魂を見る人魚
ラクシュと名乗った人魚は俺の周りをクルリと泳ぐと、俺の目の前に素早く現れる。髪を弄り、頬を摘まみ、顔を何度も触られた。随分とボディタッチが激しいな……人間を初めて見たって訳じゃ無さそうだけど。
「ラクシュ、ニンゲンで遊ばない。私はストリー、見ての通りにマーメイド」
俺で遊ぶラクシュを押し退け、新たな人魚が現れた。ウェーブのかかった水色の髪が揺れる。ストリーは簡単に自己紹介を済ませると、青い瞳を半目にしてこちらを見つめている。何というか瞳……いや、その奥にある何かを見つめている……?
「シー、ラクシュ。このニンゲンの魂を見て……」
「えー、なになにー?」
「何よ、普通のニンゲンの魂でしょ?」
俺の瞳の奥、ストリ―曰く魂を見ていて何か気付いたらしい。今まで俺の周りで揺れるように浮かんでいたラクシュ、そして今まで声だけしか分からなかったシーと呼ばれる人魚を呼び寄せる。金髪ツインテールの人魚が現れ、3対の青い瞳が俺の魂とやらを見ている。
「あの……そんな見られても、何が何だか分からないんだけど……?」
「嘘……ここまで手を加えられた魂が存在してるなんて。どうしたら魂がここまで不安定になるの!?」
俺の魂を見たシーは、驚愕の表情へと変わる。俺の魂ってそんなに普通じゃないんだろうか? 確かにシェーンに手を加えてもらったから、普通の魂とは言い難いと思うけどな……
「ねえ、ニンゲン。名前は?」
「俺はレイジだ……俺の魂とやらはなんかおかしいのか?」
「おかしいなんてもんじゃ無いわよ! ニンゲンの癖にカミサマに干渉され過ぎて、魂がずーっと安定してないの。こんな状態で魂を開放してしまったら、悪に堕ちた時に取り返しのつかない存在になってしまうわ!」
まさかシェーンの干渉がそこまで俺に危機をもたらしかけてたなんて……それとも、守護神獣から力を借りる事も干渉に入るのか? そうだとしたら……確かに干渉され過ぎてる。って、そんな事よりも……俺が取り返しのつかない存在になる?
「だったら、私達で正しく開放できるようにキッカケだけでもあげようよー」
「ん、ラクシュに賛成。ついでにアプサラス様も止めてもらう」
「ハァ!? コイツに!?」
…………そこの話し合いに俺の意思は無いのかな。助けてもらったから、言い出し辛いけれど。
「大丈夫、レイジの魂は不安定だけど聖属性。魂の安定をさせれば、正しく使える……筈」
「無理よ、ここまで不安定な魂を定める事は出来ないわ。今日会ったばかりの私達に、コイツが魂を預けてくれる訳……」
「預けるよ」
「は?」
俺の言葉にシーは目を丸くして、こちらへ振り向く。難しい事は分からない。だけど、人魚たちは俺の命を救ってくれた。魂を預けるっていうのは怖いけれど……俺は、誰かに助けられる才能を信じる。だから、魂を預ける。
「ほら……少し、魂が安定してきた」
「ぐぬぬっ……分かったわよ! やればいいんでしょ! 準備するわよ!」
「わーい。レイジの為に歌うよー!」