人魚の……?
海の奥深くへと潜り続ける。色鮮やかなサンゴや色とりどりの魚……地球に居た頃にテレビで見たどんな海よりも美しい。水の中だというのに春の陽気の様に暖かく、太陽の光が降り注いでいて地上のような明るさだ。
海ってこんなに綺麗なんだ……水の中なんてプールの中で泳いだくらいだから……新鮮だな。
「思ったよりも魚が少ないですね。レイジ様、魚に見えますが大半が魔物です。敵意は無さそうですが、念のためお気を付けください」
フェルの警告に周りを見渡す……嘘だろ。魚じゃなくて、魔物……? あのヒレが羽根っぽくなってる魚も、背中のヒレだけ刀になってる魚も、全力でクロールしてる魚も……? ってよく見れば、魚とは言い難い魔物ばっかだな。
あ……今、すれ違った魚もウィンクしてきた。こいつも魔物だな……
「この辺りはもうオツェアーンの近くだからね。魔物と言っても友好的な魔物ばかりよ」
「友好的な魔物もいるのか?」
「当然よ。アンタの手を握っているのも魔物の1人だからね」
そりゃそうか……すっかり忘れてたけど、シーも魔物なんだよな……って事は? 俺は今から、魔物の女王に会いに行くって事か。なんか急に怖くなってきたな……最悪、海で戦闘って事だよな? いや、戦闘なんて考えたくないんだけど……
「にしても、アンタのメイドって凄いわね」
「え?」
「魂が完全にニンゲンで安定していたの。だから、女王はアンタしか呼ばなかったし、私もオツェアーンへ案内する気は無かったわ。人魚の姿になった時、見た目を誤魔化しただけだと思ったのだけれど……それは違った。魂まで完全に人魚の魂になってるわ……」
フェルの魂……安定しているのか。俺には見えないけれど、安定しているなら良いんだ。
チラリとフェルの方を見ると、嬉しそうに頬を桜色に染めていた。
「自慢の相棒だからな」
「へえ、だから魂の結びつきが他の人よりも強いのね」
「そんな事まで見えるのか?」
魂の結びつきって……まあ、フェルはこの世界での最初の家族と言うか……大切な人と言うか……まあ、結びつきが強いのも頷ける。
「フフッ」
「どうした、フェル?」
シーの何かを見て……微笑んでいるのか?
「魂と言うのは、人魚なら見えるようですね?」
「ちょ、ちょっと!? アンタ、まさか!?」
「魂は隠せませんね……」
シーが俺を手放して、フェルに突っかかっていく。全く……仲が良さそうで何よりだ。
それにしても、これが海の感覚か……地面に足が付いてないから踏ん張れない。空を飛んでる時の感覚に似てるけど、水の抵抗があるせいで、動きが鈍ってる気がするな。
「レ、レイジ、待たせたわね?」
顔を真っ赤にしたシーがまた俺の手を引いて、引っ張っていく。フェルが嬉しそうに隣を泳いでるけど……何を言ったんだ?
「別に何も。レイジ様がマーメイドの下半身に興味を持っていたので、貴女の体で教えてみては、と唆してみただけです」
……あのな、俺は別に誰とでもそういう事をしたいとは思ってないんだけど、と言うか、シーは俺の事をそういう風に思って無いだろ……
「本気で思ってらっしゃるなら、鈍感主人公の仲間入りですよ」
嘘だろ!?