勇者候補の苦悩
伝説の勇者……って、何で俺が?
「右腕に火を、左腕に水を、右脚に風を、左足に雷を宿す者。勇者の資格を手に入れるだろう……っていう御伽噺があるんだよね。最近は資格無しで魔王を封印した勇者がいたから、忘れられてたんだけどね」
「ネルガのおっさんの事だな」
確かにネルガならやりかねない……というか、先代の勇者がまだまだ現役なんだけど。それに今は風の右脚とやらしか持ってないし、正確には宿してるんじゃなくて借りてるんだけど……
「昔の言い伝えだし、多少の違いはあるだろうけれど……今の所、勇者候補は君だろうね。だからゼピュロス様も迷う事無く君を連れてきたんだ」
「そんな事言われたって……俺には何か出来ると思えないし」
「そう深く考えなくても良いんだ。今回において君が勇者であるかなんて関係ないよ」
今回は吹き荒れる右脚での撤退支援と防衛で戦う事がメインじゃないもんな。突然、勇者だ何だって言われたって……理解も納得も出来ない。状況は分かったけど、何か……言葉に出来ないけど……嫌だな。
「そう言えばいつものメイドちゃんは居ないけど、どうかしたのかい?」
「フェルの事か? アイツなら、今はハインリヒで様子見だ。何かあれば、アイツなら結界なんて関係なだろ」
「え……結界無視できる人間ですか……?」
「安心しろ、シシリー。味方確定だし、強さで言ったらゼピュロス様と並ぶ程だ」
「えええええっ!? あのゼピュロス様とですか!? 姐さん……どんな人と知り合いなんですか……」
襲撃は確か……2~3日後か。何が起こるか分からないし、色々練習しておかないと……
「…………」
◆
ヘンジの研究所を離れ、俺はヴァルト付近の森に来ていた。所々に焼け焦げた跡が見られる。こんな所まで敵が迫ってきたという事か。ゼピュロスは俺を戦わせる気は無いと言っていたけど、ここまで来たら俺も戦うしかない。
「どーしたんだよ? ウジウジしやがって、らしくもねえ」
「レオ……」
頼れるメイドの声に俺は振り向く。露出の多い服装に目線を逸らし、彼女の名前を呼んだ。
「オレ達ヴァルトの住人はよぉ……そうやって何かあると、暴れて発散するんだよ。かかってこいよ!」
身の丈より大きな斧をレオは取り出した。そうだな……吹き荒れる右脚にも慣れなきゃいけない……だったら、1人で変に考え事するよりも、誰かと体動かした方が良いよな。妙にモヤモヤするし……レオの言葉に甘えるとしようか。
「ほら、模擬戦と行こうぜ? レイジ様よぉ!」
半身に構え、重心を落とす……吹き荒れる右脚に意識を集中させ、自身の体を中心に風を渦巻かせる。今俺に出来る事を見つけてやる。
「行くぜ、レオ!」
「応っ!」
本日の省かれシーン
ヘ:あれ、レイジは?
レ:クンクン……あっちだな
シ:スンスン……人間の方向って分かりやすいですね
ヘ:(プライバシーもあったもんじゃないな……)