のんびり救世主
ネルガは目を伏せたまま、後ろに引き下がった。まさか、あんな弱点があるなんて……今度から気を付けよう。だから、今は……!
「さあ、完全に形成逆転だな……!」
「ヴォルテール……お前は絶対に許さない……!」
……久しぶりにフェルが怒ってるな。ヴォルテールの奴、何を言ったんだ?
ボンテージを直しながら、ヴォルテールは不敵に笑う。警戒し、構えなおす俺とフェル。しかし、ヴォルテールはスッと立ち上がるだけで、何もしてこない。
「こうなったら失敗ね……私に勝ち目は無いし……」
ヴォルテールの足元に、紫色の魔法陣が描かれる。魔力が宿り、中心の穴から転移の為の門が開かれていく。
コイツ……撤退する気か。だったら、フェルに止めさせる!
「くっ……!」
「させるか! これでも喰らいなさい!」
フェルが動き出した瞬間、ヴォルテールは手を銃の形にして俺に突き付ける。紫色の魔力の塊が撃ち出された瞬間、フェルが俺の前に現れて鋼水の盾を作り出す。
いや、これは……触れちゃいけないような……そんな気がする!
「フェル、避けろ!」
「駄目です、間に合いません!」
魔力の塊は鋼水に触れた瞬間、小さな球体を形作った。立体的なブラックホールのように、俺やフェル、砂や海の水を飲みこんでいく。ネルガだけは踏ん張って吸い込まれるに抵抗している。
これは……呑み込まれない、とかは無理だ。だったら……
「フェル! 俺達だけで入るぞ!」
「行き先が分かりません、危険です!」
「大丈夫だ! フェル、お前がいる! だから俺は大丈夫だ!」
既にヴォルテールの姿は見えない。逃げられてしまったという事は、この場所は既に安全だ。だったら、後はこの球体をどうにかすれば……!
(私にお任せ~)
のんびりとした女性の声が頭に響き、俺とフェルの体が鋼水で出来たロープのような物で引っ張られる。その直後ドロドロとした水の塊が、紫色の球体にぶつけられ……止まった?
(間に合ったね~。2人とも、怪我は無い~?)
のんびりとした声……頭に直接響いてくるような声は、間違いなく守護神獣の声だ。アプサラスが助けてくれたのか……
鋼水で出来た手足を使って、立ち上がった……瞬間、海から黒い弾丸が飛んできて俺の体を地面に叩き付ける。
「無理してんじゃねえよ、馬鹿!」
涙を流しながら、レオは俺を抱きしめていた。全く……レオは泣き虫だな。
「レイジ様……」
「おお、フェルか……? あれ、怒ってる?」
気のせいじゃなければ……フェルさん、怒ってるよな。ネルガとかに説教する時の目をしてるような……? あれっ、手足が重くて動かない!? これって、もしかして……フェルが変化させてる?
「勿論、お説教ですっ!」
「ひええええええっ!?」
本日の省かれシーン
ネルガ:助かりました……アプサラス殿
アプサ:(いえいえ~。それよりも、ネルガさんはまだ女性に弱いんだね~)
ネルガ:アッハッハ……お恥ずかしいですな
レイジ:(ネルガが女性に弱いのって昔からなのか……)
フェル:レイジ様、聞いていますか!?
レイジ:ヒイィ!?