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9.8  作者: 九JACK
8/19

4.2

 人間の勇者は光魔法をその身に宿し、扱い方もよくわからないまま、勇者として祀り上げられ、戦争の陣頭指揮を執っていた。

 けれど、勇者は疑問に思っていた。

 自分が生まれたときには既に、人間とゴブリンの争いは当たり前のことになっていて、学校なんかでも「ゴブリンは敵」と教わった。だが、知っているのはそれだけ。

 戦いながら違和感を覚える。

 何故人間とゴブリンは戦っているのだろうか。どちらかが打ち滅ぶまでという終わりの見えない戦いをしているのだろうか。

 神様が真っ直ぐに作っただけあって、勇者はすぐにその疑問に行き当たった。

 故に、人間に問う。

「何故、人間はゴブリンと戦っているのですか?」

 ある人は言う。

「ゴブリンとは醜悪な姿をしながら人間を騙る生き物だからだ」

 ある人は言う。

「ゴブリンは神様を騙り、神様を汚した。それは許されざることだからだ」

 ある人は言う。

「ゴブリンは狡猾な種族にして人間の脅威。それ故に狩るのだ」

 それらは一面、正当に見えた。

 けれど、勇者の違和感は尽きない。

 果たして、それだけか?

 醜悪だから殺される?

 神を騙るから殺される?

 脅威だから殺される?




 人間にだって、見てくれに恵まれなかった者はいる。

 人間の中にある神様の姿は多種多様だ。果たしてその中に真実の神を語っている者はいるのか?

 ゴブリンを脅威というが、ゴブリンからしたら人間は脅威ではないのだろうか? 脅威でなければ、攻撃をする必要なんてないはずだ。

 だが、実戦に出れば、勇者の疑問は吹き飛ぶ。

 ゴブリンは確かに醜悪だった。短い手足にがさがさの肌。人間と同じ血が通っているようにはとても見えない緑色の肌。唯一目だけが人間のようにも見えるが、顔の面積に不相応なほどに大きな目は、ぎょろりとして不気味だ。耳まで裂けた口はお伽噺に聞く鬼を思わせ、生理的嫌悪を禁じ得ない。

 そんな姿で騒ぐのだ。

「我々は、元々人間になるはずだったのだ! それがちょっと見てくれが悪いくらいで差別しやがって」

 果たして、ちょっとの度合いとはいかほどだろうか。

 更にゴブリンは叫ぶ。

「我々は神の過ちによって産み落とされた存在だ。そんな神を上げ奉るなど片腹痛いわ」

 その口で神を冒涜する。その神がいなかったなら今、存在すらできていないであろうに。

 そんなゴブリンは魔法を惜しみなく使うし、人間を倒すためなら奇襲だってする。人質だって取る。確かに、教えの通り、狡猾な連中だ。実力を見定め、弱い者からなぶっていく姿も、噂に違わぬ醜さだ。

 そんなゴブリンの行いは間違っている、と勇者は思った。真っ直ぐであるが故に、非道を許せなかった。

 大人が目隠ししている、人間の非道には気づかず、彼はゴブリンを倒すために、光魔法を使うようになった。




「光魔法は無敵の魔法のようなものだ」

 勇者が活躍する頃、逃げながらカルはナノに語って聞かせた。

 神様のところにいたときに神様がぶつくさ呟いていたことをカルは思い出していた。

「火魔法、水魔法、風魔法、木魔法、土魔法……魔法には様々あるけれど、そのどんな魔法よりも強い。どんな魔法をも包み込み、浄化するのが光魔法。光魔法の浄化は、魔法の無効化と言い替えてもいいくらいだ」

「魔法が効かないの?」

「もっと正確に言うなら、悪意ある魔法はね」

 光魔法の経緯を思えば、それは順当な説明だった。本来、負の感情を浄化させるために生み出された魔法だ。攻撃意志のあるものは無効化できる……となると、無敵というのも頷ける。

「でも、それが知れたら大変だ」

「……そうね」

 知れれば人間もゴブリンも、無敵の力を手に入れたがるだろう。

 人間側が勇者として光魔法使いを立てているなら、当然ゴブリン側も対抗して、カルを立てるにちがいない。

「そうなってしまったら、戦争はむしろ、泥沼化する」

 終わりがないのだ。無敵と無敵が戦えば、終わりが見えなくなる。無敵というのが言い過ぎならば、実力が同じ者同士の戦いを思い浮かべればいい。カルと勇者なら、光魔法の撃ち合いになって、先にどちらかが魔力切れを起こすまで、延々と続くだろう。

 そして、そのどちらかが負けた瞬間、勝った一方の負けが決まる。勝った方が負けた方をただでおくとは思えない。

 もし、万が一カルがゴブリン側に属して、負けたのだとしたら……ゴブリンの行く末など、想像したくもない。

 人間側の光魔法で滅多うちにされるのは目に見えている。

「神様は、ゴブリンも人間も救われる未来を望んでいる。だから今は僕はどちらにも味方はしない。代わりに敵にはならない。敵になったら、和平を結ぶ架け橋になれないからね」

「素敵な役割ね。羨ましいわ」

 ナノは少し切なげに微笑んだ。自分はただただ原初のゴブリンであるだけで、世界に対して何の影響力も持たない。持っていたら持っていたで面倒事になるかもしれないが、それでも何かできる、というのは羨ましくあった。

「だったらせめて、カルの力になれるよう、頑張るわ」

 ナノにできるのは、数種類の魔法を使うこと。それから、カルと同じく、この戦争に対して中立の立場を保ち続けることだ。

 そんなナノの決意を受けたカルは笑った。

「ありがとう、ナノ」

 きっと、彼が人間だったなら、さぞや美しい笑みとなっただろう。



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