ピグマの屋敷を攻略せよ 囚われの主人公編
今回は分かりやすくするため
()←フェルの念話
『』←レイジのフェルへの言葉
で、お送りいたします
馬鹿デカい獣か何かの咆哮が頭を揺さぶる。目を開けると、何も見えない。布の感触。目を塞がれている……? 確か……フェルとピグマの屋敷を探索していて……それから……
「なんなんだよ。今の咆哮!? あのメイド嬢ちゃんが獣でも召喚したのか? …………こっちの兄ちゃんは……気絶したまんまか。よかった……」
そうだ、この声の奴に攫われたのか。だとすると、こいつは俺の監視。この様子だと気絶したまんまだと思ってそうだな。それなら、フェルを呼んでみるか。シェーンならどこでも届くって言ってたもんな。
『フェル! 聞こえるか!? ……フェル! フェルッ! 今の咆哮はお前か!?』
(レイジ様? 聞こえますか!? レイジ様!)
『頭の中に声が響く!? これが念話ってやつか。スゲェな……』
フェルの声が、耳を通さずに頭の中に直接響いてるような感覚。なんというか、音漏れしてないイヤホンのような。耳じゃなくて鼓膜を直接刺激されてるような……奇妙な感覚だけど、まあいい。フェルと連絡が取れた事が大事だ。
(レイジ様、今はどちらに居るかわかりますか?)
どこに居るか……攫われた奴にもう抱えられていないみたいだし、どこかの部屋で監視されてるんじゃないだろうか。体は動かせないとしても、目隠しはされているし、場所は固定されているだろう。
『悪い、気を失っていたからな。既にどこかの部屋に居るみたいだ。目隠しされて、多分目の前には攫った奴が居る。チートで使えそうな事を指示するから実践してみてくれ』
(かしこまりました)
よし……これならフェルとの連携でこの窮地を乗り越えられるはずだ。考えろ……フェルにどうやって俺の位置を知ってもらう……?
『そうだ、さっきの咆哮みたいな魔法ってどんな魔法だ?』
(咆哮系の魔法です。動物の声を再現するという隠密時に誤魔化す魔法ですが、龍ほどとなれば衝撃波を発して人を吹き飛ばすことが可能です)
咆哮……動物の声を再現ができるのなら、鯨の咆哮は出来るのだろうか。
「お前、起きてんだろ?」
『っ! フェル、探索を始めろ! 目が覚めたのがバレたかもしれない』
(分かりました、お気を付けを)
足音が、確実に近づいてくる。ここは近付かれすぎて、何かしらの方法で念話がバレたら不利だ。上手く行けば情報も手に入る。
「こ、ここは……? 俺は……?」
喉元に冷やりとした何かが当たる。平べったくて先が尖ってる…刃物か? 当然だが有利なのは相手なんだ、動揺を隠さず、けれど頭は冷静に。
「誤魔化しはいらない。さっきから呼吸がほんの少し変化してきてるな。やっぱあの咆哮で起きたんだな……」
呼吸の変化……当たり前か。ついさっきまで高校生だった俺に肉体的な動揺を悟らせないなんて出来ない。なら、しっかりとフェル以外に意識を集中させてやる。
「確かに……凄い咆哮だったよ。おかげで運ばれる時に殴られた頭が痛む」
「悪かったな、そんな体でも暴れられちゃめんどくさいからな」
よし、咆哮の正体からは意識を逸らせたか。元から、フェルが獣の召喚でもしたんじゃないかって予想してるし、そこまで大事じゃないんだろう。少し情報を引き出せないか……?
喉元から刃物らしいものは引かれたみたいだ。少しだけ、呼吸が落ち着いた。
「ピグマの従者か?」
「一応な。あのクソデブ、人使い荒いし、金はケチりやがった。何回背後からぶっ殺してやろうかと思ったか」
「殺そうとはしなかったのか?」
コイツ、ピグマには相当悪い印象を持ってるみたいだ。だったら上手く意見を合わせて、味方にするのが得策だろう。
「やんねーよ。殺したって仕事が無くなってただけだろうしな。というか、兄ちゃんは大分冷静だな。それだけメイドの嬢ちゃんを信頼してんのか?」
ヤバい…流石に怪しまれたか? 答え方次第では、一気にヤバイ……殺される……? それは……嫌だ、怖い。とても怖い。本気で怖い。死にたくない。
息がまともに吸えない。頭がクラクラする。やべぇ……倒れそうだ。
「おっと、大丈夫か? ……あー、強くやりすぎたかな?」
前に倒れそうになった時、声の主に抱きしめられるように支えられる。柔らかい……コイツ、女なのか? 声の主は俺を柔らかい何かに優しく寝かせる。もしかしてベッドに乗せられてたのか?
「水でも取ってきてやるよ。ちょっと待っとけ」
これは……千載一遇のチャンスか!?
『フェル! 魔力で感覚を研ぎ澄ませ! 今からドアが開く!』
フェルへの言葉は届いただろうか……? ドアの蝶番が小さく軋む……聞こえたか? 聞こえててくれ……!
(捕捉しました……空間 : 転移)