最後の切り札
ハンドガンを腰に収め、2本目の剣を背中から抜き放つ。ハンドガンを直接当てる事は不可能だ……身体強化を使う事も出来ないし、もう目潰しが通用するとも思えない。空気銃や仕込風矢も……当たる気がしないな。
「ほほう、次は武術で来るか。先代の勇者と違って多芸で好感が持てるぞ?」
「武術って程の物じゃないけどな……」
意外な所で、ネルガの事が聞けたな……そりゃ、アイツと比べれば魔法が使えるだけで多芸に見えるだろ。にしても、俺が今回の勇者みたいな言い方しやがって……俺に勇者の資格なんて無い。俺如きが魔王を倒す英雄になってはいけないんだ!
「スー……ハー……フッ!」
一呼吸置く。零から全速力へ移行し、サラマンドラへと一直線に向かって行く。俺の突進に対して、サラマンドラは落ち着いた様子で剣を両手で水平に構える。
「セイッ!」
「ハッ!」
両手の剣を交差させながら振り上げ、X字に振り下ろす。その一撃をサラマンドラは一文字に受け止める。両手で剣を押し込もうと力を込めるが、サラマンドラは逆に力を抜いて俺を受け流した。
「体捌きで鍔迫り合いを仕掛けようとしているのが丸わかりである……静流刀」
俺の体勢が前に崩され、無防備な背中に熱い衝撃が走る。燃える剣で殴られた……!? 片手で地面を押し、風を操りながら後ろに振り向いて着地する。ただ力押ししてくるだけじゃない……俺とは比べ物にならないほどに戦いに慣れてる。
「貴様が望むのなら、剛の剣でお相手しよう……炎刃、一刀入魂!」
サラマンドラが上段の構えを取ると、刀身から赤とオレンジの炎が噴き出して巨大な刀身となる。振り下ろされる圧倒的な力。間違いない、これは避けなければ俺は死ぬ、死ぬというのに……
「っ!? レイジ様!?」
(オイ、何倒レテンダヨ!?)
手足の感覚が無くなり、その場に崩れ落ちる。こんな肝心な時に……義手義足の充電が切れちまった。これじゃあ、避ける事もハンドガンで最後の抵抗する事も出来ないのなら……もう信じる事が出来るのは……!
「動けぬ相手を斬るのは気が引けるが……面白い、その体で……その絶望的状況で有りながら、目が死んでいない! それならば拙者も斬る事に遠慮無し! 塵と化せええええええ!」
俺の助けられる才能を信じるのみ! どんな距離だろうが、結界があろうが、俺の絶望を打ち砕き、希望の星と変える最強のメイドにして相棒にして、俺の嫁!
「フェルウウウウウウゥゥゥゥ!」
「……はい、こちらに」
俺の目の前に紫の転移門が現れ、見覚えのあるメイド服の背中が見える。その声は俺を安心させ……ちょっと待て、なんでフェルの頭に銀の垂れた犬耳が付いてんだ。というか、尻尾も生えてるな!?
「私の大切な主人であり、夫であるレイジ様と私の大切な親友であるレオが結ばれたのです。これ以上、レイジ様に無理をかけるわけにも。レオに心配をかけさせるわけにもいきません……ここからは、私がレイジ様の武器として戦いましょう。宜しいですね?」
「ククク……圧倒的強者の気配。異論無し!」
フェル:~~~が結ばれたのです。これ以上……
レイジ:■■■■ーーーッッッ!?
レオ :それ今言う事じゃねえだろ!?