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ヴォルテールにとって天敵

 えーっと……どういう状況か頭の中で整理しよう。俺とレッカでヴォルテールに挑んだんだよな? それでヴォルテールが奴隷(なかま)を呼び寄せたから、俺が抑え込んでいた。で、ヴォルテールの奴隷(なかま)達を気絶させ、レッカを助けようとしたら……ヴォルテールが逃げ回り、レッカが追いかける状況になっている、と。普通逆じゃない?


「あ、勇者! 私を助けなさい!」


「レイジ! 終わったんならコイツが逃げないように、昨日の壁みたいなの作ってくれ!」


 うわぁ……2人同時に俺の事に気付いちゃった。レッカはともかく、ヴォルテールは俺に助けを求めないで欲しい。本当に生き残る為には何でもしてくるなぁ。

 面白い光景だったので、ボーっと眺めているとヴォルテールが助けを求めてこっちに走ってきた。拘束だけしてレッカから助けてやろうと構えると、ヴォルテールの瞳が妖しく輝く。


「俺には効かねえだろ……!」


「そうだったわねええええ!?」


 鋼風で鎖を作り上げ、ヴォルテールの体を雁字搦めにして動きを封じる。バランスを失って転ぶヴォルテールは分身に任せ、俺はレッカの前に出て走るのを止めてもらう。

 やれやれ、俺を洗脳しようとするなんて相当焦ってたんだろうな。どんな戦い方をすればヴォルテールが逃げ回るような状況になるんだか。


「お疲れ様、何があったんだ?」


「分かんねえ! 2、3発殴ったら、後はずっと逃げられた」


 …………これじゃ良く分かんないな。ヴォルテールに聞くしか無いか……コイツとの会話は、不死山(ふじさん)での嫌な思い出が蘇るから、なるべくなら避けたいのが本音だ。

 直感の俺がうつ伏せにして抑えつけるヴォルテール、目線を合わせるように目の前で膝をつく。ヴォルテールの頬は赤く腫れていて痛々しい。レッカにバレないように背中で隠しながら、こっそりと癒しの風で治療しておく。


「あら? ありがと……」


「これは施しじゃなくて、貸しだ。まずは何があったか教えてもらう」


 俺らしくないやり方だけど、ヴォルテールから情報を聞くなら少しは強気に出ないと。流石のヴォルテールでもこの状況で逃走できる手段は無い筈、生き残る為には俺の言う事を聞くしか無い……と思いたい。


「別に良いのだけれど、そこの野蛮な娘は離れてもらえるかしら?」


「仕方ないな……四重鋼壁」


 四色の壁を箱型に作り出し、俺達を囲うように設置する。外からレッカがドンドン叩いているのが見えるが、中では何も感じない。これならゆっくりと話せるな。


「で、レッカにボコボコにされてたけど?」


「あの娘は本当に相性が悪いのよ。動きが速くて何回か殴られちゃって、それでもやっとの思いで洗脳の為に目を合わせたら……全く効かないの! 逆に聞くけど、あの娘は彼氏は居るのかしら!?」


「いや……そんな話は聞いた事無いけど」


「じゃあ何で効かないのよ!? 生き物の癖に性欲が無いとでも言うの!? 人間の癖にエロい事に興味が無いのかしら!?」


 ああ……洗脳ってそんな感じなのか。そう言われると、レッカが洗脳されなかった理由が分かる。確かに……全く無さそう。言っちゃ悪いけど、レッカは戦闘民族だから戦う事と食べること以外は殆ど頭の中に残ってなさそうだし……まあ、相手が悪かったな。

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