異世界の街
街に着こうが体が動かない事が分かった俺はあまり喜べなかった。
フェルは少しして、門へと進むと、兵士が確認に来た。
「ようこそ、王都ハインリヒ……へ、って、そこのお兄ちゃん大怪我じゃないか!? 大丈夫なのか!?」
兵士の慌てた声に、俺は初めて自分の体を見る。袖から斬り落とされた四肢に、泥まみれの服。腹部は真っ赤な血の色に染め上がっている。あの時の生暖かい水溜まりって血だったのか。四肢が斬り落とされた時の血だったんだな……
「大丈夫……です。気持ち悪いもの見せてすいません」
俺が力なく謝ると、兵士は何を言ってるんだと不思議そうな顔をする。なんだ? 俺は間違ったことを言ったのだろうか?
兵士は駆け足で、兵舎らしき扉から大きな布を持って来て、俺の体を隠してくれた。
「気にすんなよ。兵士やってりゃ、体のどっか失った奴なんてしょっちゅうだ。全部失ったのは災難だと思うが……命あるだけ儲けもんさ」
そう言って兵士は俺の肩を軽く叩いてくる。布をくれて……気遣いもしてくれて……なんて優しい兵士なんだ。
「すみません、この布の礼は必ず致します。お名前は?」
「いやいや、良いって。そんな大した事してねーんだから」
遠慮されると……困るな。なんかお礼をしないと気が済まない。
何かないかと探していると、兵士の腰に下がった剣が目に入る。生き物の血がこびり付いていて、かなり錆び付いている。手入れする暇が無かったんだろうな。
「フェル、剣を」
「かしこまりました。無の魔力よ……鋼を生み出し剣となれ。ソード・クリエイト」
フェルが聞き覚えの無い詠唱を唱え、兵士が持っていた剣と同じ形の剣を作り上げた。兵士は剣をフェルから受け取ると、驚いた声を上げる。
「おぉ……軽くて丈夫そうだ。そこらの鍛冶屋よりも業物に見える。メイドさん、優秀な魔法使いだな」
「ありがとうございます。それでは、失礼いたします」
フェルが褒められ、俺は少し誇らしい気持ちになる。フェルが車椅子を押して、街へと進めていく。兵士に会釈し、活気溢れる街を移動しながら、俺は気になっていることを聞いてみた。
「フェル。さっきのソード・クリエイトって、なんかフェルの最初の創造と違くなかったか?」
「お気づきになられましたか」
気付いたって言われても、さっきと違って詠唱が入ってたし……呪文の名称も変わっていた。気付かない訳がない。
「実は、先ほどのような詠唱付きの魔法こそがシェーンでの正しい魔法なのです。私が荒地で使っていたのはデバッグ魔法と言って私を創造した神が使う魔法なのです」
「神って……あの金髪のか?」
「はい。しかもデバッグ魔法は全て少量の魔力……分かりやすく言えば、MP1で撃つことが可能な上に私自身、魔力が無制限となっていますので魔法が撃てなくなる事はございません」
「そのデバッグ魔法。俺も使えるようになるか?」
「勿論でございます。余程の事が無い限り伝授が可能です」
デバッグ魔法が有るのなら、俺だって戦う事が出来る。やっぱりチートとはいえ、フェルにだけ戦わせるもの申し訳ないもんな……
フェルに頼み、その辺りをうろついていると……
「止めろ! 妹に手を出すな!」
「うるせぇ! お前からぶん殴ってやろうか!」
裏道から怒鳴り声が聞こえる。フェルの方をチラリと見ると、フェルは頷いて声の下方向へと車椅子を急がせた。