ゼメルへ今行くか……予定通り朝行くか?
アグラにイヤリングの作成を依頼し、俺達は館に戻った。さっきまでいた客室に戻ると、ネルガが紙に何かを書き込んでいた。へえ……ネルガも資料の作成とかするんだな。ハインリヒの屋敷じゃ力仕事ばっかしてる印象だったけど。どんな仕事の資料なんだろうか……フェルに目を向けると、こっそりと覗き込んでくれた。
「仕事じゃないですね。レイジ様のトレーニングメニューのつもりらしいですが、これは……」
フェルが完全に引いた声を出している。一体、どんなメニューが書いてあるんだ……いや、ネルガの事だからとんでもないメニューなのは予想が付いてるけど……
「おお、皆様お戻りでしたか。御用事はお済でしょうか?」
「ああ、済ませたよ。さて、レオも座ってくれるか」
なんとか意識を取り戻したものの、まだ顔が赤いレオがネルガの隣に座った。フェルは俺の車椅子を2人の前に動かしてくれる。さてゼメルの事について話してみるか。
「ゼメルは既に襲撃されているかもしれない」
俺がそう言った瞬間、ネルガとレオの纏う空気が変わった。部屋の空気も良い緊張感に包まれ、こっちの気も引き締まる。
「理由をお聞きしても宜しいですかな?」
「俺の夢にアプサラスが出てきたんだ。他の守護神獣を集めた状態で暴れるだけ暴れて行きやがった」
「うーむ……彼女はそんなに乱暴者ではなかったと思うのですが……」
トールも言っていたけれど、やっぱりアプサラスは女性なんだな。まさか、あそこまで強いなんて……ゼピュロスはアプサラスが殺しやすいと言った。天照は守護神獣で最強と言い。ネルガは性格に違和感を覚えた……ここから考えられる事は……
「襲撃されて、操られている。俺はそう考えているんだ」
アプサラスは助けてと言っていたし、目が普通の色では無かった。あの時は違和感を感じなかったけど、アプサラスの神力には何か神聖さ以外の何かと言うか……不純物が混ざっていたような気がする。
「では、どうしますか? 私が体を毒や麻痺に耐性のある体に作り変えて、打ち倒せば夜も道を進めるかもしれません」
「それならオレも半獣化してレイジ様の指示を貰えば、攻撃を受ける前に打ち倒せるかもな!」
「私も我慢して、耐性のある服を着れば……活発化した魔物の攻撃を無視できるかもしれません」
ネルガだけ我慢する内容が大分おかしいけど、確かにそれなら今日中にゼメルに辿り着く事は出来る……けど、そこまでして急いで誰かが怪我をしても困る。天照の話によれば、アプサラスの毒はフェルですら喰らえば危険だと言う。
「ここで……焦ってはいけない。予定通りで行くぞ。各自でゼメルでの戦闘を想定した準備をしておいてくれ。フェルは俺と一緒に頼む」
「かしこまりました」
「そうだな、分かったぜ」
「賛成ですな。無理をして我々が倒れ、レイジ様を守れなければ急いだ意味が無くなります。急がば回れの精神で行きましょう」
これで……良いんだろうか。ゼピュロスに言われ、仲間が傷つく覚悟をしたはずだけど……俺が戦えなくなると、急に怖くなってしまった。レオとネルガが準備の為、部屋を出て行く……その背中を見送り、大きく息を吐き出した。
「ネルガも言っていましたが、私も賛成です。レオも同意見でしょう。自信を持ってください」
「うーん……まあ、そうだな……」
俺が不安なのは……むしろ、ゼメルに着いた後なんだけど……
本日の省かれシーン
レイジ:よく考えれば、身体を作り変えるってなんだよ?
フェル:私の体を文字通りに闘気で作り変えるのです。毒や麻痺への耐性なら……ゴーレムとかですかね?
レイジ:ゴーレムか……(良いな……)
フェル:レイジ様ってモン娘属性好きそうですね。覚えておきます
レイジ:うっ!?
◆
レオ :よっしゃ!
ネルガ:……?