杉谷 零司の平凡は終了しました
……何故俺はこんな所にいるんだろうか? 今いる場所は、雲の上というか……空の上というか……とにかく、さっきまで歩いていたのは道路だったはずだ。服はブレザーのままだが、荷物がない。
なんというか、違和感しかなかった。ここにいる自分の存在ですら、違和感を感じてしまう。
『やっほ、起きた?』
女性らしき声が、俺に呼びかけた……のだろうか? 声のした方を見ると、ブロンドの髪が腰ほどまで伸びた美人の女性が立っていて、俺に手を振っている。白い胸元の開いたドレスには豊満な果実が実っているし、顔はその辺を歩けば騒ぎが起きそうな程に整っていた。あのなんちゃって美女な馬鹿姉とは違う、本物の美女が、俺に声をかけているのか?
『杉谷 零司君だね?』
俺はこういう展開を読んだことがある。異世界転生物とか転移物だ。つまり、この心も彼女は読んでいるだろう。多分、いや、高確率で彼女は神様なのだから。
『うんうん、日常が壊されたことによる動揺は少ないね。僕が神様とも気付いてるみたいだし、説明省けて楽チーン』
「確かに説明はそこまでいらないが、死因くらい教えてくれないか?」
目の前に神が居るということは、俺は死んだ。もしくは死にかけているという状況なんだろう。大抵こいうのは神様のミスであることが多い。と、目の前の神様に死因を聞いてみると、
『死因? ああ、僕が殺したんだよ?』
「…………は?」
神様はさも当然のように、言い放った。俺の頭は理解が追い付かずに、意味のない言葉が漏れる。神様はそんな俺を気にせず、説明を続けた。
『下界を見てたらさー、君を見かけたんだよ。2~3日見てたけどあまりにも普通すぎたからさ。ちょいちょいと心臓麻痺にしたんだよ』
神様の言葉に、俺は俯く事しか出来なかった。しかし、神様はふざけた口調で俺を殺したという事実を告げてくる。思い出した……俺は道路で歩いてる時に、胸が苦しくなって……息も……し辛らくなって……
「………………っざっけんな!」
俺の頭の中で何かが弾け飛んだ。怒りのままに神の首を掴みかかろうとするが、俺の手は白い障壁に阻まれる。障壁に触れた瞬間、体を電流が走り、引き裂かれたかのような痛みが俺を襲った。
『ちょっ、ちょっと!? 大丈夫かい? 人間が神様に手出し出来る訳ないだろ。デリカシーが無かったのは謝るよ!』
膝を付き、崩れ落ちる俺に神が心配そうに声をかけてくる。神が指を鳴らすと、俺の体を白い光が包み痛みが消えた。どうにか立ち上がると、神が申し訳なさそうにこちらを見ている。やりきれない思いはあるが、痛みが俺を落ち着かせてくれた。
『僕の気分で死なせてしまったことは反省している。だから、君が想像していた通りに異世界に転生させてあげようと思っているんだ。どうかな?』
「どんな世界だ?」
『世界の名はシェーン。僕が管理する世界の一つだ。中世の位の生活水準だよ。魔力があって魔法がある。ドラゴンや悪魔がいる。魅力的な世界だと思うけど……どうかな?』
中世の生活水準で魔法、架空生物…確かに俺が憧れるファンタジーの異世界だ。となると、気になるのは、特典。特典が無ければ、俺は異世界を生き抜くことができないとわかっている。中途半端な特典じゃ駄目だ。
神は俺の心を読んだのか、悲しそうに首を横に振った
『それが……君は平凡として生まれすぎている。このままでは異世界でも平凡になってしまう上に記憶が引き継げなくなってしまうんだ。だから、魂を記憶の部分以外作り変える。それが僕の個人の命に関われる限界なんだ』
「そんな……」
平凡として生まれすぎてるって……そんなのお前らの都合だろ。異世界転生したのに、なんで特典を貰えないんだよ……なんでだよ……個人の命に関われる限界って……個人の命?
「なぁ、俺の相棒となる存在を生み出すことは出来るか?」
『そ、それは出来るけど……?』
「なら、そいつを最強にしてくれ。そいつが俺の相棒として俺と居てくれれば、俺は死なないし、俺の特典になる」
『そうか! そういう手があるのか! うん、君のことは気に入ったし、とびきりの相棒を生み出すよ』
これなら……これなら、異世界で俺は変われる。俺の平凡は終了したんだ!