いざ、ゼメルへ
翌日の朝……俺達は直ぐに筋肉車へと乗り込む。フェルとレオには長袖のメイド服。ネルガには長袖の執事服。俺も防護壁の性質が付与されたコートとマントを久々に身に纏った。全員が肌をなるべく露出しないように心掛ける。
「うう、やっぱ動き辛くねえか……?」
「もしもアプサラスが敵ならば、その性質は変化。レイジ様の話によると、私でも耐えられない程の毒性に変化させてくるとの事です。せめて直接触れる事だけでも避ける為に、着ておきなさい」
「分かってるけどさー」
フェルの言う通り、海の街ゼメルに行くというのに長袖に戻った理由は、アプサラスだ。アプサラスが敵か味方なのかも分からない状態の今、対策をしておいて損は無いだろう。
「あのネルガですら服を着てるのです。貴方が死ねばレイジ様が悲しむ、我慢してください」
「そりゃ、何かあってからじゃ遅いけどさ……」
俺のコートには快適温度の性質が付与されている為に不快感は無いが、フェル達の服に快適温度は付与していないらしい。と言うのも、フェル達は今回、アプサラス対策として衣服に水、魔力、神力や闘気をなるべく弾く性質を付与したらしい。おかげで快適温度の性質も弾かれ、暑い国なのに長袖長ズボンと地獄のような格好で筋肉車に乗っているのだ。当然、筋肉車は冷房どころか扇風機だって無いし、窓も開けられないタイプだった。
「仕方ありませんね……」
溜め息を吐きながら、フェルは異空間収納から緑色のマフラーを取り出した。風の文様も入ってるし、これってもしかして……ゼピュロスからの加護か?
「おいおい、こんな暑いのに更にマフラーとか……見てるだけで暑いっての」
マフラーを手に持ち、フェルが目を閉じると屋敷の中に涼しい風が吹き始める。流石にレオも風に気付いたようでフェルの手元のマフラーを見つめていた。俺は暑い訳じゃないけど、風が爽やかで気持ち良いな。
「ゼピュロスも自分の加護が涼む為に使われるとは思わなかっただろうな……」
「えっ、これゼピュロス様が関わってるのか?」
涼しい風ゼピュロスが関わっている事を知ると、レオの顔はサーっと青ざめていく。いや、ゼピュロスの事だから気にしないと思うんだけど……レオにとっては怖い存在なんだなぁ。
「フェル、この気配……」
「ええ、感じました。レイジ様、少々お待ちください」
急にレオの目が鋭くなる。フェルは静かに扉を開けて、レオと共に外へ出て行く。俺の義手と義足から力が抜けてしまう。一体、何が起こったんだ?