流れを変える、勇者の魂
中々に……厄介ですね。アプサラス自身が、四属性をかなり警戒しているせいか……接近させてくれません。それに……私の治癒の風が追い付かない速度で麻痺毒の水蒸気……いいえ、最早霧が辺りを漂っている。そろそろ、限界が……
「っ! この気配、死んでなかったと言うの!?」
ヴォルテールの表情が驚愕に染まり、海へと向けられる。この気配は……っ!
「今更戻って来た所で、貴女に出来る事なんて無いわ」
「本当にそうかな?」
見知らぬ金髪の女性に支えられ、レイジ様は不敵な笑みを浮かべている。見た目などに変化は見られませんが、内面が少し明るくなっているような……?
「まだ完全に使いこなせるわけでは無いが……魂を込めて! Ru――」
レイジ様の声が海から響き、不思議な事が起こりました。白い光がここに存在している生物を包み込んでいくのです。私達だけでなく、アプサラスやヴォルテール、魔物の大群まで白い光に包まれて……?
「な、何よコレ……何で私の洗脳が解けてんのよ」
ヴォルテールの様子がおかしい……いえ、アプサラスや魔物の様子がおかしい? 目の色が元に戻って……っ!
「アプサラスッ! ……海の色がっ!?」
アプサラスが海へと飛び込み、一直線にレイジ様の元へと向かって行く。ヴォルテールの言う通りに、アプサラスが飛び込んだ瞬間に海の色が美しい蒼色に染まっていく。
息苦しくなくなって……これは、空気が浄化されている? それに魔物が……逃げていく? もしかして、レイジ様の声で正気に戻った?
「フェル、コレって……?」
「分かりません……ですが、私達に有利な状況になったのは、間違いないかと」
アプサラスの背に乗って、レイジ様が戻ってくる……見間違いでなければ黒き鋼のような水を変化させて手足にしている? まだ夫婦石が届く範囲では無いはずですが……
「レオ、人魚に治療してくれ。フェル、アプサラスの加護を受けろ。ネルガ……」
レイジ様がイヤリングの宝石を摘まむと、輝き、2つに分かれ、2対の剣を形作る。レイジ様がそう命じるのならば……加護を受けてきましょう。
「俺と一緒にヴォルテールを相手にするぞ。手伝ってくれ」
「勿論です、お手伝い致しましょう!」
レオは既に人魚の治療へと泳いでいた。レイジ様が駆け出し、ヴォルテールの元へと駆け出していく。対するヴォルテールはレイジ様を見て笑みを浮かべている。
「ウフフ……貴方は既に私の虜……そうでしょ?」
ヴォルテールがレイジ様にキスを投げると、ハートの魔力となってレイジ様に弾けた。レイジ様の動きが止まり、手を膝を着いてしまう。
もしかして、レイジ様は洗脳される条件を満たして……っ!?
「なんてな、喰らえっ!」
「チィッ、クソッ!」
レイジ様が素早く動き出し、片手で斬り上げますが、ヴォルテールは鞭を振り下ろして上手く逸らしていく。
良かった、レイジ様は洗脳にかかっていなかったのですね……