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第一話 ヒーローに、“らしさ”なんていらない!

新しい連載です。続くかどうかはわかりませんがほんの少しでも楽しめたら幸いです。

それでは、どうぞ。


 秘密結社『フォールエンゼル』

 都市伝説程度の知名度で活動する彼らは、日常の水面下で数々の犯罪行為により暗躍をしており、その事実を知る政府は対策を講じつつも効果は薄く、日々頭を悩ませるばかりであった。

 しかし、そんな中奴らとは全く別のところで、誰にも知られずに活動する者達もいた。

 公には知られてはおらず、誰にも存在を知られない者たちが……


――――――――――――――――――――――――――――――


 いつもどおりの朝だった。

 いつものように目覚ましで早起きして、お母さんが作った朝ご飯を食べながら朝のテレビを見て、それで『あの芸能人Jが離婚! 原因は奥様の浮気』だの『在来魚を食べる外来種の獰猛な魚をハントする』だの『最近、なにかと記憶喪失やら廃人する人が続出して物騒ですね』だの『今週のかに座のあなた! ラッキー! 今までにない素敵な出会いが待っています! いつもとは違った道でおうちに帰るといいことあるかもしれませんよ』だのと、何の気なしに聞いてからかばんを用意して学校へ向かった。


 その日はいつものように友達に挨拶をして、授業を受けて、友達とお話をしてご飯を食べて、それで、あとはそのまま放課後は家に帰るつもりだった。


 それなのに……


――――――――――――――――――――――――――――――


 なに……なんなのよ!


 まったく、これだから朝の占いは当てにならないのよ!

 なにが『今週のかに座のあなた! ラッキー! 今までにない素敵な出会いが待っています!』よ! とんでもないものに出会っちゃったよ!


 確かに。いつも通り通ってる学校じゃ特にそんなのなかった。

 学校の帰り道、たまたま気分で寄り道したら変な音が聞こえたから行ってみたら……


「……み・た・な?」


 なんか真っ白い格好に真白い頭巾の変な人たちがマンホールに入ろうとしていたのよ!

 しかも、それを見ていることが向こうにばれちゃって……


「待て! 小娘!」

「見られたからには生かして帰さないけどいいか?」


 どうして追いかけてくるの!

 というか、腰が低いのか逃がさないのかどっちよ!

 って!?


「ああ……!?」


 しまった……

 なんか気が付いたら知らない工事現場についてしまった!

 周りには誰もいない。岩場とか隠れるところはいっぱいあるけど


「もう逃がさないぞ!」

「ハハハ! 人気のないところへ逃げるなんて馬鹿な娘だ!」


 ああ、囲まれた!

 運動に自信があっても、五、六人も囲まれたら逃げられない!

 これから、どうなるっていうの……!


「くっ…………」


 頭巾をかぶった変質者たちがじりじりと近寄ってくる。


 ああ……お父さん、お母さん、ごめんなさい。

 不肖このわたし彩峰あやみね雛夜ひなよ生まれて十六年、初めての親不孝を許してください……!


「ちょっと待ちな!」

「え?」


 今、なにか幼さの残る少年のような声が聞こえた気がしたけど……


「おい、今のはお前が言ったか?」

「いや、いってねえ。俺は何も言ってねえ!」

「俺達と小娘の他に誰かいるのか?」


 周りの変質者たちも、誰が言ったのかと確認している。


 今の声は誰……何……?

 これ以上なにが来るっていうの!?


「こっちだ! こっち!」

「え…………?」

「あ…………?」

「は…………?」

「あ、あんなところに!」


 変質者の一人が空に向かって指を差した。

 いや、違う。組み立てられた鉄骨の頂上に、その人影があったのだ。

 いや、人影じゃない。月あかりを背景に、三つも人影があったからだ。


「今行くぞ! とう!」


 そう言い、人影たちが鉄骨の上から飛びあがり、相当な高さがあるにもかかわらず地面に着地をした。

 そして、逆光で見えなかった人影の姿があらわに……


「……………………?」

「……………………??」

「……………………???」

「……………………えぇ?」


 現れたのは、追いかけてきた変質者に負けず劣らずの変質者だ。

 体中にラインみたいなものが入ったライダースーツのようなものを身に着けており、頭にはフルフェイスのヘルメットがかぶっている。

 その上、三人とも全身が一色が統一されているけど一人ひとりバラバラで……

 なに、これ?


「この改人どもが、年端も行かない女の子一人を寄ってたかって……許せねぇ!」

「まあ、だれがいようと逃がすつもりはないが」

「覚悟しなさい、あなたたち!」


 謎の三人組は盛り上がっている用だけでど、わたしからしたら意味不明すぎて安心できる要素がどこにもない。

 その三人はどれもはっきりとわかりやすい特徴……というか体型をしていた。

 まず、明らかにわたしよりも身長の低い、小柄な少年が名乗りでる。


「正義と勇気の象徴! デビルシアン!」

「……………………」

「ほら、お前も言え!」

「なにを?」

「オレが考えたセリフがあるだろ!」

「……まったく。『知恵と聡明の象徴。デビルマゼンタ』」

「そして、慈愛と献身の象徴! デビルイエロー!」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 うん……わたしだけじゃなく、変な人たちも黙っている。

 なんか…………想像以上に変なのが来た。


「オレ達三人揃ったからには!」

「あんた達の好きなようにはさせない!」

「悪魔戦隊」


 って、まだ名乗り上げるの!?

 しかもなんか統一されないバラバラな動きでポーズを決めて……


「デビレンジャー!」

「イービル・サン!」

「悪魔三人組」


 ドォーーーーーーーーーンッッッ!!


 ……なんか背後の岩が爆発した!?


「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」


 ……………………………………………………………………………………。


「……って」


 随分長い””の後に小さい少年が口を開けると、


「マゼンタにイエロー!? お前らちゃんと合わせろ! 『デビレンジャー』だ『デビレンジャー』!」

「いやよそんなダサい名前。『イービル・サン』の方がまだ響きがいいじゃない」

「いや、イエロー。『サン』の部分の意味が解らない。ここはわかりやすく『悪魔三人組』でいいだろ」

「マゼンタ、あんたも十分ダサいよ! もうちょっとひねってよ!」

「『悪鬼羅刹玄上三人衆』」

「長い!? もっと簡潔に!」

「『三人組』」

「何の!? 何かトッピングぐらいしてよ!」

「だから『デビレンジャー』だっていってるだろ! これこそシンプルに……」

「却下だ」

「却下よ」

「即否定なの!?」

「お前のセンスは絶望的だ」

「そうね。ネーミングもなにもかも」

「全否定!?」

「あ、あの…………」


 あなたたち何くだらないことで喧嘩しているの?

 ………いい加減、こっちみてくれない?


「……あの、君たち、いったい誰だ?」

「え、いやだから正義のヒーローだって言ってるじゃないか」

「正義のヒーロー!? そんな格好で!?」


 ああ、うん……さっきまで私を追いかけていた変質者たちがわたしに代わって言ってくれた。

 さすがのこの人たちもおかしいと思ったんだ。


「さっきそう名乗ったじゃんか。お前ちゃんと相手の自己紹介は聞けってお母さんに教わらなかったか?」

「いやいやさっき『悪魔戦隊』って名乗ってたよね!? ヒーローなのに『悪魔』なのか!?」

「しょうがないだろ。だって悪魔のほうがかっこ……」

「おい、シアン」

「あ、ごめん。やっぱなんでもないわ」

「“かっこ”!? それって“かっこいい”って言いたかったのか!?」

「ヒーローが悪魔名乗っちゃっていいの!?」


 確かによく見たらメットの側面に小さな角があったり、指先の部分に爪みたいなものが伸びている。

 それに背中あたりから羽みたいなものもちらりと見える。


「それとなんで色分けがレッドとかブルーとかじゃなく、シアンやマゼンタなんだ!」

「いいじゃねえかよ! そもそもリーダーが赤なんて誰が決めたんだよ! そんなの赤に対する贔屓目だし決めつけないっつーの! 真のリーダーはシアン! シアンがかっこいいからリーダーでいいの!」

「シアン。一言目と二言目から早速矛盾しているぞ」

「べつにリーダーなんていらないでしょ。あたしたちは三人で一組なんだから」


 戦隊にしては統率が取れてなさすぎでしょ。

 極めつけは……


「それにお前らどう見てもチビとデブとノッポじゃねえか! ヒーローの体系じゃねえよ! 明らかに雑魚敵ポジション体系じゃねえか!」


 この三人、どう見ても体系が標準体型より全然違う。

 百五十センチほどしかないチビに、身長も高いがスーツがぱっつんぱっつんのデブと、細い体と高身長のノッポ。

 どれもヒーローとは思えないけど、一番威厳がないのは一番ちっちゃい……


「あっ」

「あーあ…………」

「え?」


 え、なに突然のこの空気。

 急に太った人(マゼンタだっけ?)とイエローって人が『言っちまった』みたいに頭を振ってるけどまさか……


 ドスッ


 え?


「え……ごふっ…………」


 え、あれ!?

 なんか変な人たちの目の前に…………シアン? さっき向こうに、あれいない!?


「あ…………ぁ……………………」


 なんか、鳩尾を殴られてない?

 うわ……なんかすごく悶絶してるんだけど……


「今……オレのことをなんて言った?」


 なにか、この子の周りだけオーラみたいなものが湯気のように出ている気がするけどまさか……


「オレを……オレを……チビと言ったなぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!」


 お、怒った!?

 それで怒るの!? 器量小さい!

 ああ、なんか背中から警棒みたいなものが!


「覚悟しろ改人! ぜってー泣かしてやるからよぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「「「お前本当にヒーローなの!?」」」


 ヘルメットで見えないけど、たぶん怒りの形相をした自称ヒーローが襲い掛かってきた!


――――――――――――――しばらくお待ちください――――――――――――――――


「さて、終わったな」

「え……えっと…………」


 どうしよう……助けられた立場であることはわかっているんだけど……


「く、うう……痛てぇ……」

「こ、ここは一旦逃げるぞ。俺達じゃ、かないっこない……!」

「まさかこんな化け物が、まだいただなんて……!」


 変な人たちが、逃げていく……


「マゼンタ、追わなくていいの?」

「いや、いい。少女の安全確保が先だ。それに、こいつがこの様ではどちらにしろ……」

「ああ……」


 お礼を言いたくてもなんというか、その……

 さっき、チビと呼ばれたからってやりすぎなくらいに変な奴を倒してくれた彼が……


「チビじゃ……ないもん…………ちょっと成長が、遅いだけだもん…………」


 あれだけ怒っていて、ものすごく落ち込んでいる。なんか、かける言葉がない。


「あ、あの……!」


 でも、ただ黙って立ち去る訳にも行かないし、とにかくお礼を言わないと……


「さて、あとはそこのお前」

「は、はい!」


 急に呼ばれてしまい、つい背筋を伸ばしてしまう。呼んだのはチビと呼ばれて激怒していた彼とは違い、落ち着いた様子の体が大きく太っている男だ。

 マゼンタ、とかいってたな。確かによく見ると赤色じゃない。


「せっかく助けてもらったところだが、お前をこのままにして帰すわけにはいかん」

「え゛っ!?」


 このままにして、かえさない!?

 それって(自称)ヒーローが言うセリフなの!?


「俺達の存在を知られた以上、俺達と、あと改人と遭遇した記憶を消させてもらう」

「ちょ……ちょっと待ってください! 一体どうしてこんな……!」

「だからさっき言った。早くしないと別の人間に見られかねん。イエロー、さっさとやるぞ」

「わかったわ。あたしが動きを止めるからマゼンタは装置を出して」

「いや、だから待ってください! 待ってって!?」


 わたし、助けられたんじゃなかったの!?

 せっかく変な人たちに追いかけられなくて済んだのに今度はこの人たちが!?


「よし。準備できた。バッテリーは?」

「つながっているわ。あとはかぶせるだけよ」


 なにあれ!?

 なんかコードで繋がったヘルメットみたいなのが出てきたんだけど!?

 あ、まってかぶせないで!?


「よし、イエロー。スイッチを入れろ」

「やめて、いや! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああッ!!」


 ああ、お父さん、お母さん……

 この雛夜、不肖にも記憶を消されることを許してください……


――――――――――――――――――――――――――――――


 とはいえ、そんな現状を良しとしない者たちもいる。

 公的に任せられないならばと、異なる力を持つもが動き出すこともある。

 たとえそれが悪党をくじき、弱者を護ることになろうとも、公に認められない存在ゆえにこうしてひそかに動いている。


 ゆえに、そのものを自分たちはヒーローであると呼んでいる。

 そう、この物語は日常の影に隠れて悪事を働く改人と戦う正義のヒーローの話である!

 ……たぶん。


――――――――――――――――――――――――――――


「おはよー、ひなちゃん」

「おはよう。夕凪ゆうなぎ


 翌朝、

 おっとりとした平和そうな友達に挨拶して、わたしは学校の校門を抜けていった。

 地元の私立高校で、いつものように校門を抜けて、下駄箱に靴を入れていく。


 わたしは彩峰あやみね雛夜ひなよ。高校二年生の十六歳。

 身長162センチ。誕生日は七月十六日。得意科目は現代文と古文。苦手は物理。

 こんなわたしだけど、比較的平凡で平和的な人間だと自負している。


「ひなちゃん? なんだか心なしか元気ないよ?」

「え、そう?」


 隣で話しかけているこの子わたし私の学友、夕凪ゆうなぎ

 編んだ長い髪に幼さが残る顔でどこかかわいらしいく、のんびりした喋りでどこか抜けたところのあるぽわぽわな感じの女子だ。

 でも、親身になって友達の心配をするいい子だ。


「大丈夫だって。ちょっと定期テストが近づいてきてどうしようかなって思ったから」

「そう? だったらいいけど……」


 そんなたわいもない話をして教室に入る。

 準備をしたのちに教室に先生が入って、HRが始まった。


 本当は大丈夫じゃない。気にしてないといったけど、どうしても昨日のことが頭から離れない。

 先生の話が聞こえてくるけど、どうにも集中できない。耳に入ってこない。


 ……はぁ。

 あのあとわたしは記憶を消されてしまい、なんにも思い出せなくなるんじゃないかと思った。

 でもちがった。あの太った男はわたしにヘルメットみたいな機械を頭に乗せて、スイッチを入れた途端……


『ん?』

『どうしたのマゼンタ?』

『記憶消去装置が……動かない』

『へ!?』


 なんかよくわかんないけど、どうやら私の記憶を消す機械が動かないようで、


『ちょっと、なんでこんな肝心な時に!?』

『どう考えてもナビのやつ、またしくじったな』

『まったくもう、どうしてこんなことに……!』


 つまり記憶は消されなくて済んだんだけど、


『どうするのよ。この子、アジトに連れていく?』

『連れ……ッ!?』

『ダメだ。逆にアジトを知られる上に記憶も消せる保証がない。なにより、こんな夜遅くに学生が出歩いたら保護者が不審に思う』

『……帰すしか、ないってわけ?』

『え、帰れるの?』

『おい、お前。一つ約束しろ』

『なに?』

『今ここで見たものは誰にも話すな。親にも友にもだ』

『……もし、破ったら?』


 怖いけど……どうしても聞かなきゃいけない気がした。


『お前の周りに不幸が降り注ぐ。個人情報など一日で特定するぞ』


 ……この人たち、本当に(自称)ヒーローなんだろうか?

 けど、約束を守るというと、あっさり帰してくれた。


『しょうがないわね。ごめんね、あたしたちにはあたしたちの都合があるから』

『そろそろ戻るぞ。おい、起きろ』

『……チビじゃない…………オレはチビじゃないんだ…………』

『さっさと起きろ小指』

『小指ッ!? 小指って言うんじゃねえ!! その体脂肪切り落としてやろうか!?』

『元気じゃねえか、さっさと帰るぞ。塵芥ちりあくた

『悪化してるぞ!? お前撤回しろ! ちゃんと小学生には負け……ないんだから!』

『もっと自信をもって言え素粒子そりゅうし

『そりゅうッ!? ……ってなんだ? どういうことかわからないけど馬鹿にしてるよなマゼンタ!』

『その発言がすでに頭悪いのよ。いいからさっさと帰るわよ』

『バカ、抱えるんじゃねえ! 一人で歩けるからはなせぇぇぇぇぇええええええええええ!!』


 ……こうして、素敵な出会いなんて信じたくない放課後は終わったとさ。

 あと、お父さんお母さんは心配してたから、友達と寄り道したって、なんとか言い訳できたとさ。


「はぁ……まったくもう…………」

「ひなちゃん? 大丈夫?」

「ありがとう夕凪。もう終わったことだしいつまでも落ち込んでられないよ」

「うん、その意気だよひなちゃん」


 まあ、とにもかくにも今はこうして普通に学校に通い、授業を受けている。

 これ以上悩むのも馬鹿らしいし、目の前の授業に集中しよう。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 このまま何事もなく授業を受けて、なにごともなく一日が終わればいいさ。

 と、思っていたんだけど……


「ひなちゃん。最近、新しくできた喫茶店があるんだけど、放課後に寄っていかない?」

「喫茶店? へぇ、夕凪がそういうからには何かあるんだね」

「なんでもそのお店で作られるケーキが絶品でとってもおいしいんだって!」


 夕凪は、甘い物に目がない。

 なにせ甘いお菓子のお店を探すのが趣味なんじゃないかって思えるくらい、近隣の事情に詳しいのだ。


「いいけど、気を付けてね夕凪。変な音がしても絶対にそっちに行っちゃだめだから」

「? よくわからないけど、ひなちゃんが一緒なら大丈夫」


 昨日の放課後みたいなアブナイこと、そうそう起きたりしないよね?


 そう思いながらも残りの授業を終えて、HRもおわるとわたしはすぐに教科書などの必要なものをカバンに詰めて教室を出た。そして校門を出て、夕凪と一緒に例の喫茶店の方へと向かった。

 そこまで遠いところじゃない。歩いて十分ほどの結構近いところにあるそうだ。とはいっても、わたしの通学路とは反対方向だから見つからないのも無理はない。


 まだ目的地についてもいないのにもうどのケーキを食べようかで夕凪がふわふわした笑顔で浮かれている。

 本当にもう、この子ったら甘い食べ物になるとだらしが…………ないん………だ……か、ら………………


――――――――――――――――――――――――――――――


『運がいい。こうも簡単に目撃者を捕らえられるとは』

『ああ、来ている服からどこの学校かわかっていたからな。張っていれば簡単だ』

『それに、昨日の仲間たちがけがをして帰ったときはびっくりしたが、ここではさすがにそうはならないよ』

『どうする! すぐにでも始末をするか?』

『まあまて、まずは上へ連絡してこい。また新しい素体になるかもしれんからの』

『わかった!』


 なにがなんだかわからないまま目を開けてみると……


「お、目を覚ましたようだな小娘」

「…………」


 え、なにこれ!?

 昨日の、白い頭巾の変質者たち!?

 なんで!? またこいつらがいるの!? いくらなんでも同じことが立て続けに起きておかし……


 あ、夢かこれ。


「おい! 現実逃避して二度寝するんじゃない! 俺たちは、ちゃんとここにいるぞ!」

「夢じゃないの!?」


 やっぱり目を開けると、昨日と同じ変質者たちが十数人ほどわたしを取り囲んでいた。

 素顔が見えない。まるで無機質な目でわたしをくまなく除いているみたいだ。


「どういうこと、たしかわたし学校を出て、それで友達と一緒に喫茶店へ…………」


 ……あれ? そこから先の記憶が、思い出せない?


「そんなの、俺たちがおまえらをさらったに決まってんだろ!!」

「攫われた!? わたしが!?」


 変質者に言われて、わたしは慌てて周りを見渡した。

 あたりを見回すと、いったい町のどこにあるのかわからない廃工場跡のようなところだ。当たり前だけど、わたしと変質者たちのほかに人間がいない。

 どう考えても助けは来てくれない。大声で叫んでもそれは変わらない。

 悪い予感ばかりが頭の中に浮かび上がってくる。


「こ、これからわたしどうなるの? 殺されるってこと……?」


 思いつくことと言ったら昨日の事しかない。

 なにせ昨日見てはいけないようなものを見て追いかけられたし、口封じをされても不思議じゃない。

 それなのに、わたしの心配が見当はずれのように変質者たちが笑い声をあげている。


「ははははは! 殺す? 殺すだと? 殺すつもりならとっくにお前は死んでいるよ」

「それどころかむしろ喜ばしいところだよ。なにせ君にはこの後“改人”として生まれ変わり、われわれの仲間にしてもらえるのだから!」

「え!? まさかの洗脳そっち!? その道に連れていかれるの!?」


 もしかして、このまま謎の組織に連れていかれて改造手術を受けるというあの……


「ああそうだ。君と、君のそばにいたもう一人いた少女も、我々の仲間として生まれ変わらせてあげよう」

「え?」


 もう、ひとり?

 まさか……夕凪?


「待って……用があるのはわたしだけでしょ。やめて、あんたたちの都合にあの子を巻き込まないで!!」

「いやいや、“改人”の素体は凶悪であればあるほど良いが、多いに越したことはない」

「それに、若い少女もそれはそれでよい改人を生むからなあ」


 信じられない。

 この人たちはどうしても夕凪を返してはくれないんだ。そのうえ、良心の呵責もなくろくでもないことをしようとする。


「それよりも早いところ“改人化”の準備を進めたほうがいいじゃないかね」

「そうだな。またいつ邪魔されるかわかったもんじゃないし、先にこの娘の記憶を奪うとするか」


 また記憶消去?

 ふざけないでよ! あいつらといいこの人たちといい、人の記憶を何だと思って……


「早いところ進めよう。まず、この娘の頭にルーンを刻んで……」

「いや! こないで!」


 これからなにをされるのかわからないし、この変質者たちがなにをするのかもわからない。

 けど、わたしの頭に手を伸ばしてくるのがたまらなく怖い。

 わたしと夕凪が、こんな奴らにいいようにされるのが嫌だ!!


 いやだ、いやだ!

 いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだッ!!


「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「助けに来たぞぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

「!?」


 な、なにこの大声……あっちのほうから……?

 というかこの声って……


「あ、あ…………!」


 この部屋の唯一の入り口の大きな扉に、見覚えのある人影が立っている。


「正義と勇気の象徴! デビルシアン!」


 昨日の夕方に見たあのライダースーツにヘルメットのような姿……

 もしかして、助けに来て……


「一人そろって、デビレンジャー!!」

「…………」


 あれ?


「さあ、オレが来たからにはいいようにさせないぞ改人。ここからはこのシアンが相手するから首をくくって待っていろ!」

「本当に一人だけで来たの!?」


 それ“揃った”って言わないよ!

 あと、『首を洗う』と『腹をくくる』がまざっている!


「貴様! 昨夜の変態仮面だな! 傷ついた仲間たちと証言が一致するぞ!」

「変態仮面とは何だ! デビレンジャーだ!」

「名前なんかどうでもいい! それより、一人で来たのか。あと二人はどうした!」

「ああ、マゼンタとイエローのことか? あいつらはあいつらで忙しいからな……」

「なに? まさかほかの仲間が……!」


 まさか、私がここにいる間に夕凪を……


「タイムセールとバーゲンセールのダブルパンチだ」

「ただの買い物じゃない!?」


 ちょっと、人の命がかかってるのに何してるのよあなたたちは!?

 こんな手抜きのヒーロー見たことないよ!


「ま、先に人質は助けたし、おつりは十分ってね」

「な、なに!?」


 シアンさんの背中に何か担がれて……

 あ、あれは……!?


「夕凪!」


 気を失っているけど、どこにもケガはない。

 助かったのね。よかった…………!


「ば、馬鹿な! あそこにはここの三倍くらい仲間がいたはずだぞ! お前ひとりでやったってのか!」

「ま、確かにお前ら改人は常人離れの身体能力で、どうせオレたち三人が来てもすぐ迎え撃つほど結構な人数だったけど……なめるなよ。ヒーローを名乗る以上、改人の二十や三十、どうってことはない!」

「だ、黙れ!」

「きゃ!?」


 痛ッ! 急に腕を掴まないで!


「こっちにはもう一人人質がいるんだ! お前が動けば、この娘を切るぞ!」

「シ、シアンさん……!」

「……はぁ」


 それに対してシアンさんはため息一つ。わたしが人質に捉えられているのに微塵も動揺していない。


「まったく、救いようのない奴だな。これも“あいつら”に改悪された影響だって信じたいよ」

「だまれ! お前ら、かかれぇ!」


 いつのまにか、シアンさんの周りを変質者たちが取り囲んでおり、そのまま一斉に襲い掛かってくる。

 これじゃあ体の小さいシアンさんが圧殺されてしまう!


「あ、危ない! わたしはいいから、夕凪を逃がして……」

「必要ない。ヒーローウェポン『音切りソード』!」

「え……」


 そういうとシアンさんの手のひらから、魔法のようにどこからともなく剣のようなものが現れた。

 刃渡り三十センチほどで幅三センチほどの小柄な剣だ。


 そう観察しているうちにシアンさんの周りに変な人たちが群がっていく!


「シアンさん!」

「心配いらねーよ」


 シュッシュッシュッシュッシュバッ!


「!?」


 な、なにが起きたの……

 シアンさんが消えたと思ったら、いきなり変な人たちが倒れて……


「が……ぁ……!」

「速えぇ……!?」

「え?」


 あっというまに……

 取り囲んでいた変質者たちが、おなかから真っ二つに切り離されてる!


「ば、ばかな……みんな斬ったというのか! われわれの装甲をものともせず!!」

「そりゃそうだ。だってこの剣は物凄いこーしゅーは? な振動が起きていて、でそれがすごい熱を出して固くなって……えーと、なんだっけ? まいいや。とにかく、よく斬れる剣だ」

「こ、この! よくも!!」

「!」


 私を人質にしていた人が、私を掴んでいる腕とは反対側の腕を私に振り下ろしていく。

 しかもその手に握られたナイフが迫って……!


「遅いな。喋り声も遅すぎる」

「!?」


 いつのまにかシアンさんがわたしの目の前に迫ってきて、右手をグーに握るとそれを……わたしに!?


「ま、まってシアンさん! 殴る相手を間違えてッ!?」

「大丈夫! いたくないからチェストォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

「ごぶっ!!」


 し、信じられない……

 女の子のお腹にグーパンチって、この子ヒーロー以前に人間としてどうなって……あれ?


「い、痛くない?」


 あれだけ激しくお腹を殴られたのに、まったく痛みを感じない。それって、


「が…………ぐぅ……」

「!?」


 あ、あれ! わたしを盾にした人が、いつのまにか倒れて……


「ど、どういうこと!?」

「簡単だ。お前の腹を殴った衝撃を、密着したこいつの体に伝導した。お前自身に痛みはない」

「えええ?」


 な、なんの格闘技よ……


「貴様ぁ! 昨日といい今日といい、なぜ我々の邪魔をする!!」

「だから言ってんじゃん。オレはヒーロー。お前たち“改人”のやることを許さない! ましてや年端のいかない女の子にこんな目に合わせて、言語道断だ!!」

「くそっ、これ以上やられっぱなしでいられるかよぉ!!」


 変質者がナイフを片手にシアンさんに襲い掛かっていく。

 けど、それよりも先にシアンさんが動く。


「『音越おとごえ双掌そうしょう』」


 シアンさんが両掌を変質者のお腹に沿えるようにゆっくりと当てると、


「喝ッ!!」

「ごはぁ!?」


 シアンさんが叫んだ瞬間、変質者の体が急激にくの字に折れ曲がり、そのままお腹がはじけ飛んで上半身と下半身が分かれ……


「ええええええええええええシアンさんなにしているんですか!! いくらなんでも人殺しは……!!」


 助けてもらって言うのは何だけど、さすがにやりすぎというかなんというか……


「安心しろ、こいつは人間じゃない。断面を見ればすぐにわかる」

「断面?」


 ……冷静になると、半分になった変質者の体から血が一滴も出てきていない。服すら汚れていない。

 どういうことなのか、おそるおそるのぞいてみると……


「え、これって」


 ちぎれた体の断面を見ると、おおよそ人間の体とは思えない人工物のようなものが顔をのぞかせていた。

 色は白で、なんかのっぺりとした質感の物が、ぽろぽろと細かく砕かれている。なんか発砲スチロールみたいな見た目をしているけど、それよりは固そうで、けどどれにしては本物の人間のように柔軟に動いていたような……


「こいつは人形。オレがさっき切ったのも人形だ。最初っから命なんてないこいつらに手加減する理由なんてないよ」


 どういうこと?

 シアンさんの変な剣や技もそうだけど、この人たちは人間じゃないの?


「さてと」


 もう変質者……あらためて“改人”とよばれているおぞましいものがもう動かないと確認したシアンさんは、スーツのポケットからスマホっぽいものを出して指先で触ると、それを耳元にあてた。多分電話するつもりだ。


「マゼンタ、オレだ。ああ、例の少女と、あとその友人らしき女の子も助けた。ああ、二度も姿が見られたが、もうひとりは幸いなことに意識は失っているし、取り立て大きなけがもしていない。無事に家に帰せそうだ。……ああ、ああ、わかった。もうそうするしかないんだな。じゃあ、始末はこっちがやるから準備はそっちに任せたぞ」


 電話を終えるとシアンさんはスマホらしきものをポケットにしまった。


「なあ、けがはないか。なるべく早く来たんだが、どこにも変なところはされてないか」

「え?」


 そう言って、シアンさんは改めて心配そうにわたしをみてそう言った。

 不安そうに見るその表情は先ほどと比べて初めて見る顔だった。


「だ、大丈夫。何かされる前にあなたが来てくれたから」

「そうか……よかった」


 安堵するように息を吐くシアンさん。

 けど、そのまま座り込まずにわたしの頭に手を……とどかないから手を握った。


「怖かったな。けど、お前も、お前の友達も、もう大丈夫だ」

「あ…………!」


 そうだ。わたしはとにかく、あの子が……!

 わたしはもうこらえきれないように友人のもとへ駆け出す。


「夕凪!」


 シアンさんが改人に襲われる直前、扉の外に彼女を下ろしてくれた。

 気を失っている彼女のそばまで駆け寄ると、そのまま顔を見る。


「よかった……無事でよかった…………!」


 とてもきれいな顔をしている。この後ひどい目にあわされることなんか何にもわからない顔で。

 だけどどこも傷ついてはいない。シアンさんは無事に夕凪を助けてくれたんだ!


「シアンさん。友達を助けてくれて、ありがとうございます……!」

「別にいいって。お礼のために助けたんじゃない。ヒーローとして当然のことをしたまでだ!」

「それでも、わたしと夕凪を助けてくれました。ほんとうに、ありがとうございます!」

「ああ、いや、まあ……」


 シアンさんが遠慮しているけど、それでもうれしくてわたしは頭を下げてまでお礼を言った。

 はじめは意味が分からなくて、しかもちょっとのことですぐに起こって大暴れして、どうしようもない自己満足の人かと思った。

 だけど、ほぼ見ず知らずのわたしたちを助けてくれた。それも不思議な力で改人どもに打ち勝った。

 ただの痛い人かと思ったけど、この人が本当は何なのか不思議な気もしてきた。


『かに座のあなた! 今までにない素敵な出会いが待っています!』


 お父さん、お母さん。

 わたし、素敵かどうかはわからないけど、不思議な出会いがありました。

 ヒーローと名乗る不思議な人に、

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