瞬の硬直を突いた必殺技がトドメとなり、舞ねぇが第2Rを落とした。


「タイムをお願いします」

「っと、了解!」


 今度は、舞ねぇがタイムを要求。司会が応じる。

 舞ねぇは応援席、俺のところまでやってきて、呟くような小声で言う。


「――ごめん、どうにも手を読まれてる感じがする――次は勝てそうにないかな」

「……そっか、でも無理に――ッ」


 その時、舞ねぇの瞳が、とても哀しそうに見えた。

 無理して勝たなくていい、目立たない方が優先だ。そんな考えが、吹っ飛んだ。


「何か、理由があるのか?」

「ホント、失敗したなぁ……私ね、何となくこのキャラクターを選んだんだ……下の名前が、お母様と同じだったから」

「にゃ!?」

「負けそうになるなんて、思ってなかった。リスクを恐れずに、最大限の成果を狙っていくスタンスが、こうもお母様と重なるなんて思わなかった。……ランダムにキャラを選んでいたら、負けても気にしなかったのに――」


 つまり、どうしようもなく。勝ちたくてしょうがないと。


「舞ねぇ。最後だけは、好きにやっていい」

「――信一くんッ?」

「まぁ、筐体に不正アクセスとかはダメだけどな? デバッグ協力で相当やりこんでるんだろ?」

「うん……、うん! 勝ってくるね!」


 そして、舞ねぇは1兆回に迫る試合経験、そこから編み出された勝つための手法、その封印を解く。キングさんに弱点があるとすれば、それはその筋では有名人であり、動画サイト、マイチューブにプレイ動画・解説動画が2927件。このゲーム以外は除外、本人の投稿に限る。それでもまだ該当181件。これらを全てダウンロード、解析し、傾向を、思想を、その在り方を徹底的に分析し尽くし、最後の勝負に挑む。


 それは、圧倒的だった。

 最終Rは、2R目で必殺技を使わなかったため、舞ねぇの必殺技ゲージの方が多く溜まっており……その分、舞ねぇに有利だったろう。

 それを込みで考えても、圧倒的だった。


 舞ねぇの打撃にはガードを、ガードには投げを、投げには打撃を、必殺技には的確なブロッキング、舞ねぇの全てを懸けた何もかもが、一切通じなかった。レバー音が空しく響く。


 キングさんは、最終Rをノーダメージで、大会10連覇を決めた。


「舞ねぇ!」

「舞ちゃん、大丈夫にゃ!?」

「なんで……」


 舞ねぇは、筐体の前でうつむいたまま。

 会場は大盛り上がりで、司会さんもキングさんにマイクを向けている。その全てが遠く感じる――どうしてこうなった?


   †


 表彰式の準備のため、舞台は一時閉鎖だ。その場から舞台脇へと移動する俺達に、キングさんが駆け寄ってきた。

 舞ねぇは、ああ、と顔を上げる。試合後に握手をしていなかった、と。手を差し出す。

 キングさんはどこか落ち着きなく周囲を見やる。舞ねぇと、俺達だけ。観客もトランプ同好会の他のメンバーからも離れている。彼は握手をして、小さく、だけどはっきりとした声で言った。


「ありがとうございました。今日は1つ、夢が叶いました――貴女とは、一度やってみたかった」

「えっ」

「それと、デバッグ協力もありがとう。お陰で、皆が楽しめる良いゲームになりました。ゲーマーを代表して、なんて言うのは傲慢かもしれませんが……お礼申し上げます」


 マイフェアレディって完璧にばれてた!?


「あの……? 何故分かったんですか?」

「1R目までは確信が持てませんでした。が、2R目で生身の人間とは思えないと気付きました」

「2R目……ですか?」

「キングさんがコントローラーを持ち替えた試合だったにゃ」

「そこから、キングさんの逆襲が――……ん? コントローラー……?」

「どうしたにゃ? 不正はないって司会さん確かめてたにゃ?」


 舞ねぇの使っていた筐体のアーケードコントローラーと、ゲームパッドコントローラーを頭の中にイメージ。操作性の違いは勿論だが、大きな違いがもう1つあることに気付いた。

 そして、格ゲーは三すくみの要素が多く見られ、全キャラクターの特徴や技を全て頭に入れ、判断力や反射神経も人間の限界に迫るほどであったなら――最後に残るのは読み合いであり、いわばジャンケンの強さと言い換えて良い。

 しかし、最後の試合は一方的な結果となった。何度も何度もジャンケンをやって、全てで負けたのであれば、後出しか、出そうとする手を事前に悟られている可能性をまず考えてみるべきだ。だったら……。


「正直、信じられねぇんだが……。もしや、音か?」


 キングさんは、薄く微笑んだ。マジか。マジでこんな突拍子もない妄言じみた推測を、本当にやってのけたってのか?


「にゃ? 音? がどうかしたにゃ?」

「舞ねぇのアケコンの操作音を聞いて、舞ねぇの動きを事前に察知してたんだろう。パッドに持ち替えた理由は、アケコンに比べて音が立たないから。自分の操作音で聞き取りにくくなるのを防ぐのが目的だった。んで、2R目で確信を持ったのは、舞ねぇの操作が完璧――無駄がなさすぎて、むしろ不自然に感じたんじゃないか? 3R目で手も足も出なかったのは、無駄な音が一切ないんだから、むしろ聞き取りやすく対処は楽だった……とか?」

「うん、君は着眼点がいいなぁ……見事な名推理だよ」

「じゃあ、もしダミー操作を大量に混ぜていたら――」

「1R目と同じく、苦戦はしたかもね。ただし、僕のちょっとした特技がこれしかないとは、思わないでくれよ? これでも、格ゲーの世界王者やってるんだぜ?」


 不敵に笑うキングさん。易々と勝たせるつもりはないと、王者の風格を見せる。


「ただ、君達は……その、言葉にするのが難しいが……不思議な間柄だね。アンドロイドを姉と呼ぶ君は、別にアンドロイドって訳じゃないだろう?」

「まぁ、そりゃそうだけど……?」

「こうして試合を終えて改めて見ると、本当に息のあった姉弟みたいに見えるんだ、だから惜しい――君が2R目で気付いてフォローを入れていたら、2人がもっと上手く協力して立ち向かってきてたら……更に良い勝負ができたんじゃないかな? ってね」

「にゃ!? 私もいるにゃ!?」

「うーん。まだまだ初々しい高校生カップルって感じだから、今後に期待かなぁ」

「これが大学生カップルの余裕にゃ!? クイーンさんからタオルを貰ったときのあの夫婦感は羨ましかったにゃー」

「え? マジで? クイーンさんが?」

「あーまぁ……はは、藪蛇だったかな」

「意外と恋バナが弱点のようだにゃー? 舞ちゃん、次の機会があれば、その辺をつつきながら戦うといいにゃ!」

「君も容赦ないな!? ああ、この連携はうちのチームも見習わないといけないか」

「チームって、トランプ同好会の?」

「そう。個人戦だけじゃなくて、チーム戦で世界大会を勝ち上がるのが、僕達の夢なんだ」

「個人でも団体でも世界一目指すにゃ?」

「団体では日本ランキング6位だから、まだまだ遠い道のりだけどね」


 そう言って、笑みを浮かべるキングさんの横顔を見て、思わず疑問が浮かぶ。


「キングさんが――『表彰式の準備ができましたので、入賞者の方は――』」


 何とも間が悪く、アナウンスに掻き消されてしまう。話はここまでか。


「舞ちゃんが表彰台に上がるとこ、見てるにゃ!」

「舞ねぇ、いってらっしゃい!」


 放送に従い、身内の応援者は表彰式の舞台のすぐ傍まで行ける。

 駆けだした舞ねぇと、悠然と舞台へ向かうキングさん。


 最後に聞いてみたかった。


 ――笑って世界に挑むなんて言えるのは、貴方が強いからなのか?


「……いつか君が、全てを懸けて世界に挑む日が来るのなら、それが答えだろ?」


 トントン、と己の耳を指先で軽く叩きながら、振り向くことなく表彰台へ。

 アケコンの操作音さえ聞き分ける耳は伊達ではないようだった。


   †


「それでは! 第10回アミューズメント・スクウェア・カップ冬季大会の表彰式を始めるぜ!」


 会場中から拍手と歓声が飛ぶ。


「まずは第3位! 様々なキャラクターを使いこなし、華のある戦い振りを見せて頂きました! クイーン選手!」

「おおきに、ありがとうなー」


 着物姿で表彰台に上がったクイーンさんはクリスタル製の表彰楯を受け取った。応援席、同好会の皆に向けて小さく手を振っている。


「続いて、第2位! 初出場ながら、驚異の大健闘で会場を魅せてくれました! 佐藤舞選手!」

「うん、ありがと!」


 少しはにかんだような、とびきりの笑顔で2位の楯を胸元に抱える舞ねぇ。観客も大いに沸いた。


「そして、優勝――奇跡の10連覇を成し遂げた、キング選手!」


 贈られたのは楯ではなく、金色の優勝カップ。受け取ったそれを高々と天に掲げ、会場中から惜しみない拍手が贈られた。


「また、表彰台に登った皆さんには賞金も贈られます!」


 それに、いち早く呼応したのは、意外にもキングさん。


「それじゃ、KEN☆SUKEさん、『いつもの』ように頼むよ」


 その言葉に、一部の観客からひゅるりと指笛が鳴らされる。


「分かりました、いつものように、僕の懐に――」

「そんなん1度もしたことねぇよ!?」


 歓声が一転、ブーイングに代わる。

 うん? 一体どういうことだ?


「――という訳で! キングさんの御厚意に感謝感激雨あられ! 優勝賞金300万円は、引き続き! 会場の貸し切り・後夜祭に使用させて頂きます! 賞金を使い切るまで、全てのゲーム台のプレイ料金が無料になります! 皆、楽しんでいってね!」


 その気風の良さに驚いた。

 勿論、ライツがあって生活に困ってないからとか色々言うことはできるだろう。

 でも、彼はその超絶的なゲームの腕前を、決して奪い合うためじゃなくて――競い合うために。ただ、一緒にゲームで遊んで楽しむために使っている。

 カジノに入り浸り、奪い合いに慣れ親しんだ俺には、妙にこそばゆく、どこか居心地が悪いような、むしろ心地良いような。参ったな、と。そう思ってしまった。


「ほんなら、うちのも!」


 そう言って、3位の賞金100万円を手放したクイーンさん。


 戸惑う舞ねぇの瞳は俺の方へと。小さく頷く。それだけで伝わった。


「この賞金も、ぱっと使っちゃって!」


 舞ねぇの200万も合わせて、合計600万円分の賞金が投げ出される。

 歓声は最高潮に。喧噪の中でみおが耳許に口を寄せてくる。


「良かったのにゃ?」

「いーんじゃねぇの? こんな優しい世界があったって――」

最強(笑)姉「うう……。負けちゃった」

メイド「あの、舞さん? 名前がとんでもないことに――」

最強(笑)姉「Σなんてこと」


一方その頃、トランプ同好会部室にて。


A「いやー、楽しかったね!」

J「ちィ……2回戦負けたァ情けねェぜ……おい、一勝負やンぞ!」

A「望むところだー! ……あれ?」

Q「どないしたん?」

A「見て見て! 最新アップデートが来てるよ! 内容は……これ凄いよ! 通信対戦で、マイフェアレディと対戦できるんだって!」

K「ちょ」


30分後。


A「強すぎ……」

J「勝てねェ……」

Q「いけずやなー」

K「マジ対策してきてる……勝ち筋あるのか……?」


更に17時間後。


A・J・Q「「「zzZ」」」

K「っしゃあああ!!! 勝った! 勝ったぞ!!」

エナジードリンク3本を空にした狂える王者Kの雄叫び、最後の力を振り絞りってプレイ動画をネットに上げた。

その再生数が伸びるより速く、Kは寝落ちした。


更に8時間後。


A・J・Q・K「「「「マイフェアレディVer1.0.1と対戦できるアップデート……?」」」」


真・最強姉「どやぁ」

メイド「流石ですっ! 舞さん!」


2050年の世界大会は、例年以上にハイレベルな戦いになったそうな。


 次回、米国からやってきた男とようやく遭遇――の前に、学園長(通称)の独白!?


 続きが気になる方、早く読みたい!って思ってくれた方いらっしゃいましたら、


 最新話のあとがき下のところから、評価を頂けると作者のテンションが上がります。是非よろしくm(_ _)m

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