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第二話 ヒーローでもケンカだってする。

「まったくお前も不幸だな一度ならず二度までもこいつらに捕まるとはな」

「まったくよ……どうしてわたしが……」

「とはいえ、もう偶然じゃなくなってるけどな」

「え?」


 偶然じゃない?

 いや、確かに今回は意図的にわたしを連れ去ろうとしたけど……どうしてこんなことに?


「状況が変わった。お前の記憶を消しても、より一層まずいことになる」

「ええ? どういう……」

「とにかく、場所を移そう。あ、でもまずはこの子をどうにかしないとな。手伝ってくれ」

「あ、うん……」


 なんかいろいろと腑に落ちないことがあるけど、今は考える前にやらなくちゃならないことがある。


 とにかく、夕凪をシアンさんと一緒に家に送ることにした。

 ただ……


「シアンさん、その恰好のまま外へ出るの?」


 そんな目立つスーツ姿で歩いてほしくないんだけど、


「大丈夫だ。人の通らないところを探していくから」

「ええ……?」


 根本的じゃない解決方法だけど、助けてもらった手前、強く口にすることはできなかった。

 けど、不思議と足取りは重くはならなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――


「よし、ついたぞ」

「え、ここって……」


 シアンさんに案内され、見えてきたのは、おしゃれな外観の喫茶店だった。

 見覚えのない、おそらくつい最近できたばっかりなんだろうけど……

 というかこれ、夕凪が行きたがっていた喫茶店じゃない?


「え、ここがシアンさんのアジト!?」


 思いのほか、近くにいたことに驚きを禁じ得なかった。

 そのまま鍵を取り出しドアを開けると喫茶店の中に入る。

 中はとても静かで人の気配はしない。


「言っておくけど、今回は早めに店じまいをしている。だから今帰っても問題はない」


 だけど、そんな内装をじっくり見る暇もなく、シアンさんについていくままに厨房の奥へ行く。

 そして、


「よっ!」

「え?」


 普通に床板を外すと、中から地下に通じる階段があった。


「よし、降りるから足元に気を付けろ」

「え、ちょ、ちょっと待って!」


 正直、こんな得体のしれない階段はおりたくないけど、一人になりたくなかったからシアンさんについていくことになった。

 それから特に何も会話はなく、階段を下り終わるとシアンさんは近くのドアの前に止まる。

 扉に書かれているのは……『ホワイト&ブラック』?


「ただいまー。おーい、帰ったぞ。ホワイト……」


 と、シアンさんが扉を開けたので、続いてわたしが中を見ると……


「シロくん。あーん」

「ん? おう、クロちゃん。また料理の腕を上げたな。煮物すごくおいしくなってるぞ」

「えへへ、シロくんがおいしいって言ってくれるなら、私いくらでも頑張れるよ!」

「はっはっは、恥ずかしいことを言うなよこいつ~」

「うふふふふふふ♡」


 バタンッ


「…………」

「…………」

「………………すまん、間が悪かったな」


 シ、シアンさん?

 なんか、部屋の中に、わたしと同年代くらいの男女がいるんだけど……

 しかもなんか幸せそうで、


「なんでもない。こっちじゃなくてあっちの部屋だ」

「あの……今のはなんなので」

「なんでもない。色ボケカップルなんか見なかった。いいか?」

「あ、うん……」


 なんか、踏み込んじゃいけない扉があるんだろう。


「よし、ここだ」


 しばらくして、新しい扉の前に立つシアンさん。

 扉には『シアン&マゼンタ』とある。

 シアンさんは、特にノックもなくその扉を開け……


「帰ったぞ真善太まぜんた! 例の少女たちを……」

「なによ、もういっぺん言ってみなさいよ真善太まぜんた!!」


 急に大声が聞こえてきた!

 な、なに?


「お、おい! なんだこれ、何があった!」


 突然のできごとに驚いているシアンさんの背中越しに部屋の様子を見た。

 そこには、いろんな料理を乗せたちゃぶ台に手をついて怒っている金髪のきれいな女の人と、その体面にかなり恰幅の良い男の人がいた。

 シアンさんを含めたこの三人、間違いなく昨日のスーツ三人組だ。当たり前だけど部屋の中であのスーツを着ていないから素顔を見たのは初めてだ。でも、喋り方や掛け合いでなんだかわかってくる。

 確か……男性のほうがマゼンタ、女性のほうがイエローって呼ばれていた気がする。


「何度でもいう。お前の作る料理は味付けがひどすぎる」


 マゼンタさんは赤黒い肌の色と、大きい体に圧倒的な横幅の広さで、つまりかなり太った人だ。

 でも太っているのに不潔とか不快感がしない。変な表現だけど、洗練された太った人みたいだ。


「野菜炒めも、煮豚も、汁物も、お前好み過ぎる味付け一辺倒で食べていられない」

「な、なによ! あたしの塩辛い味付けのどこに不満があるっていうの!」


 イエローさんはすごくきれいな金髪で、それに背もすらっとして高くて、すごくかっこいい人に見えるけど、なんか料理を非難されて涙目で反論している。

 多分、塩辛いから不満があるんじゃないかな……


「過剰な濃口は体に悪い。正直机をひっくり返したいくらいだ。まったく、あの黒女は食べる相手を気配って料理をしているのに、お前は同じようなものばかりしか作らない」

「あんたは肥満そんな体型しておいていちいち細かすぎるのよ! せっかく作っておいて感謝の一言もないわけ!?」

「ふん。食べる相手の配慮のかけらもない料理など、自己満足でしかない」

「なんですって!!」


 なんて険悪な雰囲気だ。

 さっき見たカップル(?)らしき人たちとは対照的になんてひどい光景だ。


「そこまで言うならあんたが作ってみなさいこの肥満体型! 男子厨房に入らずとか言わないでよね!」

「上等だ。三十分後、俺の料理に絶望するお前の姿が目に映ることになるがいいか?」

「やってみなさいよ! 高校時代に『まったく、あなたってホントいいセンスね!』って褒めてもらえたあたしの腕を甘く見ないで!」


 それたぶん皮肉じゃないの?

 なんて心境は知ったことがないようにどんどん二人はヒートアップしていって……


「いい加減にしないかお前ら!!」

「!」

「!?」


 シアンさんの大声が、その二人の口論を止めた。

 声量は二人と変わらない。それなのに、体に響くような力強さが感じられた大声だった。


「真善太! 伊恵路! 人が苦労している間になに晩御飯の味付けでけんかしているんだ! 非常事態なんだからもっと真剣な空気だせや!!」

「シアンさん…………」

「し、詩安しあん……」

「詩安……おまえ……」


 二人とも、驚いたようにシアンさんを見ている。 


「帰ってたのか」

「帰ってたのね」

「気づいてなかったの!?」


 あ、いきなりシアンさんが部屋にいたことに驚いていたのね。

 いや、単にケンカに熱中して気づいていなかったからだと思うけど、


――――――――――――――――――――――――――――――


 しばらくして、仕切りなおすように、私とシアンさんは部屋の中に入り、四人でちゃぶ台を囲いながら座った。ちなみに誰も料理に手を付けていない。

 あと、シアンさんはもう変わったスーツは着ていない。一旦部屋を出た後、脱いだ状態でもう一度部屋に入ってきた。


「オレは音切おとぎり詩安しあん もう知ってるけどヒーローをやっている。よろしく!」

熱海あたみ真善太まぜんた

重石おもし伊恵路いえろよ。よろしくね!」

「あ……彩峰あやみね雛夜ひなよです。よろしくお願いします……」


 こんな状況で怖がらずに自己紹介ができるほど、わたしは肝が据わっていなかった。

 さっきまでケンカしてたからか、ちょっと目を合わせにくい。

 そんな心情を知らずに、当然のように真善太さんが話を進めてくる。


「しかし詩安。そういうことがあったならなぜ俺達に連絡しない。おかげでいろいろと手間取っただろう」

「ごめん、真善太、伊恵路。こいつと友達が連れていかれるのを見て、身も蓋もなかったんだ」

「詩安。それを言うなら居ても立っても居られない、だろ」

「え、あ、そうか」

「まったく、なにしてんのよあんたは……」

「そう言うけどな。オレだって人を攫って逃げていくあいつらを追いかけていくのに結構必死だったんだぜ」


 改めて自己紹介され、わたしはヒーローと名乗る三人を見る。

 シアンさんは大体百五十センチ代くらいの小柄な体つきと、どう見ても子供にしか見えない童顔が特徴的だ。

 髪は黒いけど、瞳が藍色みたいな色をしている。日本人じゃないのだろうか?


「ん? なにこっちをじっと見ているんだ? なにか気になることでもあるのか?」


 どうみてもわたしよりも年下の子供が、さっきまで改人から助けてくれたなんて、不思議な話だなって……


「お前が不思議そうにしている理由はわかるが、事実を知ったら余計おかしく思うぞ」

「真善太さん?」

「俺と伊恵路、詩安はみな同い年だ?」

「え、同い年……ですか?」


 どう見ても子どもに見える詩安さんと、真善太さんたちが?


「俺たちはこう見えて二十三歳だ」

「二十三!?」


 わたしより年上!?

 詩安さんも!?


「信じられないだろ、特にこいつのこの見た目で」

「おい、真善太。お前失礼なことを考えてないか?」

「とにかく、お前が心配することはなにもない」

「こら! 無視するな!」


 真善太さんは冷たいというか、淡々としているところがある。悪い人じゃないと思うけど、なんか不愛想で、歯に衣着せない物言いもしていて、なんかわたしの苦手なタイプだ。


「真善太。お前最近オレに対して舐めてないか? ここはちゃんとけじめをつけておかなくちゃならないよな」

「勝手に言ってろ。俺はお前みたいに無駄口を言えるほど暇じゃない」

「なんだと!?」

「もー、あんたらったらほんとすぐに喧嘩するんだから……」


 伊恵路さんはなんか気さくな感じで頼れるお姉さんみたいな人だけど、この男二人をまとめていることだろうか、かなり苦労していそうだ。

 ケンカしそうになる詩安さんと真善太さんを見て申し訳なさそうにわたしを見る。


「ごめんね。うちのバカ二人がいらないものを見せて」

「伊恵路のバカ舌には言われたくない」

「バカ舌ってなによ! いくらなんでもバカ舌はないでしょ!」

「伊恵路。お前また塩辛い味付けしてたんだな。ええと(パクッ)ブフォ!? 辛ッ! 海水かこれ!?」

「詩安まで!? 海水ってなに!?」

「あぁごめん海水は言い過ぎ……(ペロッ)あ、やっぱ海水だ」

「わざわざ言い直した!?」


 とか思っていたのに、あっさりと冷静さがなく振り回されている。大変だな……


「はぁ……あの、詩安さん、真善太さん、伊恵路さん。三人で一体何をしているのですか?」


 そろそろ本題に入りたいから、さっさと切り出した。

 さっき見たカップル(?)らしき人たちが気になるけど、話が脱線するから先に本題に触れておくことにした。

 さっきまでケンカしていた空気から一転、真善太さんが深刻そうに口を開ける。


「彼らは……犯罪組織だ」

「犯罪、組織?」

「そうだ」


 そりゃあんな見た目して善良な市民とは思えないけど、組織ぐるみで犯罪者ときて、驚きを隠せない。


「お前も見ただろ、あの白装束の変な人たちを。あれはオレ達が『改人』って呼んでいる存在だ」

「改人?」

「詩安。略称で答えられても戸惑うだけだ」


 詩安さんの説明が不十分なのか、代わりに真善太さんが説明に入る。


「『改悪人形』。連中に誘拐された人間が記憶を奪われ、その奪った記憶からより濃い悪意を抽出しては人形に注入し、さらにそれを改悪して出来上がった悪人のことだ」

「記憶を……改悪!?」


 か、改悪って……本当に現実にそんなことあるの!?


「改悪されれば最後、記憶を抜かれた人間は思い出や知識は当然、肉体の運動さえまともにできなくなり、そして素体として出来上がった人形は組織のためだけに動く人間になってしまう」

「そういうことがあるからオレ達のようにどうにかする人が必要なんだ。現に、お前が目撃したマンホールも、実はすでに先に攫われた人間が入っていたんだ」

「ええ!?」


 じゃ、じゃあわたしは……人攫いするところを目撃していたというわけ?

 そう思われてあの変な人たちは私を追いかけていたの?


「幸い、改人を破壊すればそのベースとなった記憶は持ち主のところへ戻り、元通りに過ごすことができる」

「え、そうなの?」

「そうだ。逆に言えばお前も、あの連中の仲間の糧になっていたかもしれないってことだ」

「…………!」


 お、恐ろしい話だ。

 あんな変な人たちにわたしはなっていたかもしれないって言うの?


「ちなみに犯罪者とか悪人の方がより“改人”として優れた記憶を持っているから、大体は刑務所とか少年院とかそっちのほうが狙われやすい」

「それに、精神が未発達で多感な思春期の子もよく狙われるわ。あなたも、あなたのお友達もあいつらからしたら格好の素体だったのよ」

「!?」


 それであの人たち『若い少女もそれはそれでよい改人を生む』とかいってたのね。

 というか、そういう意味だったのね……


「で、でもどうしてそんなにたくさん“改人”を作り上げる必要があるんですか! そもそもあいつらの目的って何なんですか!」

「……ごめん、そこまではオレたちもわからないんだ。ただろくでもないことを考えているのは間違いないんだ」


 ……人さらいに、記憶を抜き取り、改悪した人形。

 まるで空想みたいな話だけど、自分の身にも危機が迫ってきた以上、信じざるを得ない。


「で、だ。オレたちの目的は大きく分けて二つ」

「一つは、犯罪組織を壊滅させること」

「もう一つは、改人たちの記憶をどうにかして元の人間に戻してあげることよ」

「…………」


 変な人たちだけど……ちゃんとヒーローの目的があるんだ……


「こうして活動する以上、俺達も秘密裏に動かなければならない。それなのに派手に名乗っては登場したがる自己顕示欲の塊がいるから……」

「……ちょっと待て真善太。お前はバカだなー。こういう宣伝効果があれば、向こうはオレ達のことを恐れて悪いことをしなくなるんじゃないか」

「バカはお前だ。俺達のことが大々的に知られれば対策を打たれる恐れもあるし、私生活にも影響を及ぼす」

「何言ってるんだ。せっかくオレ達の初の晴れ舞台だぞ。やっぱりこういうのは派手に行きたいじゃないか!」

「結局お前の自己顕示欲を満たしているに過ぎない。この自己満足男」

「なんだよ!」

「……いや、あんたたち。せっかくの所なのにくだらない喧嘩するんじゃないよ」


 ……うーん、本当に大丈夫なんだろうか。


「黙ってろ伊恵路!」

「静かにしろ伊恵路」

「……ああもう」


 うん……この詩安ってひと、大人らしいけどなんかちょっと子どもっぽい感じがするな。

 それに真善太さんも、言ってることは正論だけど歯に衣を着せないから余計な反発を買っちゃう。

 それを伊恵路さんがなだめるってことになっているのね。


「じゃあ、あなたたちのその不思議な力は、いったい何なのですか?」

「ん?」

「不思議な、力って?」


 ここに来るまでに見た、シアンさんと改人たちとの戦い。

 あれはどう見ても、身体能力で片付けていいものではないと思う。


「詩安さんが何もないところから剣を出したり、触ったところから改人を吹き飛ばしたりしていたのですけど……」

「……おい、詩安」

「あんたまさか、見せたの?」

「ええ!? そこ責められるところなの!?」


 確かに……あんな不思議な力、簡単に見せていい物じゃないと思うし、それにわたし記憶を消されかけたりしたからね……


「……けど、しょうがないわね。出し惜しみして雛夜ちゃんを助けられなかったら目を当てられないからね。詩安、直接見せたあんたが説明して」

「わかった。まあ、お前が見たオレの力というのは、いわばヒーローとして選ばれ「早い話、魔法だ」真善太ッ!? オレのセリフをかぶせるんじゃない!!」

「ごめん詩安。説明してって言った手前なんだけど、そういえば詩安の話は格好つけすぎて回りくどいから……」

「伊恵路までッ!?」

「魔法? 魔法ですか?」


 急にファンタジーな単語が出てきた。そりゃあ、いろいろ変なことが起きているとはいえ、ここまではっきりと魔法ってのが出てくるなんて……


「ああそうだ。もっとも、俺たちが何らかの努力や発明で得られたものではない」

「どういうことですか?」

「犯罪組織の壊滅を願っているのは俺たちだけではない。そもそも、ある方がそれを成就させようと、協力者である俺たちに授けた能力がある」

「ある方?」

「お前には聞いていいことじゃない」

「真善太。言い方が悪いわよ」


 つまり、誰かはわからないけど犯罪組織をつぶしてほしいからと詩安さんや真善太さん、伊恵路さんに不思議な力を与える代わりに戦わせているってこと?


「スポンサーってことかな?」

「ううん……その表現は間違ってないと思うけど……」


 わたしの例えに伊恵路さんが困惑しているけど、間違えているってわけじゃあないのね。


「そうね……は、自分の声を媒体にして音や振動を操る力を持っているの」

「音や、振動?」

「昨日のことも、多分今日の事も、詩安が、自分の声をソナーのように飛ばして、その反応で聞きつけたからすぐに対応できたのよ」

「こいつの声を使った探知能力はレーダー並みに桁外れだからな」

「ふふん、ヒーローの特権ってやつだ!」


 真善太さんや伊恵路さんに褒められて、詩安さんは嬉しそうに鼻を鳴らしている。


「他にも地面や壁の振動を感知したり、声で自分の体を振動させて肉体を素早く動かせたりと、なんだってできるんだぜ!」


 振動が感知できるって……それじゃあ改人たちに囲まれたあの時も、それを感知してたってこと……

 ん? ちょっとまって?


「じゃあ……人質になったわたしを殴ったのは……?」

「あれは掛け声の振動と拳の衝撃を合わせて、お前の後ろにいる改人に攻撃したんだ。だから痛くなかっただろ!」

「あぁ……そういうことですか……」


 いくらわたしを傷つけないように配慮したからって……それはそれであんまりというか……


「詩安……あんたは……」

「あれ? 今の褒めるところじゃないの?」

「直接見なくても想像できる。まったくお前は、とんだ無鉄砲だな」

「真善太まで!?」


 あ、わたしだけじゃなかったんだ。

 詩安さん、さっきとは逆に呆れられて戸惑っているけど、なんでわからないんだろう……


「本当はあたしたちの魔法も見せてみたいところだけど……」

「伊恵路」

「わかってるわよ。残念だけど、簡単に魔法は見せられないんだ。まだ(、、)

「?」


 なんかいま、含みがあるように聞こえた気がするけど……

 いや、まだほかにも気になることがある。


「ヒーローって、詩安さんたちだけなのですか?」

「いや、他にもメンバーがいるよ。まあ大体ほかの任務で遠くに行ったりすることが多いから、この拠点にとどまっているのはオレ達と……」


 と、そういって詩安さんは壁越しに、さっき訪れていたカップル(?)らしき人たちの部屋の方向を見て、


「あの色ボケコンビぐらいだからな……」

「ああ、あの子たち……」

「…………」


 え、なにこの空気?

 そんなに危ない人たちなの? その子たちって?


「いや、悪い人じゃないよ。むしろ結構強い方だし、怪人を沢山倒すわ、人間を沢山守るわで大活躍だけど……」

「ちょっと、性格に難があってね」


 この人たちが性格に難ありっていうからには、そうとうなんだろうね……

 逆になんか気になる気もするけど、触れない方がいいかもしれない。


「あ…………」


 ふと、壁にかかった時計を見たらもう時計の針が下の方を回っている。


「あ、あの……いろいろと話していただいてありがたいのですが、もうそろそろお家に帰らないとお父さんとお母さんが心配するので……」

「待て」


 そろそろ帰りたいと思って早く部屋を出ようとした矢先に真善太さんに引き留められてしまう。


「な、なんですか……」

「お前、彩峰雛夜といったな……」

「はい……」


 真善太さんが顔を近づけてわたしを威圧してくる。

 正直、怖い。この人だけはまだ苦手だ。


「雛夜。もう話の流れで分かると思うが、俺達のことは決して誰にも言うな。下手に話を広められれば、お前が無事である保障はない」

「ひっ……!」


 この人、本当にヒーローなのだろうか。言動がいちいち怖すぎる……!


「こら、真善太! そうやって雛夜ちゃんを驚かせないの」

「いいや、ここから先はこいつの人生に深くかかわることだ。いいや、よく聞け」

「ま、待ってください!」


 ち、近い! 顔が近い!!!

 な、なに?  改人なんて変質者よりもよっぽど怖い!

 まだ何か怖いことを言うの、


「お前は二度も改人に遭遇し、二度も俺達の活動を目撃し、なおかつ俺達の基地にいる。ここまではわかるか?」

「ひ、秘密にしますから! 友達にも家族にも言いませんから!」


 真善太さんの射貫くような視線が真っすぐ向けられてくる。

 もう私はいろいろと怖すぎて、もう「はい」しか言えない!











「だからお前らには俺達の仲間になってもらう」

「わかりましたから! 誰にも言いませんから………………………………………………………………え?」












 …………ちょっと待って。さっきなんかおかしなことが聞こえなかった?


「いま、なんて?」

「彩峰雛夜。お前には俺達ヒーローの仲間になってもらう。拒否権はない」

「え、えぇ、え、ええぇぇ???」


 き、聞き間違いじゃなかった。

 ど、ど、どういうことぉ?


「し、詩安さん?」

「あー、実はな。お前を取り巻く状況が特殊で、いろいろと考えるとこうしないといけないようで……」

「伊恵路さん?」

「えっと、雛夜ちゃんの意思を尊重したいけど、どうしようもなくて……」


 詩安さんも、伊恵路さんも、とくに否定してこない。

 い、いや……ちょっと待って…………


「えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」


 ど…………どういうこと!?

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