アンタの為の歌
今までは仰向けに浮かんでいたのだが、海底に垂直に浮かばされる。その周りで正三角形を作るように、人魚の3人が俺を取り囲んでいる。魂を預けるとは言ったけど……俺は今から何をするんだろうか?
「今から私達が3人で歌うわ。そうしたら、体が心地よい感覚に包まれて何かを引き抜かれそうな感じがすると思うの。その引き抜かれそうな感覚に逆らわずに、受け入れて欲しいわ」
「分かった」
とは言ったけど……大丈夫だろうか。マーメイドは魂を食べる、フェルはそう言っていた。それにマーメイドは亜人ではなく、魔物と聞いている……もしかしたら、ヴォルテールの部下で俺の魂を食べようとしてるんじゃ……今更、不安になってきた。
不安が表情に出ていたのか、シーが俺の顔をジッと見つめていた。
「別に、アンタが魂を引き抜かれる感覚を受け入れなくても怒らないわ。魂は命を持つ物にとって無くてはならない物。それを他人に、ましてや初対面の異種族に預けるなんて……私だったら絶対にしないもの」
「そう……だよな……」
「でも、アンタは信じると言った。だから今だけは……アンタの為に歌うわ。だから、魂を預けなくたって構わない。だけど、私達の歌は聞いて欲しいわ」
「うん、そうだね。誰かの為に歌うなんて初めてだから、緊張する」
「まっかせてー! すっごい頑張る―!」
……俺の為に歌う、か。シーは静かに目を閉じ、胸の前で祈りを捧げるように手を組む。その姿は神に祈りを捧げる修道女のようで……ただ、美しかった。
「Ru――」
「La――」
「Ah――」
3人の歌声から発せられる何かが、球体となって俺の体を包み込む。心臓の辺りにふわりと軽くなるような感覚が訪れる。肩や腰の力が抜け、心臓の辺りの何か……いや、きっと魂がシーの方向へ引っ張られていく感覚がやってきた。
「これが……俺の魂?」
シー達の歌声の影響か、俺の魂は目に見えるようになっていた。薄いピンク色で色付きガラスのように透けている。糸のようなものでツギハギで、焦げたり、ひび割れていたり、鋭利な刃物で切られたかのように裂けている。中心には黒いアメーバのようにぐにゃぐにゃな何かがフヨフヨと浮かんでいる。
これが俺の魂……魂なんて見た事は無いけど、これが普通では無いのは流石に分かる。そして、見えてしまった……
「Ru――」
歌い続けるシーの心臓の辺りに浮いている、口の形をした魂を。あの魂に向かって、俺の魂が引っ張られている。
「くっ……」
怖い……だけど、だけど! 俺はシーを、ストリーを、ラクシュを信じる!
心の抵抗を無くし、魂がシーの方へ向かうのを受け入れる。意識にも靄がかかり、瞼が重くなっていく。俺の意識は魂へと吸い取られ、シーの元へと向かって行く。そして、シーの魂が俺の魂に……口づけをした。