銀髪最強メイド『フェル』
声の主は俺の体を起き上がらせる。軽々と持ち上げられ、声の主の姿を見ることが出来た。服装は紺と白の長袖とロングスカートのエプロンドレス。銀色の髪が俺の目の前まで届いている。キリッとしたクールビューティーな顔つきの女性が、俺を心配そうに見つめていた。
「お前が……俺の相棒で良いのか?」
手も足も失った俺は筋力も並以下、魔力なども理解出来てないので魔法も無い。支えてくれる女性に体を預けたまま、震える声で俺は女性に問いかけた。
「はい。私の名前はフェル。貴方様の異世界の相棒として生み出されたメイドでございます」
フェルは微笑んで、相棒である事を肯定した。
よかった……これでひとまず、さっきのような雑魚に殺される事は無くなった。
「少し失礼いたします」
俺を両手で支えていたフェルが、俺の背中を足にもたれかからせる。左手で体が横にズレないように脇腹を支え、右手を前へと突き出す。フェルの右手に白い光が集まり、煌めきだした。
「創造 : 車椅子」
フェルが呪文を唱えると白い光は放出され、地球で言うところの車椅子を創り出した。フェルが俺の体を車椅子の上に優しく預ける。
これが魔法……座り心地が良いのは、フェルの魔法が優れているからだろうか。
「雨……うっとおしいですね。極大 : 炎!」
フェルが空を睨み、不機嫌そうな声を漏らす。空に手を掲げると、まだ魔法を理解してない俺でも凄まじいと分かる赤い光……魔力がフェルの手へと収束され、1メートル程の球体を形成する。まだ、魔法は完全に発動してないだろうと言うのに、周囲を熱気が包み、濡れていたはずの俺の体を乾かしていく。
呪文が力強く唱えられると、魔力の球体はフェルの手元から離れていく。離れた途端に魔力の球体は大きく膨れ上がり、5メートル程の炎の塊となった。
「追加 : 爆発!」
フェルの放った炎の塊が空に届き、当分止みそうには無かった分厚い雲をこじ開け、青空が見えるようになる。雲に到達すると、フェルが違う呪文を叫んだ。大地を揺るがす衝撃と耳を引き裂くような轟音と共に、空は爆炎に包まれる。
爆炎が収まると、見渡す限り空は晴れ渡っている。フェルは俺の姿を見て、にっこりと微笑む。優雅な動作で俺の車椅子のハンドルを握り、どこかへと歩き始めた
「近場の街へご案内致します」
「そうしてくれ……それと、この世界の事色々教えてほしい」
「かしこまりました」
フェルは俺の車椅子を押しながら、街を目指して歩いていく。神が絶世の美女へと造り上げたフェル。あんな強力な魔法があるのなら、俺の四肢も取り戻せるし、魔法だって使えると……この時の俺は信じていた。