ハインリヒを探索する準備?
手足が有る。気が付いたら居た空間での感想である。手を握ったり開いたり、爪先で地面をトントンと叩いてみるが取れたりはしない。
流石に夢だと分かる。手足を失って約1日だというに懐かしい感覚だ。
「夢なら出来るだろ……創造 : 剣」
右手にシンプルな片手持ちの諸刃の剣が出来上がる。フェルが創ったのと同じデザインだ。握った右手に、ずっしりとまではいかないがそこそこの重さを感じる。同じ呪文を唱え、左手にも剣を呼び出した。
お試しに、右手の剣を左肩の上まで振り上げて、斜めに振り下ろす。一般的な言い方をすれば袈裟斬りと呼ばれている斬り方。今度は左の剣を水平に右に構え、左に水平に斬り払う。
「適当に振ってみてるけどっ! 意外と様になってる気がするなっ!」
両手の剣を振り回し、体を動かしていく。当然だけど、地球でこんな風に剣を振るった事などない。精々、体育の授業で剣道をやらされたぐらいだ。だから、剣術をやってる人から見れば、素人の無茶苦茶な動きなんだろうけど。
「……っ!?」
一撃目を防げたのは奇跡だった。たまたま振り回していた剣に、飛んできた何かを弾いた。突然の出来事に、俺の体は硬直する。
「なっ……!」
黒い人影が俺の右腕を二の腕の真ん中から斬り落とす。それは正に失っている部分だ。不思議な事に痛みは感じない。そのまま左腕、右足、左足と斬り落とされ……
「お……前…………は?」
夢である事は分かってる。しかし、聞かずにはいられなかった。
「…………」
うつ伏せに這いつくばる俺は黒い人影のらしき足元しか見えない。影は何も答えずに只々、俺を見下ろしている。
なんなんだよ……コレ。何で、夢の中でま……で…………
◆
目を開く。夢の内容は鮮明に脳裏に焼き付いている。嫌な気分だ……中途半端に手足が有ったのが不快感を増大させている。
「おはようございます、レイジ様」
少し、ボーっとしていると、すぐ隣から声をかけられる。首を声の方向に向けると、黒のネグリジェを着たフェルが俺の横で寝転んで吐息がかかりそうなこちらを見ていた。勿論、銀髪に茶色の瞳に戻っている。フェル曰く、一定時間のパワーアップ状態らしい。キ……キスがトリガーらしいが。
なんでフェルがここに居るんだ? えーと、昨日は確か……あの後、フェルが新しく創造した車椅子に乗って、従者に挨拶して、フェル、レオ、ネルガとご飯食べてネルガに、ネルガに! お風呂入れてもらって……そうだ、フェルが一緒に寝たいって言ったんだ。付き合ってないのにそういう事するのはどうかと思ったけど、護衛と押し切られて抱き枕にされたんだった。
「体を起こしますね」
フェルに体を起こしてもらい、自身の体を見つめる。やっぱり手足は無い。あんな夢を見たのだからもしかしたら、なんて思ったが…そりゃそうか。
「おーい、ご飯が出来たぞー」
レオが扉を開き、俺達に朝ご飯が出来たのを伝える。フェルは俺の身体を持ち上げ、車椅子へと乗せる。レオは他のメイドを起こしに行き、フェルは食堂へと向かっていく。
フェルは昨日、口頭でこの屋敷の内部構造を聞いて覚えてしまったらしい。俺は一応見取り図を貰ったが活用できるのはまだまだ先だろう。
「レイジさん! お早うございます!」
食堂に入ると、見覚えのある金髪の少女が俺の方に駆け寄ってくる。マリア・ハインリヒ、ユリウス王の娘で俺の親友ミハエルの妹が…何故ここに?
「やあ、レイジ。お邪魔してるよ」
そこに居たのは、ミハエルだった。既に食事を取り始めており、ネルガが傍で跪いている。そうか、お前王子だもんな……一応。
「レイジ様、私たちも食事に致しましょう」
フェルは提案しながら、分身して自身の食事の置いてある席に向かう。分身のフェルは俺を席に座らせ、食器を手に取り、俺からの指示を待っていた。
「半日見てない間に、フェルさんが凄い進化してるんだが……?」
「そうなのか?」
そういや、フェルが分身の魔法は無いみたいな事、言ってたような気がする。というか身近な奴らが凄すぎて、まず普通が分からないや。




