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9.8  作者: 九JACK
3/19

1.2

 神様は悩んだ。ゴブリンと人間を平和に導くためにはどうすればいいか。

 あまり長く悩んでいる時間はなかった。

 何故なら人間は思考という神様が予測しなかった機能を持ったことにより、神様が思うよりも事を進展させるのが早かったからだ。ゴブリンが生み出した「魔法」という概念も、同じく言語を操る種族であるため、理解するのにそう時間を必要としなかった。それが、争いを肥大化させていた。

 魔法というのは火種なしで生み出せる大火力だ。まあ、正確に言うと詠唱という言葉の羅列を火種に生み出す火力なのだが、必要なのは言語だけである故に、人間は容易く覚えた。しかも、ゴブリンより完全であるために、一つの魔法を取っても威力は段違いで、ゴブリンが遅れを取ることもあった。

 それでも人間とゴブリンが拮抗しているのは、ひとえにゴブリンが不完全性を努力で埋めていたからだろう。

 ゴブリンの日々の研鑽たるや、神ですら見習いたくなるようなものだった。その研鑽を積んだ先にあるのが、戦いでなければ、神様はゴブリンのこの才覚を讃えたにちがいない。

 しかし、人間に魔法が一般的に知れ渡るようになると、ゴブリンは次第に劣勢に追い込まれていった。

 これは物量の差でもある。

 ゴブリンはいくら繁栄したとはいえ、人間より後に生まれた種族。数に物を言わせられると、劣ってしまうことは当然といえば当然だった。

 人間に屠られ、破滅するゴブリンの未来が、明瞭になってくるばかりの日々に、神様は危機感を抱いて、とうとうある行動を起こした。

 それによってゴブリンに訪れた変化が『進化』である。

 不完全生命体をより完全に近づけるにはどうしたらよいか。神様は考えていた。その候補の概念が『進化』だった。

 人間が生まれてからすくすく育ち、大人になるのは一種の進化である。ゴブリンは不完全である故に、子どもから大人になるという進化がない。故に、神様は別な形の『進化』をもたらした。

 それが、後にモンスターと呼ばれるものの基礎となる。

 例えば、ゴブリンから普通に進化して、ボブゴブリン。

 形態が完全に変わり、巨体を持つオーガ。


 ……等々。


 進化がゴブリンに新しい力をもたらしたのは確かだ。しかし、人間にとって、より脅威的な存在にもなってしまう。

 はっきりと言おう。神様の行動は裏目に出た。

 ゴブリンの進化により、体格差や魔法の威力の向上が伴い、一時は劣勢となったゴブリンが巻き返したのである。人間がそれに危機感を抱かないはずがない。

 今度は人間がなりふりかまわなくなった。進化種のボブゴブリンやオーガなどはもちろん、ゴブリンというゴブリンを殲滅せん、と、惜しみなく武力を行使し始めたのである。

 具体的に言うと、ゴブリンの住処を特定し、その場所を焼き払ったり、毒を広めたり、等々だ。

 目を見張るほどの非人道ぶりである。


「ゴブリンは害悪である。ゴブリンを殲滅せよ!」


 そんな御触れが世界中に広がり、闇討ちに合うゴブリンが増えた。

 争い合う、本来なら同じ種族に生まれるはずだった人間とゴブリン。




 命を生み出す神様が、悲しまないはずがなかった。


 が、神様の心情など、人間やゴブリンが知る由もなく、争いは広まっていく。神様がちょっとどうこうしたくらいでは、もう収まりが効かない。

 むしろ、また逆効果になることを恐れて、神様は何もできなかった。

 ゴブリンはみるみる減っていく。まあ、またいずれ神様が過ちを起こせば生まれる存在だ。

 だが、神様はもう、人間を作るのをやめていた。

 これ以上ゴブリンが犠牲になるのは、あまりにも不憫すぎた。

 祈られる存在の神様には、祈る先もない。

 もうどうしようもないのか、と諦めかけたその矢先……




 ふと、神様の目に、二人のゴブリンが留まった。

 それは進化もしていない、雌雄のゴブリンだった。

 人間に恋人という概念はあるが、ゴブリンにはこれまでそのような概念は見受けられなかった。人間に抗うことに必死で、そんな暇などなかったのだろう。せいぜい友情くらいなものだ。

 それが雌雄で……どうも互いを思いやって行動しているように見える。二人は人間に出会すと何もせずに逃げる、今では数少なくなってしまった「無害な」ゴブリンだった。

 けれど人間は容赦がない。二人を追い回し、殺そうとしている。もはや、有害無害など関係ないのだろう。ゴブリン死すべし。そんな思想に染まっていたのだ。

 そんな危うい世界の中で、何故だろう、二人のゴブリンは輝いて見えた。最後の希望とさえ映った。

 この二人を助けられれば──


 神様はそう考え、二人がどうにか人間を振り切って逃げ込んだ森に、そっと結界を張ってやった。

 これで当分、二人は無事だろう。

 そう思っていたのだ。

 神様のエゴだった。

 自分で作った命を生き永らえさせたいという、ただそれだけのものだった。

 果たして、それは正しかったのだろうか。



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