海底への招待
アプサラスに無限変化水流の左腕を貰い、俺達は急いでハインリヒ王国に戻ろうとした時だった。
「レイジ! ちょっと待って!」
筋肉車の準備をしに砂浜を離れたネルガを待っていると、海の方向から声を掛けられる。振り向けばシーが砂浜に乗り上げていた。
そうか……シー達に挨拶が済んでいなかった。助けてもらったんだし、ちょっと話したいな。
「あのね、私達の女王がアンタに会いたいって言ってるの。だから、今から来てくれるかしら?」
「シー達の女王……? アプサラスじゃ無いのか?」
てっきり、アプサラスの事かと思ってたけど……アプサラスは女王って柄じゃないしな。ハインリヒに急いで戻りたいけど……女王の事、気になるんだよな。
「でしたら、私も一緒に……」
「駄目よ。ニンゲンはレイジ以外は入ってはいけないの」
……フェルが一緒じゃ駄目なのか。この鋼水の手足はゼメルの範囲内なら扱えるだろうし……俺1人で手早く話を聞いてくれば良いんだろうし。
と、考えているとフェルが指を鳴らした。すると、俺の体を闘気が包み、ぼろ布の服がシンプルな黒色のサーフパンツに変化した。
「人間は……ですか。でしたら、問題はありません」
フェルは海へと飛び込みながら、自身の脚を闘気で包む。目が眩む程の光を放ち、その光が収まると……そう来たかぁ。
「これで問題は無いでしょう?」
「グギギギ……!」
フェルの脚が藍色を更に暗くしたような色の鱗に包まれた魚の尾となっていた。それに合わせて、服装も黒のシンプルなビキニを身に着けて……おお、谷間が凄い。やっぱフェルはデカいな……!
なるほどね。俺以外の人間が入っちゃいけないなら……フェルは人魚になるよな。
「これでしたら宜しいですよね? レオ、先にネルガとスギヤの街へ向かいなさい。用事が済んだら、転移します」
「おう、分かった。レイジ様も気をつけてな!」
レオはあっさりと、ネルガの向かった方へと走っていく。前は凄い涙目で見送ってくれたのに……あの時は義手も義足も無かったし、ヤパンに行く方法も行く方法だったからな……
「ちょっとー、何勝手に決めてるのよ!」
(シー、其方のメイドでしたら大丈夫。連れてきてください)
頭の中で優しそうな女性の声が響く。そうか……フェルも行って良いのなら、多分大丈夫だろ。
俺も海へと飛び込んでみる。シー達の歌声の効果はまだ残ってるようで、目も開けられるし、呼吸も出来る。
「それじゃあ、レイジ! ……それとそこの女も案内してあげるわ! 海底王国オツェアーンへ!」
シーは俺の手を引き、体をくねらせてスイスイと泳いでいく。海底か……女王ってどんな人なんだろう? 声だけ聞くと優しい感じなんだけど……