喪失
今回の戦いにおいて、最も重要なのは空気を制する事。アプサラスが麻痺毒を水蒸気として紛れさせるなら、私は解毒として治癒の風を微風で紛れさせるとしましょう。レオがレイジ様を救い出すまでの時間は戦えるはずです。
「闘気放出剣!」
太陽の剣から闘気を燃え盛る炎のように放出させる。大きく跳躍し、アプサラスへと振り下ろしてみましたが……鋼の様に硬いキューブ状の何かに防がれる。これがレイジ様の言っていた、厄介な性質でしょうか……見た目は金属だというのに、水属性を感じます。
「なるほど……でしたら、放出 : 雷!」
放出させる闘気を無属性から雷属性へ変更。雷鳴の如き連続攻撃を浴びせてみるも……盾は無傷ですか。レイジ様も風属性で火属性を無効化していましたから、理由は分かりませんがそういう事もあるでしょう。地面を蹴り、後ろへ下がるとアプサラスが叫んだような素振りを見せます。その直後、先程まで私が立っていた地面が大きく抉れました。
「見た目だけ見れば戦闘には向いていなさそうですが……恐ろしい程に隙がありませんね」
全く……どう判断したらゼピュロス様は彼女が一番殺しやすいと言うのでしょうか……明らかに一番殺し辛いです。殺せない訳ではありませんし、今回は殺しませんが!
「こうなったら使うしかありませんね……レイジ様、お借りします」
天照様の炎を太陽の剣に……トール様の雷を太陽の剣に……ゼピュロス様の風を太陽の剣に……疑似的な水を太陽の剣に……! 太陽の剣は虹色の輝きを放ち始め、属性と言う感覚を失う。4属性を感じながら、属性を感じない……これなら……
「四属性……」
「そこのメイド、止まりなさい」
この声は、ヴォルテール……? ネルガとレオは……戦わずに立ちすくんでいた。一体彼らに何が……?
「これを見なさい」
「レ、レイジ様……!?」
ヴォルテールの方を向くと、意識を失い、火傷と鞭の跡にまみれ、ぼろ布を腰に纏っただけのレイジ様が物のように髪の毛を掴まれていた。コイツ……!
「ここを強襲してくる奴らに、交渉の余地は無いわね。生きて返すつもりは無いわ。だから……」
「まさか……!?」
ヴォルテールの元へ踏み出そうとするが、アプサラスが目の前に立ちはだかる。レイジ様は……放り投げられた。
「1人ずつ、嬲り殺してあげる」
海に向かって落ちていき、大きな水柱を上げている。紫色に変色した海です……ただの海で有るはずが無い。猛毒の海の中では治癒の風も届かない。こうなってしまったら、レイジ様はもう……
「あ、ああっ……うあああああああああっ!」