追放冒険者、パーティーメンバーに一泡吹かせる。
「……一緒に行こうぜ、アラン」
そう言って手を差し出されたとき、僕は涙が出るほどうれしかった。
辺境の小さな村でくすぶっていた僕を、彼らは誘ってくれた。
お前は仲間だ、だから俺たちと来いと。
共に冒険者になって……そして、いつか魔王を倒そうと。
だから……。
「……お前はパーティーから追放だって言ってんだよ、アラン」
同じ口から出たその言葉に、僕は頭が真っ白になった。
◆◇◆◇◆
「な、なにを言ってるの、アウグスト! なんで今更……。ねぇ! ジョエルもソフィーもなんとか言ってよ! おかしいでしょ!?」
アランが言った言葉に、このパーティー《竜の足跡》のメンバーはそれぞれが目を逸らした。
治癒術と槍術の使い手、《光の神の武神官》であるジョエルも、魔術と召喚術の使い手、《深森の魔女》ソフィーも、アランの目を見ようとしない。
《聖剣の担い手》アウグストだけがまっすぐにアランを見つめていて……まるで今言ったことは決して覆らないのだ、とはっきり態度で示してるようだった。
事実、アウグストは続ける。
「……アラン。これは全員の総意なんだ。ジョエルもソフィーも納得済み……つまりな。みんな、お前を足手まといだと思ってるんだよ」
「なんで……そんな。村で言ったじゃないか! 僕の力が必要だって! 僕たちで伝説を作ろうって! あれは嘘だったの!?」
「そんなことはない。あのときは確かにそう思ってた……だけどな、アラン。これからのことを考えて見ろ。俺やジョエル、それにソフィーは今が冒険者として最盛期だ。実力も経験も積み上げてきて、今なら……大きなことが出来る。俺たちだけならな。だが、お前がいるとな、アラン。それも出来ないんだよ」
「どうしてなんだ……! 今までだって一緒にやって来たのに……」
「だからこそだ。今までは俺たちがお前を守ってやってたんだよ。お前が気づかねぇようにそれとなくな。それに俺たち全員で色々教えてやってきただろ? お前に実力がねぇからだ。いつかは俺たちと肩を並べられるほどになると思ってたが……どうも見込み違いだったらしい。ここらが良い頃合いだぜ。お互いによ」
「どういう意味……?」
「俺たちは俺たちだけでやっていく。お前はお前で、やっていけ。そういう意味だ……」
「いやだ!」
「断ったって意味ねぇんだ。俺たちは明日、街を出る。着いてくるんじゃねぇぞ……じゃあな」
そう言って、アウグストは背を向けた。
金色の髪を持った優男風のジョエルが、
「ま、アラン。楽しかったけど……楽しいだけじゃダメだったってことだね。気の毒だけど、君の道行の先に幸いが広がっていることを願うよ」
そう言ってやはり背を向け、赤目黒髪の美女、ソフィーが、
「あんたに魔術を教えるのは面白かったよ。呑み込みも悪くはなかったけど……あたしたちについて来れるほどじゃなかったね。ま、街の魔法屋くらいには今すぐにでもなれるし、あたしらと別れたってやってけるさ。元気でやりな」
そう言って、同様にアランを置いて去っていった。
アランはそんな彼らを追いかけようと、手を伸ばしたが、しかし、体が動かなかった。
それくらいに、茫然とした気持ちで……。
日が暮れるまで、その場に立ち尽くしていたのだった。
◆◇◆◇◆
初めて自分一人でとった宿のベッドの上で、アランは天井を見上げる。
どうしてこんなことになってしまったのだろう、と。
始まりは、確かに光り輝く未来が見えていたはずなのに。
アランは、元々小さな村で生活していた貧民だった。
他の村人たちとは異なり、生まれつき差別される……そんな役割を担わされて存在していた、人間のゴミだった。
母も、父もそのように扱われて、死んでいった。
一人生き残ったアランは、人が嫌がる仕事だけを任され、そして僅かな対価を渡されて泥水を啜る様に暮らしていたのだ。
そんなアランの村に、ある日、アウグストたちがやってきた。
後に聞いたところによると、古い伝承を調べた結果、アランの住んでいる村の近くに古代魔法帝国の遺跡があることを知ったからだという。
確かに言われてみるとその辺りには明らかに人工物と思われる石垣などがいくつも存在していた。
アウグストたちはその遺跡までの案内を村人に頼んだ。
しかし、その遺跡がある場所は村人たちはまず近付くことのない禁忌の地で、だからこそ誰もその依頼に答えようとはしなかった。
けれどアウグストたちは、村長に多額の金銭を支払うことで、案内役を見つけることに成功したのだ。
それこそがアランだった。
村長は、アウグストたちの払った金のほとんどを自らの懐に入れ、そしてその中のほんの一部をアランに渡して、仕事だと冷たく言い放った。
アランからしてみれば、そんな金ですらも大金で……だから、二つ返事で引き受けたのだった。
アウグストたちはまだ十をいくつか過ぎただけの子供に、魔物が跋扈する禁忌の地の案内が出来るのか、と始めはいぶかった。
けれど、アランの仕事には周囲の森の魔物の間引きも含まれていた。
そのための技術は亡き父母に叩き込まれていて、たとえ禁忌の地と言えども入ることが出来たのだ。
実際、魔物を倒すアランを見て、アウグストたちは驚いていた。
「……この年でここまで戦える奴は中々いねぇぜ」
「僕も小さなころから武神官としての修行はしてたけど……同い年くらいのときにあそこまでは出来なかったな……」
「……魔術の素養もあるようだね。無意識だけど、魔力的強化をしているようだ」
そんな風に。
かなりのお世辞も入っていただろうが、アランは生まれて初めて身に付けた技術を褒めてもらったので嬉しくなり、アウグストたちと道すがらたくさん会話を交わすようになっていった。
アランの身の上についても話したところ、アウグストたちはそれにも驚いたようで、
「……あのくそ村長が。そんなことやってやがったのか」
「今にして思うとアランを見る目には……温かみがなかったね」
「《守り人奴隷》、か。こんなど田舎にはそんな風習も残っているんだね。王都に報告しなければならないね……」
深刻そうにそんなことを言っていたが、そのときのアランにはどうでもいいことだった。
ただ、彼らと過ごすのが楽しく、彼らとの道行きが、ずっと続いたらいいのにと。
そんなことを思っていた。
けれど、あくまでもアランとアウグストたちは冒険者と道案内に過ぎない。
遺跡に入り、彼らの目的の物が手に入った時点で、付き合いは終わる。
そういうものだ。
だからこれは一時の夢で……。
ずっと大切に記憶に持っていようと、一つ一つの出来事を深く心に刻んでいった。
なのに。
全てが終わって、彼らが帰ることになった日。
アウグストがアランに手を差し出して言ったのだ。
「……一緒に行こうぜ、アラン」
「……え?」
「なんだよ、俺たちもう仲間だろう。もちろん、この村に愛着があって、ずっといたいってんなら仕方ねぇが……。そうじゃねぇならよ。一緒に行かないか?」
物凄く困惑したのを覚えている。
同時に、とても嬉しくて、今すぐにでも頷きたいと思ったことを。
けれど、そんなアランたちの会話に、村長が口を挟んだ。
「な、なにを言っているんだ! そんなことは許されないぞ! そいつはこの村で最も強い守り人なんだからな!」
そうだ。
確かにアランは村で一番強い守り人だった。
というのは、他の守り人たちは村人たちの中でも狩人や木こりなどが持ち回りで行っていて、専門でずっとそれをしているのがアランしかいなかったからだが、しかしそれでも事実は事実だ。
村長も困るのは当然だろう。
けれど、そんな村長にアウグストは言う。
「……こんな扱いしといて、それはねぇぜ。村長さんよ。大体、俺があんたに渡した金のどれだけがこいつにいったんだ? あぁ?」
「……っ!?」
アランに向ける優しい視線とは異なり、眼光鋭く見つめるアウグストの目に村長は怯んだ。
さらに続けてジョエルが言う。
「……人は平等に生まれ、扱われるべきもの。少なくとも神はそう定めておられる……村長殿。アランには自分の道を自分で決める権利があるんだ。それを邪魔しないでくれるかな?」
「びょ、平等だと!? こいつは奴隷だ! こいつの親も、こいつの先祖も! ずっと今までそうして……」
そんな村長の叫びに、ソフィーがぴしゃりと言い放つ。
「……《守り人奴隷》の制度は今から百十二年前に王令により廃止された。つまり少なくとも村長。貴方にはアランを所有する法的な権利は存在しないね。それでも何か主張する気なら王都の《高祖院》に訴え出るがよろしい。まず勝てるとは思えないがね。むしろ、罪に問われる可能性が高い。それでも何か言うのかい?」
「……! くそ……っ」
そして、村長は完全に黙った。
アウグストは改めてアランの方を向き、尋ねた。
「さぁ、どうする、アラン。お前の決定を止める奴は、もう今ここには誰もいない。お前の望むように、お前のしたいことを言え」
その言葉にアランは……。
「アウグストたちと、行きたい。着いていってもいいなら……!!」
そう答えたのだった。
◆◇◆◇◆
それが、三年前のこと。
それからアランは、アウグストたちに色々なことを学んだ。
常識、戦闘技術、魔術に、学問……商品の値切り方なんてのもある。
今のアランはまず間違いなく、アウグストたちによって作り上げられたものだ。
アランにとって、アウグストたちは何よりも大切な仲間で、家族で……すべてだ。
それなのに……。
――お前はパーティーから追放だって言ってんだよ、アラン。
言われた言葉が、頭の中で何度となく響く。
深く突き刺さった棘のようだった。
抜こうとしても抜けない棘だ。
触れようとすると、かえって深く肉に食い込み、痛みをより強くするような。
「……なんで。なんでなんだ……」
いくら考えても、考えはまとまらなかった。
結局その日は、何もする気が起きず、アランはいつの間にか眠っていたのだった。
◆◇◆◇◆
次の日。
もう一度アウグストたちと話し合おうと、彼が泊まっている宿に向かった。
しかし、宿の亭主にアウグストたちを呼んでもらおうとしたら、
「……あぁ、あいつらはもう出ていったよ」
「え……い、いつ!?」
「日が昇る一刻も前さ。なんだか随分と急いでいたようだったな……」
日が昇る一刻前。
そんな時間に宿を出ることは、何か特別な依頼を受けていない限りは今までなかった。
それなのに今回、それをしたのは……。
「……僕を、確実に置いていくためか……」
そういうことだろう。
アランは今までの感覚で彼らを見ていて、だからこそ、いつも通りの時間まではいるだろうと高をくくっていた。
そんなアランの行動を読まれていたのだ。
酷い話である。
しかし、アウグストたちは昨日、はっきりとアランはパーティー追放だと宣言している。
むしろ、はっきり言ってくれただけ、優しいとも言えるのかもしれない。
たまに聞く、パーティーメンバーの追放。
それは、実力が合わなくなった、というもの以外に、素行不良とか仲たがいが理由になることが多い。
というか、むしろ後者の方が多い。
前者の場合、特に仲に問題があるわけではなく、切る方も切られる方も決断しがたいからだ。
後者なら喧嘩別れであるから、思いついたその場で決まってしまう。
結果、後者が多くなる、というわけだ。
したがってアランの場合は珍しいわけだが、そういうとき、面と向かって言えないからと、黙って置いて行って音信不通、ということになることも少なくないと言う。
アウグストたちは少なくともそれはしなかったわけで……。
「……最後の優しさってこと……? そっか……」
「……おい、兄ちゃん。泣くなよ……」
どうしようもなくなって込み上げてきたものに、宿の亭主が気づいて慌ててそんなことを言う。
しかし止まらないものは止まらなかった。
すべてだと思っていたのに。
彼らにとって、アランはそんなものではなかったということなのかと。
あの村の村長のように、ぞんざいに扱ってもいいものだったのかと。
そんな気がしたからだ。
恨めしい。
憎らしい。
そんな感情が、心の奥底に芽生えかけた。
でも……。
『おい、アラン。お前の構えは悪くねぇが、まだまだ基礎が足りねぇ。毎日俺と修行だぜ。それと木工も教えてやるぜ。俺の親父が木工職人だったんだ』
『アラン。君には魔術の素養があるから、治癒術も学べるよ。教えてあげるね。ついでに昔の物語なんかも聞かせてあげよう。あの村じゃ、あんまり聞いたことなかったでしょ?』
『アラン。この大魔女ソフィーがあんたを大魔導士にしてあげるよ。なに、至極簡単なことさ。地獄よりはきついかもしれないが、魔女の試練てのはそんなものさ。一緒に料理も教えてやるよ。あたしの料理はうまいんだ』
かつての彼らの優しさが脳裏に蘇った。
あれは……偽物だったのか?
あの心からの優しさが、偽物だったのか?
……そうは、思わない。
あれは真実、誠実な優しさだった。
アランの事を想い、アランを仲間としてくれた、最高の人たちだった。
そのことに疑いはない。
ではなぜ、彼らは今回アランを……?
分からない。
分からないが……。
「……お、兄ちゃん。涙も止まったか。まぁ、なんだ、たぶん、置いてかれたんだろ? でもな、いいこともあるし、あいつらにも事情がなんかあったんじゃねぇか? だからよ、兄ちゃんは新しい人生をだな……」
宿の亭主がそう言ったので、アランは涙をぬぐい、彼に笑いかけて、言った。
「……そうですね。きっと、事情があったんだと思います。彼らは……アウグストたちは、だれよりも優しい、僕の仲間だから。僕は……彼らを信じることにします」
「……お、おぉ……」
そして、アランは宿を後にした。
その背中には先ほどまでの苦悩や悲しみの色はなく、ただ前を向く男のそれがあるだけだった。
そんなアランの背中を見た宿の亭主は、ため息を吐いて独り言を言う。
「……アウグスト。あんたら、失敗してるぜ……」
しかし、その台詞はアランに届くことはなかった。
◆◇◆◇◆
数年後。
魔族根拠地、魔都ファルゼ。
「……こいつは、もうダメかもな」
アウグストが笑いながら言った。
笑顔とは裏腹に、体中が傷だらけである。
「いや、もう少し頑張れるでしょ。神の加護は……もう尽きたような気がするけど」
ジョエルも空虚な笑顔でそんなことを言う。
「魔力も空っぽさね……。あとは命でも燃やしてやるしかないが、寿命が削れるのは……寿命で死ねないだろうから、いいのかね」
ソフィーもふざけたようすでそう呟いた。
彼らが相対しているのは、山よりも巨大な化け物だ。
この世に存在するどんな魔物よりも大きい。
その存在の名を――魔王――と言った。
三人は、たった三人でそれと相対しているのだ。
「さて休憩は終わりだ……お前ら、これが最後だぜ。根性を振り絞れ! 負けるわけにゃいかねぇが、俺たちが死んでもなんとかなる! アランがいるからな!」
アウグストがそう言い、
「あれこそ、神の奇跡だったね。僕らのすべてを伝えて、なお強くなってくれたんだから。その割に素直過ぎて、僕らの嘘を信じてくれたけど」
「あれは心苦しかったねぇ……おっと! 《盾》!」
飛び回りながら飛んでくる魔術を防御しつつ、攻撃を加えていく三人。
そんな中、無駄話もいいところだろうが、出てくるのはアランのことばかりだった。
「あのときでも十分、アランは戦力になったけど、流石に魔族領地の深くまで入り込むこの任務に連れてくるわけにはいかなかったからね……ここまでなんとか辿り着いたけど、案の定、もうあたしらボロボロさ……」
ソフィーが続けた言葉を受けて、アウグストが笑う。
「へっ。だが魔族の奴らを十分ひっかきまわしてやれた。人類のために、時間稼ぎは出来た。だからこそ、こいつが出てきたわけだしな……あとは、俺たちが死んでもアランがなんとかしてくれるさ……」
「僕たちを憎んで、冒険者なんかやめちゃって、どっかで雑貨屋とかしてるかもよ?」
「それならそれでいいんだよ……あいつが幸せなら、それで、な……がっ!?」
そのとき、アウグストの腹に魔王の拳が入る。
続けて、
「うわっ!」
「あがっ!?」
ジョエルとソフィーにも魔術が叩き込まれ、三人はとうとう、地面に倒れ伏した。
それでも起き上がろうとする姿は、まさに英雄だが、しかし根性だけでどうにかなるところはもう過ぎ去った。
振りかぶられる魔王の腕を見つめ、三人は死を感じる。
(……これで、終わりか)
同じことを想い、そしてさらに、
(アラン……済まなかった……)
そう思ったそのとき。
――ズガァァァァン!!!!!!
と信じられないほどの轟音が辺りに鳴り響いた。
土埃が周囲を覆い、何も見えなくなる。
これは、自分たちが潰された音だろうか。
一瞬そう思った三人だったが、しかし、改めて体を確認してみるに、傷だらけだが未だ五体満足である。
では何が……?
そして、しばらくして、土埃が消え去った時、
「……まさか……」
茫然と三人が同じ言葉を口にした。
目の前に、一人の人物が背を向けて立っている。
数年前とは違って、広く大きくなった背中だ。
いくつもの修羅場を乗り越え、修行を重ね。強くなった男の背中だ。
それが、確かに見えた。
景色が滲む中、アウグストがおそるおそる、言った。
「……アラン。お前なのか……?」
その言葉に、その青年は振り返って、
「……アウグスト。久しぶり。ジョエルもソフィーも。間に合った……かな?」
変わらない笑顔を三人に向けてくれた。
あのとき、無残にアランをうち捨てた三人に、全く憎しみも悲しみも向けずに、ただ、あのときと変わらない笑顔を。
アウグストは、たまらなくなって、言う。
「アラン……! すまなかった……俺たちはお前を……!!」
「いいんだ。分かってる。あのあと色々と調べて……みんなが国から言われて死地に行ったことを知ったよ。あのときの僕の力じゃ、足手まといになるって……死なせないように、言ってくれたことも」
「アラン……」
「だから、沢山修行して、ここに来た。来れたんだ。間に合ったんだ……きっとみんななら、ここに来るまでは死なないって信じられたから……」
その言葉に、不思議に思ったのかソフィーが尋ねる。
「でも、あんた一体どうやってここまで……普通に進んであたしらでも四年もかかったんだよ?」
「ハイエルフから古代の転移魔術を教えてもらったんだ。それと、古竜族から魔族領の地図も譲り受けた。それと、その前に原始精霊の力を借りてみんなの位置と生命反応は辿れるようになってたから、本当に危なくなる前にここに来れたんだ」
出てきた名称にソフィーは顔を引きつらせる。
いずれも伝説的な存在だ。
おいそれと出会えるようなものじゃない。
たとえ四年も月日が流れているとしてもだ。
しかし、実際にアランはやった。
彼に期待したソフィーたちは正しかったということだ。
「……さぁ、みんな。あとはあいつを倒すだけだ。武器と防具、勝手に着せるね。あと治癒術……と。あとは強化魔術もいくつかかけて……よし、行こう!」
アランがそう言った瞬間、全員の痛んだ武具が一瞬で交換され、また傷も完全に治癒した。
強化魔術など、今までの数十倍の比率で力が伸びている気がする。
もう、負ける気がしなかった。
「……へっ。アラン。俺はうれしいぜ……なぁ、アラン。改めて、言ってもいいか?」
「……何かな?」
「……俺たちと、一緒に行こうぜ。俺たちは仲間だ」
「何をいまさら。僕たちはずっと仲間だった。昔も……今もね」
四人はそして、朗らかに笑い合った。
笑い声と呼応するように力が上昇していく。
山よりも巨大な魔王が、怯んで後ずさった。
「さぁ、お前ら、伝説を作るぜ!」
アウグストの言葉に、パーティーメンバーは全員が深く頷いたのだった。