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フェルとイチャイチャ ペアペンダント

 スギヤの街には観光に来る客も多く、それに伴い店も多い。香辛料が特産品と言うのだからレストランは多い。また近くにはギルドの新米冒険者に最適な魔物が出てくる森が有る為、酒場や宿泊施設も少なくない。森の奥の洞窟では低~中ランクの鉱物が取れる為、ティール工房を中心に鍛冶屋もぼちぼち。まとめると、初めての冒険の拠点として優れた街だ。(と、ミハエルが言っていた)

 そんな所に、鎧の上からマントを着てフードで顔を隠した俺と、ローブに三角帽子の如何にも魔女、という格好のフェルが歩いていても目立たない……


「そこの冒険者カップル! 飯食わねぇか!?」


「いやいや、こっちで吞んでかねぇか!? 良いクエスト紹介するぜ?」


「なぁなぁアンタら、強そうだな! 俺達のパーティに入ってくんないか?」


「悪いけど、他を当たってくれるか?」


 はずなんだけどな……レストランや酒場、冒険者にすら声をかけられ、街の散策どころではなかった。何でこんなに引き止められるんだ?顔を隠したのが、逆に目立ったのか?昨日は結構、顔を見られてたから隠さない訳には行かなかったし……

 お、丁度、ティール工房が見えたか。一旦非難するか。フェルの手を引っ張って、ティール工房に駆け込む。まだ開店していなかったのか、従業員やアグラが店内の清掃を行っていた。


「あの、お客さん?まだ開店じゃないんだけど……?」


 俺達に気付いたアグラが、注意に来る。しかし、ここで俺達も外に出るわけにはいかない。俺はフードを脱いで、顔を晒す。


「アグラ、俺だ」


「っ!? ……お前ら、一旦奥行ってろ」


 何となく察してくれたアグラが、従業員を追い出してくれる。


「悪いな。顔を隠していたのに凄い声をかけられてさ。ここしか無かったんだ」


「それは構わないけど……というか、レイジ男爵、その義手どうしたんだよ?」


 ……この義手はフェルがアグラに依頼したものじゃないのか? てっきり、ティール工房の作品だと思ってたんだが、違うのかな?

 アグラが俺の義手を手に取り、観察する。手のひら、手の甲、腕や肘部分がじっくりと見られていく。


「……凄いな、俺の作った、あの鎧にそっくりだ」


 アグラが指したのは、店に入って直ぐに目に入る鎧だった。兜が無いだけで、細部までそっくりだ。


「けれど、俺の作った鎧じゃない。ここを見てくれ」


 次にアグラが注目したのは二の腕の切れ込みのような不自然な線が入った部分だった。

 フェルに変えてもらった時は直ぐにマントを被せてもらったから、気付かなかった。


「こんな線は俺の鎧には無い。多分、レイジ男爵の義手に合わせて、鎧を追加したんだろ?」


「ええ、私が貴方の鎧を参考に創りました。何か問題でも?」


「いやいや、参考にしてもらって光栄だよ。レイジ男爵の義手のモチーフはティール工房の作品だ、って気付くやつは気付くからな」


 フェルが創った鎧……だったのか。本当に、俺には勿体ない位に優秀なメイドだ。


「魔力の供給はフェルさんか……レイジ男爵は時間あるか?」


「別にあるけど……?」


「こっちも開店まで時間が有るからな。ちょっと簡単に便利なもん作ってくるわ」


 そう言って、アグラは奥へと引っ込む。売り場を見たいけど、文字が読めないから分からん。アクセサリーの売り場を見たいんだけどな。


「アクセサリーならこちらです」


「おっ、サンキュー」


 フェルが売り場を教えてくれた売り場を見て回る。指輪やイヤリング、ペンダントにチョーカーと豊富な品揃えだ。

 けど、欲しいものは無いかな……


「レイジ男爵ー? ……あ、そこに居たのか。アクセサリーなら丁度良いな」


 作業を終えたらしきアグラが、戻ってくる。

 本当にちょっとの間だったな。


「ほれ、これがレイジ男爵ので、これがフェルさんのな」


 受け取ったのはシンプルなチェーンのペンダントだった。ハートが縦にギザギザに裂かれている。中央には白く光る小さな石が輝いている。フェルもハートが反転したものを受け取っている。


「その石は夫婦石(めおといし)って言ってな。あんまり詳しくは分からんけど、半径30センチメートル以内に居れば、触れてなくても魔力供給してくれるんだ」


 試しにフェルが手を離しても、俺の体は崩れ落ちない。ペンダントを首に巻く。

 これは良いな。範囲は狭いけど、フェルの手を煩わせずに済む。こういうペアペンダントを。フェルに渡してあげたかった。


「俺からレイジ男爵への、就任祝いってやつさ。さっさと出てってデートの続きしてこい」


 ペアペンダントに感動していると、アグラに店を追い出される。追い出されても、フェルはネックレスを手に持って、顔を赤く染めてボーっと見ている。


「レイジ様……その……」


「つけていいぞ」


「は、はい!」


 フェルは嬉しそうにペンダントを首に巻き、顔を綻ばせて、俺の腕に自分の腕を絡ませる。


「じゃあ、デ……デートの続きに行こうか?」


「勿論です、レイジ様」


 いつもの口調だけど、フェルの表情はいつもより柔らかい。

 フェルは離れられるようになっても、離れない(ご褒美)

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