行動開始 レイジ編
大変遅くなりました、申し訳ありません!
ゼピュロスは襲撃に備え、何処かに行ってしまった。俺はというと、ヘンジの研究所にやってくる怪我人の治療に挑戦していた。
「吹き荒れる右脚よ! 癒しの風を!」
この癒しの風に大きな動作は必要ない。床を音も出ない力でトンと叩く。足元から暖かな風が吹いてきて、研究所内を満たしていく。椅子に座った獣人たちの怪我を緑の光が包んでいき、健康な体に戻していった。
「おお……兄ちゃん、ありがとな!」
「ヘンジさんも凄いけど、貴方も凄いのね……!」
「わーい、ありがとー!」
「えっと……どういたしまして」
成功したみたいで……良かった。大柄な狼の獣人に背を叩かれながらお礼を受ける。小柄な兎の獣人が嬉しそうに腕の怪我があった箇所を擦りながら賞賛してくれる。幼い虎の獣人がぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでくれる。
……こんな小さな子まで傷ついているなんて、魔王軍……どこまで非道なんだよっ!
「次の患者さんは私が対応するから、レイジは休んでて」
「あ、ああ……分かった」
怪我が治った患者さんには帰っていただいて、俺は空いた席に雑に座りこむ。吹き荒れる右脚……まだまだ使いこなせていない。本来なら千切れた手足だって治せる筈なのに……俺には出来なかった。まだ軽度の火傷や軽傷しか治療できていない……
こんな難しい魔法をフェルやレオは俺に使ってくれていたのか。
「フー……お疲れー。何か飲むかい?」
「…………」
「……普段はコーヒー派なんだけどね」
治療を終えたヘンジが戻ってくる。俺はヘンジに迷惑をかけてしまってはいないだろうか……俺が居なくてもヘンジだけでも治療は出来る。役に立てていないんじゃないだろうか……?
「紅茶だよ、リラックス効果があるんだ。砂糖も勝手に入れておいた。とりあえず飲んでみると良い」
いつの間にか、ヘンジがティーカップを俺に差し出していた。温かくて柔らかな良い香り……受け取り、勧められ通りに1口飲んでみる。熱くて、甘すぎて、風味が鼻を抜けていく。ヘンジの言う通りに、心がちょっと落ち着く。
「どうしたんだい? 妙に落ち込んでいるね?」
紅茶を1口飲んでから、優しく問い掛けられた。シェーンに来てからはあまり聞かなくなった、大人の穏やかな語り掛ける口調。カグヤが似た感じの声だけど、ヘンジの方が低い声で落ち着く……
「俺、ヘンジの邪魔になってるんじゃないかって……吹き荒れる右脚の性能を活かしきれてないし、治療に時間かかるし……」
「そうかなぁ? 私は凄い助かってるんだけど」
「いやいや、無理に褒めてくれなくても良いよ」
「これは医学系の思考なんだけどね。軽傷者10人よりも重傷者1名を優先して治療しなければならないんだよ」
ヘンジの話は、地球に居た頃に聞いた事があるような気がする……最近のドラマやゲームでもよく言われる話だ。今回の場合では……俺が治療できないような人を重傷者に当てはめるんだよな?
「私は基本的に重傷者となる手足を失った者に義手を付けたり、千切れた者に縫合したりしなければならない。その間に君が軽傷者を纏めて治療してくれる。どれだけ時間がかかろうと、私1人の時に比べれば比べ物にならない時短だ。君を邪魔だなんて思うものか」
「そうか……俺は、役に……ん?」
不意に、脇腹辺りの服を引っ張られる。さっき癒した虎の少女が俺に小さな一輪の花を差し出してくれていた。名前も知らない白い花を、満面の笑みで差し出されたソレを受け取る。
「人間さん、治してくれてありがとーね!」
ああ、そうか……これで良いんだ。今は出来る事を一生懸命やれるようになれば、ちゃんと役に立っているんだな……助けられたんだな……俺の力で、誰かを!
「人間さん、泣いてるのー? お花、嫌いだったー?」
「いいや、彼はとても嬉しくて泣いているのさ」
ヘンジさん、こんなにまともでしたっけ?
本日の省かれシーン
ヘ:これを着てみないかい?
レ:んー……なっ!? ナース服なんて着るわけないだろ!?
ヘ:えー……似合うと思ったのに……
レ:ないない。誰も喜ばな……
フ:(私が喜びます)
レ:アイツ、直接脳内に……?