Prolog
2035年、科学発展と人体進化の思想が、世界中の科学者の知的欲求を掻き立て、電脳は開発成功したが多くの問題を残した。
2036年、世界中のトランスヒューマニスト達の協力の下、人体実験を実施。これにより、安全と言える電脳が完成した。
2039年そして世の中のインフラとして普及し始める。
電脳登場前まで、違法なダウンロード、アップロード何でも有りだった。が、この電脳の登場により、ネットの根本的なシステムが変わった。
全世界に浸透していった電脳は、専用のプロトコルを使用し、今まで出来た違法行為は行うことすらできなかった。
他人の電脳からファイルをダウンロードすることはできないが、リンクファイルはできる。仮にダウンロード出来ても、確実に特定が可能。他人のファイルを見て精巧にコピーした物が出来ても、電脳のグローバルシステムがそのファイルを二次創作のカテゴリーに分類し、原作ほどの経済効果を発生させない。
どんなに足掻いても、過去に出来た違法行為はできないようになり、ネットの世界に秩序ができた。
2040年、電脳から思考ルーチンを学習し、蓄積を続けたAIを元に、より人間らしい思考をするAIが効率的に構築しやすくなった。
そして2055年、電脳とAIによるあらゆる生活のサポートにより、世の中の生活水準は恐ろしい程上がった。
AIはあらゆる仕事・作業をする様になった。いままで、人でなければできなかった事をする様になった。具体的には、販売業務、運輸関連等のサービス業はAIに切り替わった。
そして、管理する人間と、作る人間、その二つを使役する人間で世界は回っていた。これにより職を失った人々は、失職手当というという物を与えられた。人の居ないインフラが二十一世紀で完成したと、世界中でニュースになった。
表向きではこういう綺麗な言葉が並んでいる。綺麗事だけじゃ無かったんだ、電脳とAIの登場は。
AIによって仕事を失った人達への手当は、働いていた時より少なくない人が多かった。一人当たり月12万円~14万円。子供が増えたら、2万円増加。最低限度の生活で、満足する人はいなかった。
そして、電脳接続専用の公共施設が登場してから、失職者も含め世の中はおかしくなってきた。
電脳内で作り出したデータは非常に正確なデータであったが故に、自らが欲するデータを求め何時間もネットにつながり続ける人々が増えた。そもそも電脳は、長時間のネット接続を計画したものではなかった。
自動接続は切れるが、違法的な手段を用いてつながり続けた人は、ネットから帰って来ない『オーバーコネクター』と呼んだ。
――――
俺は電脳とAIに依存した世の中が嫌いだ。
とか何とか言っては見るものの、実際の所はそれらを作った人間によって引かれたレールの上を、素直に進んでいる。要はそいつらが気に食わないって事だ。
小学校を卒業する頃には、パソコンが得意という事を成績で知った。中学校卒業時にはプログラミングやらネットワークやら、親に説明したら顔が点になる様な用語はある程度覚えていた。
だいたい、この辺りから“レール”の上を進んでいたんではないかとは思う。が、高校・大学と進んで“レール”に抵抗したい事案が度々発生した。
それは高校の時、悪友だがその家族の家庭崩壊の目の当たりにする。原因は後に詳しく語られるが、電脳依存だ。これが原因で、電脳依存というものが嫌いになった。そして、電脳依存を良くするためにと、大学院の研究室に進もうとしていた。が、今働いている日本電脳開発センターの会長なる男が、俺のプログラミングの技術が欲しいと言い出してきた。俺はその男がだす生活環境、報酬を受け入れてしまった。
だから九十九一成という一個人として、今の世の中に聞きたい。電脳とAIに依存し続けて、果たして平穏なのだろうかと。
まぁ、殆どの他人は「多少のトラブルは有るが、いずれ完璧なシステムが完成し平穏になると」
完璧なシステムなんて、人が作り続けている以上不可能だ。向上したAIに完璧になる様にシステムを繰り返し作らせていけば、完成はするだろう。だが、そもそも不完全な人間は完璧には不要となり、昔言われていた技術的特異点で人類は消失だ。
多少のトラブルでさえ、電脳とそれらを使う他人たちによってもたらされた依存だ。自らが作ったデータを公開し閲覧させ、ネットに個を確立できた奴は、現実で個を確立できなくなり、ネットに自分の個を求め。個を無くした奴は、他人のデータを閲覧しあたかも、自分の身に起きたように錯覚し自己満足に浸る。そしてより良いデータを求めてネットをさ迷う様はまるで、B級ホラー映画のゾンビにも見える。だからこの不毛な世の中を、改めて見てほしい。
とは言っても、電脳システムそのものが壊れ、機能停止したらどうなる。世の中のインフラにさえなりだしたこの技術により、人々の生活は困難となり、死ぬ者すら出てくるだろう。
結局の所、俺は作る側の人間として今まで育てられてきた。“レール”の上を進むしか無かった。そうしなければ生き残れない、この技術に依存しきった世界では。