心の底に隠そうとしたもの
レイジ様が……攫われてしまった……魔物の大群自体は問題ありませんでした。アプサラスの変化の性質……水を麻痺毒の性質に、更に水蒸気に変化させて空気中に漂わせていたとは……魔王軍が立ち去ったのを見計らって、風のマフラーに手をかけ、突風で麻痺毒の水蒸気を払う。
「くっ……早くレイジ様を追いかけなければ……!」
体に上手く力が入らず、プルプルと震えが止まりませんが……早く追いかけなければ。と、なんとか踏み出す私の脚を何かが掴みました。この大きな腕は……ネルガ?
「待つのです……フェル殿、1人で……行ってはいけません」
「行かなければなりません! レイジ様とキスさえ出来れば、麻痺毒など効かないはずです!」
レイジ様の声が聞こえない……急がなくてはレイジ様が殺されてしまう! しかし、ネルガの腕は全く私を離してはくれません。ネルガ、何故邪魔を……!
「そんなフラフラな状態では勝てる相手にも勝てはしない! まずは体勢を立て直すべきです!」
「そんな暇はありません! こうしてる間にもレイジ様が……レイジ様がっ!」
ネルガがヨロヨロと立ち上がり、私の体を力強く掴んでいる。目を見開き、歯を強く食いしばっていた。
「フェル殿、レイジ様を救いたい気持ちは私も同じです! ですがっ、焦ればレイジ様を救うどころか、より危機的状況に追い込むだけなのです! この失態は貴女だけの責任ではない! 我々3人の失態、ですから、我々3人で取り返しましょう……ですから」
ネルガが私の頬を拭う。気付かない内に私の頬を涙が伝っていた。あれ……私は何故泣いているの? 泣いている暇なんて無いのに、あんなに心に怒りが満ちていたはずなのに……
「自分の責任だと、自分を追い詰めなくても良いのです」
「うう……ひぐっ……レイジ様ぁ……」
ああ、駄目です……私はしっかりしなきゃいけないのに……レイジ様にだって弱みを見せる気はなかったのに…………ネルガの暖かさは、ズルすぎます……
「フェル殿の服のおかげで、麻痺の治りも早いですな、そうでしょう、レオ?」
「…………ああ、獣人の血とフェルの服のおかげで……なんとか立てるようにはなったぜ」
ネルガも、レオも……麻痺毒に打ち勝ち、よろめきながらも立ち上がった。
「貴女1人でも助けられるかもしれませんが……ヴォルテール、彼女とは戦った事が有ります」
「あの女を知っているのですか!?」
あの女はレイジ様で遊ぶなんて言ってやがりました……! 何をするのかは分かりませんが、レイジ様に何かあれば……殺してやる……!
「ええ、詳しい事は移動しながら話しましょう。レオ、追えますな?」
「ああ、匂いは残ってる。半獣化すれば確実に追跡できるぜ」
本日の余談
レオ :よくよく考えれば、酸で溶けないって凄くないか……?
ネルガ:全盛期でしたら飲んでも大丈夫でしたが、流石に最近は舌が少し痺れるようになってしまって
フェル:(……味がどうなのか少し気になります)