守護神獣の加護
俺の屋敷のとある廊下に、神聖な気配が4つ集まっている。位置的に守護神獣の4柱に貸した部屋の扉がある廊下だ。きっとハインリヒに迫る魔物の大群の気配を、トールか誰かが感じ取ったのだろう。
守護神獣の加護を持った義手義足は1つあるだけで、かなりの強さを得る事が出来る。そんな義手義足が4つ……1つ扱っただけでも、戦いが終われば激痛に襲われる。それを4つ同時に…………許してくれるだろうか?
「うむ、よく来たな」
「やはり、必要……でしょうか? 今の貴方なら……」
「おいおい、今更俺達が尻込みするわきゃいかねーだろ」
「うんうん~、レイジなら大丈夫だよ~」
守護神獣達は、人間の姿で俺達の事を待ち受けていた。会話の内容からして加護を授けた義手義足を貸し出す事に肯定的なようだ。
……トールの気持ちも分かる。確かに今の俺なら、オルクス四天王が相手でも加護無しで良い戦いが出来ると思う。でも……いい勝負じゃ駄目なんだ。オルクス四天王の先を見据えるならば……全ての義手義足に加護を受ける事に慣れておいた方が良い。
「事情は知ってくれているんだな……それじゃあ、加護を受けても良いか?」
「…………少し、問答をしようぞ」
「問答……? そんな事をしてる暇は……」
天照が指を鳴らすと、俺達以外の色が全て白く染まっていく。確認する方法は無いが……直感が時を止めたのだと告げている。
屋敷に来てからは飲んだくれてばっかの印象だったけど……やっぱり天照も守護神獣。シェーンの部下の神様なんだもんな……
「簡単な事だ……我ら全員の加護を受け取る意味、理解しているだろう? その覚悟は出来ているのか?」
加護を受け取る意味……勿論、理解している。シェーンの御伽噺の勇者に、自ら近付くという事だ。勇者になる覚悟は……はっきり言って、無い。それでも……
「大切な人を護る覚悟なら、ちゃんと用意しているよ」
「…………ああ、それで良い」
天照が俺の右腕に触れると、右腕の義手に橙色の炎の文様が走っていく。懐かしい太陽の腕が闘気を生みだす感覚。
これがヤパン以外で使える日が来るなんて、思ってもみなかった。俺にとっての初めての武器……戦いの世界に足を踏み入れさせてくれた武器だ。
「貴方が決意を固めているのなら……私の力がその決意を支えると信じて」
トールが跪き、俺の左脚に触れる。黄色い雷の紋様が義足を駆け抜け、雷光の脚の生み出す闘気が体を巡っていく。
守護神獣の加護の中で最も現実の世界で借りたのが雷光の脚だ。この雷の盾の硬さは、俺に勇気を与えてくれる。
「お前の覚悟には多くの障害が立ちはだかるだろうけどな……俺の力で治しゃあ良いさ」
ゼピュロスが膝を開いてしゃがみ込み、俺の右脚を軽く叩く。黄緑色の風の紋様が浮かび上がり、闘気が体から抑えられない。
吹き荒れる右脚……始めてオルクス四天王と戦ったのはこの右脚だ。この義足のおかげで、俺はやらなければならない無茶が出来る。
「全部終わったら、一緒に遊ぼうね~?」
アプサラスが俺の左腕に手を伸ばす。青色の水の流れが描かれ、守護神獣の加護がここに揃った。4つあった闘気の感覚が合わさり、心臓の位置で1つになっていく。そのまま勝手に魂のエネルギーが組み合わさり、勇者の翼を形成していく。
「我達が魔王軍と相まみえる事は出来ぬ……レイジ、頼むぞ」
「ああ、皆の力……借りるぞ」




