私の我儘、たまには聞いてください
身体が動かない……と言っても、力が入らないとか身体が痛むとかでは無い、義手と義足が取られているだけだ。起きた時にフェルは傍に居なかったので、多分フェルが何らかの理由で取ったんだろうけど……珍しく、近くに従者が控えてない。これじゃ、体を動かせないな……呼べば誰か来ないかな?
「フェルー、レオー、ネルガー、誰か居ないのかー?」
俺の声は部屋に空しく響いて消えていく。弱ったな……俺1人じゃ起き上がるのだって時間がかかるんだけど……というか、フェルは俺の心の声を聞いていないのか?
「申し訳ありません。ティール工房からイヤリングが届いたようなので、私が取りに行っていました」
ベッドの横から声が聞こえてくる。首だけ動かして見れば、手の中に隠せそうな小箱を持ったフェルが傍に立っていた。そうか……イヤリングが届いたのか。だったらまずはどんなデザインなのか確認したいんだけど……
「フェル、義手と義足をくれ」
「嫌です」
…………あれ? 聞き間違いか……フェルが嫌って言った?
「聞き間違いではありません。模擬戦で勝ったんですから……私の我儘を聞いてください。最近、お世話する事が減って……寂しいのです」
そういう事ならしょうがないか。元はと言えば、俺が失言してフェルを怒らせたのが原因だし……フェルに世話になるか。
「では、失礼します」
フェルの体から黒い影が抜け出し、フェルの姿となって俺の体を起こしてくれる。さっきの戦いでは使われなかった分身だ。もし使われていれば、風機関銃蹴の時点で負けてただろうな。当然だけど、フェルはまだまだ全力では無かったって事か……チートの恐ろしさを身を持って知ったよ。
「こちらがティール工房から届いたイヤリングです」
俺の目の前に小箱が差し出され、フェルの手によって開かれる。中にはシンプルに丸くカットされたルビーが付けられたイヤリングが2つ。ちゃんと耳たぶを挟んで付けるタイプだ。耳に穴を開けるの……怖いし。いや、もっと怖い思いはしてきたんだけどな……なんか怖いんだよな……
「で、頼みがあるんだけどさ」
「はい、どのような魔法を付与しましょうか?」
流石フェルだな。俺がアグラにした質問を聞いていたんだろう。話が早くて本当に助かる。
「イヤリングにきっかけを与えて、武器に変形するように出来るか?」
「きっかけ……ですか。どのような物がよろしいでしょうか?」
「俺も使いたいからな……魔力は使わないきっかけが良いな」
一番分かりやすいのは、イヤリングを指で叩くとかだろうか?そこまで単純すぎると、日常生活のちょっとした衝撃で武器に変形しそうで怖いんだけど……
「なるほど……でしたら、宝石の部分を摘まむというのは如何でしょう? 指紋認証の機能を付けておきますので、他人に触れられても問題が無いようにしておきます」
「ああ、頼むよ」
指紋認証的な機能も魔法で付けられるのか……やっぱりフェルは凄いな……ちょっと、フェルも嬉しそうな表情をしている。