劣勢の果てに
勇者の翼を羽ばたかせ、着地のタイミングを遅らせる。ピグマの様子は……もう体勢を立て直してるか。雑に投げられただけで、攻撃が直撃したわけじゃ無いしな。
四属性が思ったよりも通用してくれないのが痛いな……多分だけど、さっきの四属性集束剣・黄道乱舞も、純粋に炎属性で使った方が良かったかもしれない。
「全員、俺の援護を!」
シルフが何かしようとしてるのが、直感を通じて伝わってくる。フォレストハイドで位置を感じ取り、目の前に立ち塞がっていく。シルフが何かを握る仕草と共に腕を振り下ろしてくるので鋼水を覆った盾で受け止める。
ここだ……ここでシルフに隙を作らせれば! 今から分身に念じて間に合うか? それとも口頭でアンさんに……
「フンッ!」
ピグマの気配を感じ、横に跳び退く。その瞬間に閃光のようにシルフの腹部にピグマの蹴りが突き刺さった。その直後強烈な殺意と魔力の気配……俺だけでなくピグマまで巻き込んでしまいそうな魔力の量だ。
まあ、光速の身体強化を発動してるピグマは躱せるとして……俺もどうにかして威力を削がないように躱さないと! 上手く行くか分からないけど……いや、上手く行かせるしか無い。
「ヘルレーザー!」
アンさんの銃を模した手の指先から、闇属性の光線が放たれる。無限変化水流の左腕の変化を最大限まで発揮し、自分の体を空気に変化させてしまう。俺の体をレーザーが貫いたように見えるが、ダメージは無い。
何とか出来た……出来るんじゃないかとは思っていたけど、怖くて試すことが出来なかった……自身の肉体を変化させる事。その中でも特に自分の体を生き物でも無い物に変化させる事……変化させても、俺の思考を保つ事が出来た。
「や……やったのか?」
レッカが言ってしまった言葉……直ぐに自分の体を人間の体に戻し、レッカの元へと走り出す。だが…………
「あ…………」
「空想の世界でも、現実の世界でも……その台詞を言う時はやっていないんだよ」
レッカの首元に風の魔力のナイフが現れ、静かに引かれた。噴き出る鮮血……漏れ出た声……倒れていく友人の姿。
理解が追い付かない……でも、心にから言葉よりも先に感情が溢れ出た……いや、爆発した。怒りなどと到底表してはいけない。思わないようにしてきた……この感情の名は、殺意だ。
「まさか僕が風になって攻撃を躱したように、君も空気になって躱すなんて……ッ!?」
太陽の剣に殺意を込める……刀身は黒く染まった。噴き出る闘気も神力も、勇者の翼も神具すらも……全て黒く染まっていった。
(久しぶりに引き寄せられれば……面白い。友情余って憎さ100倍、と言った所か?)




