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 はじめに、本書は全人類電脳化計画の為、脳機能制御システム※1 において、痛みに付随する感覚の制御を目的としている。

 ※1 当システムについての概要について、別書“全人類電脳化計画”内の脳機能制御システムの項目を参照


 といった内容で始まった。嘘っぱちかどうかは置いておくとして、頭の文書を読むところ、このレポートと言うか書類は一つではなく何冊もあり、それは全人類が電脳化する事を計画した壮大なストーリの一編らしい。

 最初の一ページ目は計画内容や、ある程度の工程が書かれていた。

 しかし、内容が余りにも人道的では無い内容が多く見られた。これらの内容を、人体の科学的進化を受け入れているタイプの人間が、承諾しかねる様な計画が盛り込まれていた。そして、どれだけの人が実験に参加しているか分からないが、人が足りないのではないか。10人が実験に参加したとして、10人全員が再起不能になりかねない内容だ。


 実験内容、以下に記載する痛みに付随する信号の収集、及び電脳により脳を操作し再現する事。

 痛みに関して、痛覚に限定せずあらゆる不快感や、憂患、悲哀を含める事になる。


 被験者1に対し、身体のある一部に麻酔なしによる切開等を実施する。電脳が観測した痛みと思われる信号を、被験者2の電脳に送信する。

 上記の内容を被験者3が別室にて監視、ないしは被験者1に対して切開を実施時の電脳の信号の観測。

 なお、可能な限り被験者に実験内容を通達しない事。また痛みの度合いにより、信号の観測箇所の拡大化や、個人差などが考えられる為、数度に渡り実験を繰り返す。

 痛覚観測として最悪、身体の一部分切断までにする事。


 これは最後まで読んでいないが、本当に切断までやったとしたら、この電脳の開発成功とは、血塗られた成功ということになる。切開の時点で、血が流れている事は今は置いておくとしよう。切断は流石にまずい。

 俺はページをめくった。2・3ページは、百人の顔写真が添えられた名簿だ。二ページ目の頭には集まった被験者の概要が書かれていた。

 名簿の冒頭部分に書いてあったある単語で、安心してしまった。罪を犯し、牢獄に入れられた人間、“犯罪者”だ。

 死刑相当ないし、世に出すことのできない人間を、司法取引によって参加を募ったものだった。一つの国だけではない。先進国と呼ばれる国から発展途上国までが、電脳開発の実験体として提供していた。

 何も問題ないように見えるが、電脳開発に犯罪者を使ったと言う情報は公開されていない。協力したのはトランスヒューマニストだけだ。これを礼司が手に入れたら「特ダネだ!」と大喜びするだろう。

 俺の仕事としては、後は礼司が読めるように普通のテキスト形式に変換してやればいいだけだ。新しいウインドウを作り、そこに電脳用ファイルをコンピューター形式に変換するプログラムを立ち上げる。

 ウインドウに出てきた紙媒体風のレポートを通過させる。保存先を礼司が寄越したUSBにした。この変換には割と時間がかかる。変換している間このレポートを読んでいれば言い訳だ。まあ、内容的にあまり愉快な物では無さそうだが。


 俺は実験内容をまとめた部分を流し読みしていった。資料の大半は、切開した時の痛みとされる信号を電脳が検出し、もう一人にはその信号を電脳に送り観察する。最後の一人はその様子を監視して、その時の信号を見る。

 読んでいくと後半になるにつれて、残虐性が少しづつ強くなっていった。

 やはりと言うべきか、切断までという文章が意味する事は恐ろしく残酷だ。

 最初に腕や背中をメスで切開するという実験から、生爪を剥がす、剥がさせる、熱した鉄の棒で火傷させる。挙げ句の果てには体皮を、ピーラーの様な道具を使い切り剥がす、なんてことまでやっていた。しかも、ちゃんと片腕まで切断し、その時の脳の反応も記録していた。

 案の定と言っていいのだろうか。ここまで残虐なことをしていれば、もちろん死人が出る。その死因の殆どが、痛覚信号の過多による、信号ショック死というあまり聞かない物だった。むしろ、失血死や精神異常の様な症状が多いものだと思っていたが、そこだけは配慮されていた様だ。


 この何も問い詰めない拷問のような実験の成果とは果たして何なのだろう。こんな事する必要はあるのか、ここまでしなくちゃ行けないのか。最初にサンプルした信号を上手く使う術は無かったのか。

 俺の頭の中では書類の殆どを読み終えた時、この答えを無意味にも自問自答していた。だが、その自問自答などする必要などなく、答えは手に持った書類に全て記されている。

 結論

 1、電脳の実験によって死人が出た。

 2、実験に参加したのはトランスヒューマニストのみだったはずだが、百人の犯罪者達を“実験体”として使用した。

 3、以上の事実は世の中に公開されることは無かった。

 以上。


 自分の中で結論を出し終えたのと同時。タイミングを狙った様にこの書類を世に出す為、変換処理をしていたプログラムが、変換終了のアラームを鳴らした。

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