杉谷 零司は如何に平凡か
ぶっちゃけ、読み飛ばしてもらって構いません。
※読み飛ばしたい方へのまとめ
・主人公は杉谷 零司 16歳 男
・どこにでも居そうな厨二病寄りの高校二年生
・今日も普通なはず…ダッタノニナー
朝……殆どの学生の天敵であろう目覚まし時計のベルが、俺の頭上で鳴り響く。重力と結託して俺を眠りの世界に連れ戻さんとする瞼に少しだけ反抗し、体をほんの少しだけ持ち上げながら目覚ましのベルを止めた。そのまま体をベッドに沈め、瞼への反抗をやめて夢の世界へ帰ろうとする。
「こんのクソガキ! 起きんかボケェェェェェェェ!」
夢の世界への帰還は叶わなかった。エプロンに天然パーマ、オタマとフライパンを手に、鬼の形相のバb……母さんが俺の部屋のドアを蹴破って侵入。目覚ましベルを凌駕する大音量に俺は思わず枕をクソb……母さんの顔面に叩き付けた。
「このクソババア! そんな世の中のローカルババア代表みたいな恰好に、ローカルババア代表の起こし方で起こしに来るんじゃねぇぇぇぇぇぇ!」
うん、もう駄目だ。格好つけるなんて俺には無理無理。
クソババアのオタマを頭に、フライパンを顔面に、母オリジナルの二刀流を叩き込まれて俺の意思は完全覚醒をはたした。
「ハッ、それだけ元気があんなら、飯食えるね!? ローカルババアの和食定食だよ!」
「上等だボケェ。でもローカルババアの和食定食は好きなんでありがとよ!」
クソババアは鼻を鳴らすと、二階の俺の部屋から出ていき隣の部屋へと向かった。馬鹿姉でも起こしに行ったんだろう。俺はクソババアの騒音地獄が始まる前に、一階のリビングへと降りる。リビングでは親父が1人でモクモクとローカルババアの和食定食を食べ進めていた。テーブルの上にはご飯、みそ汁、鮭の塩焼き、キュウリの漬物、納豆が4人前揃ってる。
料理の見た目も相変わらず完璧だ。ムカつくぜ……!
「おはよう、零司」
「うっす、親父。今日もクソババアにぶん殴られたぜ。いただきます」
親父の挨拶に適度に返して、親父の正面に座る。手を重ねて感謝の言葉を言う。何に感謝とかそこまで考えてないけど、そう叩き込まれたからには言わなきゃって気はするな。箸を取り、きゅうりの漬物を一口。不味い訳がなかった。クソババアの料理の腕は認めざるを得ない。
っと、すっかり忘れてたが俺の名前は杉谷 零司。年齢は16歳で高校2年生。自分で言うのもあれだが、目立ちすぎず、目立たな過ぎない。主人公のようで、一般人でもある、クラスに1人はいるボッチとは言い難いなんか記憶に残るけど、顔が思い浮かばない奴。それが俺だ。
「それは零司にも悪いところがある。母さんがクソババアになったのは認めるが」
「ですよねー」
親父は飯を食べながら、クソババアがクソババアなのを認める。しばらく、静かに飯を食ってると、でかいたんこぶ作った黒髪ロングの一般人よりかは美人だけど誰も振り向きそうにない女性が、スーツ姿で涙を流しながら俺の隣に座った。馬鹿姉がクソババアに叩き起こされたようだ。後からクソババアが戻ってきて親父の隣に座る。
「……ご馳走様でした」
「さっさと着替えておいで! 弁当はキッチンの上だからね!」
飯を食べ終え、洗面所へと向かう。冷たい水で、少し残留していた眠気を吹っ飛ばし、鏡を見る。長い無造作な髪の毛。顔のパーツは整っていると言われなければ、酷い顔と嘲笑されたこともない。杉谷 零司という普通さを確認し、タオルで顔を拭う。
俺はこの普通が嫌いではない。むしろ、好きだ。美人でない母に、喋るのが苦手な親父。ドジで間抜けで泣き虫な馬鹿姉。日常系小説の主人公のような何かは無いけど、普通だから心地いい。
だから、この普通が今日で終わりだなんて……信じられなかった。