中ボスと大ボスの間にセーブをするような時間
褐色のメイドが構えを解いた。フェルも全ての剣を消してこちらへと振り向く。3人目の分身フェルが背後から褐色メイドを拘束する。負けを認めてくれたのか、抵抗もなく拘束されてくれた。
俺を護衛してくれた分身フェルは俺を優しく抱き上げる。
「くっそー、メイドの嬢ちゃんつえーなー。全力出しながら、殺すななんて面倒くさい注文受けてるのに負けかよ……」
「いえ、私も戦闘経験の不足を感じました」
よく考えれば難しい注文をしてしまった。きっと、フェルの全力というのは圧倒的な魔力の量を押し付けるものだろう。それは明らかに殺すことを前提とした戦い方で、戦闘経験がほぼ無いフェルには結局全力を出せるものではない。そこを褐色メイドに突かれてしまった。
「そこの兄ちゃんも魔力を使わずにメイドの嬢ちゃんにコンタクト取るなんてすげぇよ」
それは俺が凄いっていうよりは、フェルの特殊能力が凄いんだけど……あっ、本体のフェルが照れてほんの少し顔を赤らめてる。可愛い……まあ、ここは俺の手柄にさせてもらった方が余計な詮索が無くていいか。
「そりゃどーも。お前……名前は?」
「オレか? オレはレオ、あのクソデブの従者だ。名前は聞いても?」
「まだ駄目だ。ここが完全に俺の屋敷になったら挨拶するよ」
もしかしたら、名前がバレて変な魔法を食らうかもしれない。可能性があるなら名乗りたくない。
レオは少し嬉しそうに俺の言葉に頷いた。
「ああ、それが良い。で、クソデブから屋敷譲られたって本当か? あのクソデブが譲るなんて、ありえねーと思うんだけど」
「ああ、本当だよ。ユリウス王が書かせた譲渡の証明書がある。フェル、証明書を」
本体のフェルが転移のように紫色の転移に使っていた円を創り出す。そこに片腕を突っ込んでフェルが探るように動かす。
今日はその証明書を入れる所しか見てないんだけど、他に何が入ってんだろう? 実は作った武器とかしまってんのかな?
「ん……ありました。こちらです」
フェルが取り出したのは金のオシャレな模様の枠に俺には読めない文字が書かれた紙を取り出す。
「おおー、これ最初から見せてくれりゃ良かったのによ! なんで見せてくれなかったんだよ」
何だアレ? 裏面に小さな赤い点があるな ?血の付いた武器なんかあったっけ?
フェルが証明書をまた、収納の魔法に放り込む……ん? なんか慌ててるような気が……気のせいか。
「いや、ピグマの従者がどれくらい強いか知りたくてさ。予想以上に強くて吃驚してるんだ」
実際、どこにでも居そうな(それでも平均より美人な容姿だったけど)メイドですら、フェルの3割に拮抗していた。確かに俺のせいで、フェルの大きな弱点になってしまった事は有るかもしれない。しかし、俺という弱点を効果的に突いてきた発想をただのメイドが突いてきたのが驚きだった。
「あー、それはここのリーダー的な奴の指導のおかげだな」
「リーダー?」
「ああ。クソデブのセクハラの苦情がメイド内で凄くてな。事態を重く見たそいつがメイド、ついでに執事も鍛えたおかげでクソデブの従者は戦闘集団になってんだ」
素人だったであろう従者を戦闘集団に仕上げた……か。是非会ってみたいな。俺ではフェルに教わることは出来ない。そこまでフェルに離れて欲しくない、けれどフェルには対人戦を経験して欲しい。そいつなら解決できる。
「レオ、そいつの所に連れてってくれ」
「ええ? マジで? ……分かったよ」
◆
レオの案内で、そのリーダーの所へと案内してもらう。パーティールームの清掃をしてるらしい。因みに俺はいまだに分身フェルにお姫様抱っこされてる。死ぬほど恥ずかしい。頭が……沸騰しそうだ……恥ずかしい。
すれ違うメイドはレオが居るから少し怪訝な表情をしてるだけで済んでる。
「ここだぜ」
レオがほかのドアより少し大きめなドアの前で立ち止まる。ここにそのリーダーが居るのか……
本体のフェルがそのドアを開ける。煌びやかな内装、そこに煌めく筋肉。
「ハーハッハッハッハッハ! 今日も私の筋に」
フェルがドアを閉めた。何あれ?
筋肉 is justice