勇者潰しを考えろ
あの後、質問に答えてくれたサラマンドラを見送った。勿論、逃がさずに仕留めるという選択肢もあったけど……それはサラマンドラの敬意への裏切りになってしまう。フェルも納得してくれて、サラマンドラには何もしないでいてくれた。サラマンドラの去り際に、ゼピュロスから暖かい風が吹いていったのは……まあ、気にしないでおくか。
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ヴァルトに戻りたいんだけど……サラマンドラの言葉が引っかかり、ここで会話を続ける事にした。勇者潰し……勇者に対して後手を取らずに、先手を打つって……どういう事だ?
「魔王の目的はいついかなる時も世界の侵略だ。でも、そう考えると……先手を打ってるように見えるんだが……?」
「そうですね。魔王が勇者に対し、後手に回っているようには見えません。魔王が復活し、勇者が打ち倒しに行く。魔王は先手を打てているように感じます」
確かに……話を聞く限り、魔王が後手って思えない。勇者潰しって何を目的として……
(イヤ、魔王ハ後手ダナ)
「……どういう事だ?」
(魔王ガ行ウ世界ノ侵略ニハ段階ガ有ル。魔王ノ意思ノミガ目覚メ、部下ガ侵略ヲ開始スル第一段階。魔王ノ身体モ目覚メ、魔王ガ動キ出ス第二段階……コウ見レバ魔王ガ後手ト見レナクハ無イ)
そういう見方だったら、魔王が後手だけど……何を持って勇者に先手を打った事となるんだ? ゼピュロスを殺す事が勇者に先手を打つ事になるのか……?
「まさか……守護神獣を殺す事で勇者を生みださないようにする……なんて事じゃ?」
「そうか……そういう事か。だったら、今すぐハインリヒ王国から情報を……」
(レイジ、今スグニ水ノ守護神獣ノ国ニ行ケ)
水の守護神獣の国……? どんな国なのか知らないけど……嫌な予感が……
(今、最モ勇者ニ近イノハオ前ダ。天照、トール……俺ナンカハ戦闘ニ慣レテル。特性モ戦闘ニ向イテルシナ。ケレド、アプサラスハ違ウ。アイツガ一番殺シヤスイ。ソノ前ニ、セメテ水ノ左腕ヲ手ニ入レルンダ)
一番勇者に近いのは俺……って、でも今動けるのは俺やフェル位だし……行くしか、無いのか……!? 魔王なんてフェルが居れば、何とか出来そうだし……でも、守護神獣の奴らって良い奴だし、最後の1人だけ見捨てるって言うのも……
(アリャ時間カカリソウダナ。フェルトヤラ、コイツヲ受ケ取レ)
「これは……マフラー……でしょうか?」
(天照、トールト渡シテ、俺ガ渡ナイッテイウノモアレダシナ。癒シノ風ハ、レイジノ神経ノダメージモ容易ク治セル。風ハ常ニ自然ト共ニ有ル。魔法ガ使エナイ場所デモ使エルガ……現在地ノ自然ノ美シサガ、回復速度ニ影響スルンダ)
「素晴らしい装備ですね、ありがとうございます」
本日の余談
レイジ:チートでも神経の損傷は治せないのか?
フェル:申し訳ありません……神経を治療する時には魔力や神力、闘気では逆に傷つけてしまうんです