ピグマの屋敷を攻略せよ 対一般(?)メイド
あの時、ピグマを潰させておいて正解だった。そう思うくらいに、ピグマの従者は厄介だった。
「そこっ!」
「っ! させません!!」
ピグマのメイドはフェルの隙をついて、俺に仕込み刀を振り下ろそうとこちらへ駆け出す。振り下ろされる刃に冷や汗をかくが、黒い影が飛び込み、激しい金属音とともに仕込み刀が弾かれた。メイドは追撃を受けないようにバックステップで距離を取る。
フェル、ナイフでは分が悪い。武器を切り替えるべきだ。
「賛成です……形状 : 変化 : 剣」
フェルのナイフが輝き、その形状を変化させる。20センチメートル程度の小さなナイフが1メートル以上在りそうな片手持ちの諸刃の剣へと変化させた。聞いたことのない呪文にメイドの顔がハッとする。
フェル、そいつ絶対逃がすなよ。
「勿論です。付与 : 炎」
フェルが魔法で刃に炎を纏わせると、メイドの顔が強張る。フェルは直線的な動きで、メイドとの距離を詰める。フェルの縦に振り下ろされた炎の刃をメイドは真横に軽く体勢を崩しながら避けた。フェルは止まれずに床を滑りながら、こちらへ振り返る。しかし、メイドはそのわずかな隙に体制を立て直し、こちらへと飛び出す。
先ほどと違い、フェルは間に合わない。メイドの刃は先ほどのより、俺への距離を詰めていく。
「貰いましたっ!」
「残念だな」
俺の目の前で先ほどのように、黒い影が仕込み刀を受け止める。
「なっ……そんなっ!?」
メイドは振り返り、フェルの位置を確認する。しかし、フェルはこちらを振り向いたままの姿勢で止まり、ニヤリと笑っていた。
ならば、俺への仕込み刀を防いだのは、炎を纏う剣。その剣を持つ者は……ニヤリと笑うフェルだった。
「分身……出来るものなのですね」
メイドは咄嗟に、同じようにバックステップを取る。しかし、それは完全なミスだ。さっきとは状況が少し違う。
「チェック……」「……メイトです!」
俺への攻撃を防いだフェルがメイドを追いかけ、後ろのフェルが迫りくるメイドへと距離を詰める。
「ゲフゥッ!!」
メイドの腹部と背中に、フェルが持つ剣の柄が叩き付けられる。女性が上げるべきではない悲鳴をあげ、女性の体が崩れ落ちる。メイドを背中から襲ったフェルが消え、正面から追い詰めたフェルが残る。剣を振るい、纏う炎を消し去った。
「まさか、魔力で形だけを作り上げ、それに武器を持たせて疑似的な分身にするとは……流石です、レイジ様」
「よしてくれ、俺は提案しただけ。実行したのはフェルさ」
フェルの手から剣が消える。気絶したメイドを縛り上げ、フェルは周りを見渡していた。
「妙ですね……付与とはいえ、魔法は魔法。気付いている者が居てもおかしくないんですが……」
確かに。わずかとはいえ、魔力が揺らぐのを俺ですら感じた。ならば、魔法を扱える従者ならば気付いていてもおかしくない。
と、考えていると、ふわりと体が車椅子から離れた。
「レイジ様! ……くっ!」
フェルが俺を抱え去ろうとする者への攻撃を停止する。目の前にフェル。そう、俺が盾にされた。
くそっ、完全に油断していた。フェル、俺の読心の範囲は!?
「この世界でしたら、どこまでもです!」
なら、良い。追ってこい!
「あのメイド嬢ちゃん、何言ってんだ?まっ、いっか」
俺を抱える者の少女の声が聞こえると、頭を殴られた感覚…しまっ……意識……が…………