依頼 タコボウズ遭遇
フェルに声をかければ、分身が直ぐにワープして来てくれた。食事中に居なくなったのには気が付いていたらしいが、今回は俺の修行の意思を優先させてくれたらしい。本当に優れた俺の嫁だ。
と言うわけでヤマタノウツボはフェルが凍らせて異空間に収納してくれた。この分身はそのまま他の食材の収納に使っても良いとの事。
「次は同じく洞穴を住処にしているタコボウズかな?」
…………やっぱりだ。さっきのヤマタノウツボは、地球で言うならヤマタノオロチのような姿だった。となれば、タコボウズの姿は多分だけど……?
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「オオオオオオオオッ!」
「やっぱりか! フェル、ウンディーネ、下がってろ! ここも俺1人でやってみる!」
ポセイドンやヤマタノオロチの倍の体格を持つ、巨大な赤いタコ。足を2本ずつ束ねて、逞しい手足のように扱っている……というか、二足歩行している。
タコボウズ……海の中でドデカい人型、地球でのウミボウズって所か? ゲームによく出るヤマタノオロチと違って、ウミボウズはあんまり知らないけど……とにかく馬鹿デカい怪物だって事は分かる。
「オオオオッ!」
タコボウズの拳を紙一重で躱した……が、周りの水流に巻き込まれて体のコントロールを失う。
くっ……体がデカくて攻撃の水流が凄まじい……どうにかして、もっと素早く動けるようにならないと、攻撃に転じる暇が無い。
「さっきと違って、鋼水変形槍は丸ごと殴り潰されかねないし、水中加速突撃は届く前に減速しそうだな……」
鋼水の腕を傘の様に広げ、流される勢いをコントロールする。が、次はタコボウズの踏みつけが迫ってきている。
こんなのに当たったら勿論死ぬし、水流でも気絶するんじゃないか!? とにかく、腕を伸ばして回避を試みるしか……!
「ウウウウッ!」
待てよ? 今まで俺は変化で水を硬く、重くする事しか考えてこなかったが……逆に俺の移動するルートだけ、水を地上に空気のように変化させれば……試してみる価値はあるな!
「フッ! …………良し、行ける!」
タコボウズの背後を取れるように、水を空気の道に変化させる。そのまま1歩前へ踏み出し、1歩高く真上跳ぶ。タコボウズの背後を取ると、空気の道に水が流れ込んでくる。
良し! これで水中での移動は出来る。ヤマタノウツボの様に、素早く攻撃してくる訳でも無いし……勝てる!
「ユーシャ様、危ない!」
「なっ……!?」
素早く移動した俺を、タコボウズの頭だけは捉えていた。首を180度回転させ、目を血走らせ俺を睨んでいる。
「ブシュウウウウッ!」
「ぐぁっ!?」
タコボウズの口からタコ墨が吐き出される。突然の行動に思わず腕で顔を庇うが、ガードをすり抜けタコ墨は俺の目に纏わり付く。
やべえ……何も見えねえ。けど、魔力探知で動きを見切れば、戦えない相手じゃない!