俺の家
驚いた事に、ネルガは数分で目を覚ました。レオのアドバイスの通りに、水をかけたらあっさりとその目を開いていた。
……下手なモンスターより厄介な体質してんだけど。
「ハッハッハッハッハ! ご迷惑をおかけしましたなぁ!」
そう言って頭を掻きながら笑う筋骨隆々な素敵なおじ様(半裸)。レオは頭の後ろで腕を組みながら苦笑している。俺はというと、本体のフェルに脇に腕を差し込まれて抱き着くように抱っこされてた。未だに黒髪に赤眼のフェルに。
「おっさん、このお方は新しいご主人様だ。クソ豚の野郎、捕まったってよ」
レオの言葉にネルガの顔が曇る。この人は良い人だ。ピグマの為に悲しんでいる。ネルガはゆっくりと首を振ると、俺の目を見てくる。
「お名前は?」
「レイジ……レイジ・スギヤだ。こっちのメイドがフェルだ。不自由な身体だから助けてくれると嬉しい」
フェルの抱えてくれる腕に少し力が込められる。その暖かさに心が落ち着く。
これはフェルの為でもある。というか、これから生きていく上で風呂や着替えをフェルに頼むなんて恥ずかしすぎる。そういうのはお嫁さんとしかやっちゃいけないって婆ちゃんが言ってた(気がする)。
「……分かりました。このネルガ・アノルド、レイジ様の筋肉となり筋肉となりましょう。そして、この屋敷の従者の指揮権をフェル殿にお譲り致します」
「お断りします。私はレイジ様以外がどうなろうが知ったこっちゃありません。貴方が勝手に指揮してください」
ネルガの言葉をフェルがあっさりと断る。ちょ、ちょっと冷たすぎるんじゃないか? ネルガは止まってるし、レオはこっち睨んできてるぞ。
「そうでしたな。貴方の愛は筋肉を交えた私がよく知っている事でした。それでは名前だけ従者長に置いていただけますかな? 私とレオで従者の指揮は担当致しますので」
「……ええ、分かりました」
礼だけ告げると、フェルはこの部屋を出ていこうとしてしまう。そうすると、抱えられている俺は運ばれるがままにしか出来ない訳で……フェルが俺を力強く抱きしめる。
もしかして、フェル…嫉妬してるのだろうか ?廊下へ出て、何処かへ歩いていくフェルを止めようとは思えなかった……
◆
フェルが連れてきたのは、豪勢な部屋。多分、ピグマの寝室だったんだろう。部屋を見渡してみれば、趣味の悪い自画像や、お菓子の袋が放置されたソファ。流石にこの部屋をそのまま使うのは嫌だな……
「消去、再構築」
フェルが呟くと、部屋が一瞬だけ真っ白になり、次の呪文でオシャレな赤を基調とした絨毯、少し大きめなベッド、座り心地の良さそうなソファ、正に貴族の部屋という雰囲気の部屋となっていた。
フェルが魔法で作り上げたベッドに押し倒される。
「レイジ様……私だけでは駄目なのですか?」
「えっ…?」
「私には、レイジ様しか居ないんです! 貴方が手足を失って、私に何かさせる事に負い目を感じているのは良く分かってます! けれど、それは私の幸せなんです! 私には貴方しか居ないっ!」
フェルは涙を流し、俺に思いをぶつけてきた。そう……だよな……フェルは神に作られた存在。その核は俺を助ける、その一点しか無い。そんな俺が他の従者に助けを求めれば、フェルの中では、捨てられたと思われても仕方ないのかもしれない。
「レイジ様、貴方が何を命令しようと、私は貴方の元を離れませんから……」
フェルがゆっくりと俺の胸に顔を埋める。フェルが愛おしい。なのに触れる事が出来ない。それが、ひたすらに悔しい。
「フェル……俺は手足が欲しい」
「レイジ様……そんな心の声を聴かされてしまったら、期待してしまいます」
少し微笑んでフェルが顔を赤らめる。
「期待してくれ。だから、一緒に探してくれるな?」
「……勿論で、ございます」
最近不定期ですいません…




